《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
厚生労働省の『患者調査』によると、令和2年時点での日本国内のアトピー性皮膚炎患者数は125万人となっています。
多くの日本人が悩まされているアトピーには根本的な治療がまだ見つかっていないため、症状を抑えて日常生活への支障を軽減するという対処に留まっています。
