《この記事の執筆者》

当サイト「すいかつねっと」の運営者。水素の可能性に魅了され、日々独自に探求する水素健康アドバイザー。主に海外の論文をもとに水素を研究し、少しでも水素を活用して幸せになれればと情報を発信。
水素ガス吸入療法は、2016年に厚生労働省が先進医療Bに認定した先進的な治療法です。
本記事では、なぜこの療法が厚生労働省から先進医療Bとして認定されたのか、そしてなぜ取り下げられたのか、その背景と経緯を徹底的に解説します。
水素ガス吸入療法を取り入れる上で欠かせない情報になるため、ぜひ最後までご覧ください。
水素ガス吸入療法は、2016年に厚生労働省によって「心停止後症候群」を対象として先進医療Bに認定。研究では生存率改善などの有望な結果が得られたものの、医療環境の急激な変化により継続困難となり、2022年に先進医療Bから取り下げられた。
水素ガス吸入療法が先進医療Bに認定された背景

水素ガス吸入療法(以下、水素吸入療法)は、水素を含むガスを体内に取り込むことで体に有益な効果をもたらすと期待される新しい療法です。
特に「心停止後症候群」への予防・軽減効果が注目され、2016年に厚生労働省はこの療法を先進医療Bとして認定しました。これは、水素吸入療法が将来的に標準医療として公的保険の適用を受ける可能性を示す大きな一歩となりました。
ここでは、そもそも先進医療Bとは何か、その制度の趣旨、そして水素吸入療法が先進医療Bに認定された経緯を整理します。
先進医療Bとは?
先進医療とは、将来的に保険診療への移行が見込まれる先端的な医療技術を、実際の臨床現場で評価するための制度です。
先進医療Bでは、多数の医療機関が参加する臨床研究試験を通じ、安全性や有効性を検証し、適切なエビデンス蓄積により将来の保険適用を目指します。
先進医療に認定されることで、自由診療(この場合、水素吸入療法)と保険診療を併用することができるようになります。
自由診療と保険診療の併用を可能にする意義
自由診療と保険診療の併用を可能にすることで、治療を受ける患者の経済的な負担を軽減できます。
日本では、原則として保険診療と自由診療の併用は認められていません。しかし、先進医療Bは将来的な保険導入の可能性がある有望な医療技術を対象とするため、特例的に併用が許されています。
これにより、患者は完全自費ではなく一定の保険適用部分を含んだ治療を受けられ、研究機関は臨床データを得て保険適用化への道筋を探ることができます。
心停止後症候群への効果期待が高まった経緯
心停止後症候群とは、蘇生処置によって心拍が再開した際に全身臓器や脳に二次的ダメージを残す深刻な状態です。これにより、脳障害、心筋障害、全身性虚血再灌流障害が生じます。
これまでに行われた動物実験では、水素ガス吸入がこのような臓器障害や脳機能低下を軽減し、生存率向上に寄与する可能性が示唆されていました。しかし、まだ人を対象とした十分な臨床研究は行われておらず、保険適用のためのエビデンスが不足していました。
こうした背景から、厚生労働省は2016年に水素吸入療法を「先進医療B」に認定。実際の医療現場で人を対象として臨床研究を行えるようにし、その有効性や安全性に関する科学的根拠の蓄積が目指されました。
先進医療Bとしての水素吸入療法の臨床試験内容と結果

先進医療Bに認定された後、国内15施設が参加する比較的大規模な多施設共同研究が進められました。
対象となったのは、院外で心停止を起こし、蘇生により心拍は再開したものの、意識回復がみられない症例です。
研究では、標準的な体温管理療法(低体温療法)に加え、水素投与群と非投与群の2群を設け、18時間にわたり2%水素添加酸素を吸入する群と標準治療のみの群を比較しました。
先進医療Bでの研究結果
研究の結果として、水素ガスを吸入した群で生存率や良好な神経学的転帰(後遺症がほとんど残らない状態)の割合が、非投与群と比較して改善傾向がみられました。
具体的には、90日後に後遺症がほとんどない状態で回復した割合は、水素非投与群の約21%に対し、水素投与群では約46%と2倍以上の差が見られました。また、生存率も水素投与群(約85%)が非投与群(約61%)より高く、20%以上の改善が報告されました。
ただし、最終的な統計的有意性を確保できるだけの症例数が集まらなかったため、「水素吸入療法が確実に有効」と断定するには至りませんでした。それでも、さらなる研究を行う価値があることを示唆する有望なデータであったといえます。
副作用に関する知見
一般的に、薬や治療などの医療行為には副作用やデメリットが付きものです。
しかし、研究期間中、水素ガスの吸入による明確な副作用は確認されませんでした。これは、水素吸入療法が安全性の観点から見ても、有望なアプローチであることを示しています。
薬や治療には往々にして軽度なものから重度なものまで副作用がついて回りますが、水素吸入療法にはそういったネガティブな点がない可能性が示され、安全で効果的なアプローチである期待が高まりました。
水素ガス吸入療法が先進医療Bから取り下げられた理由

上述のように、水素吸入療法は先進医療Bに認定されて以降、有望な結果を示していました。しかし、2022年には先進医療Bから取り下げられることになります。
「効果がなかったのか?」と誤解されがちですが、実際には医療環境の激変とデータ不足が大きな要因でした。
取り下げ決定の経緯
研究が始められてから数年後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に大流行しました。
世界的感染が広がった2020年以降、日本の医療現場も新型コロナウイルス感染症への対応に追われ、救急医療体制はひっ迫。当時『医療崩壊』という言葉が頻繁に報道され、医療体制の逼迫は社会的な課題となっていました。
こうした状況下で、心停止後症候群の症例を計画通り(360例)集めることは極めて困難となりました。
本来であれば、十分な症例数を基に統計的に有意な結論を導くはずでしたが、医療リソースの偏りや感染対策の優先により研究継続は不可能に。結果、わずか73例の時点で「新規症例の追加が困難」と判断され、研究は中止されました。そして、それに伴い水素吸入療法は先進医療Bから取り下げられることになりました。
「効果がないから取下げられた」のではない理由
「取り下げ」という事実から、「水素吸入療法には効果がなかったのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、これは正確ではありません。前述のとおり、限られたデータながらも生存率や良好な神経学的転帰が改善する可能性を示す傾向は確認されていました。
問題は、十分な症例数を集められず、統計的に「有効性」を確定できる段階に至らなかった点にあります。つまり、「効果がないから取り下げられた」のではなく、新型コロナの流行で研究継続が困難になり、必要なデータ不足に陥ったことこそが、先進医療Bからの取り下げに至った真の理由だったのです。
今後の再評価に向けた余地
今回の取り下げは「水素吸入療法が将来にわたって認められない」という意味ではありません。状況が改善し、十分な数の症例が集められる新たな研究体制が整えば、再び有効性が検証され、保険適用への道が開ける可能性は依然として残されています。
安全性に関する懸念がほとんどない上、過去のデータでも有望な結果が示されていたため、改めて研究環境が整えば見直される余地は十分にあります。水素吸入療法が標準医療として認められる日は、さらなる研究の積み重ねと環境整備次第で、今後も期待できるといえるでしょう。
まとめ:水素吸入療法の今後と展望
水素吸入療法は、厚生労働省から先進医療Bに認定されたものの、その後の新型コロナ蔓延の影響を受け、十分な症例数が集められず、先進医療Bから取り下げられてしまうこととなりました。
しかしながら、高い安全性と後遺症抑制や生存率改善への効果が示され、今後の進展に大いに期待が持てる結果が報告されました。
本研究は神経領域に注目したものですが、現在ではがんや生活習慣病への応用、さらには美容・疲労回復分野への可能性が示唆されており、研究は多方面で拡大しています。
水素吸入療法が一般的な保険診療に至るには、越えねばならないハードルがいくつかあり、さらなる研究が必要です。現段階では、副作用がないことを踏まえて、水素吸入療法を取り入れる場合は、それぞれの疾患に対する現行治療の補助的な位置づけで行うとよいでしょう。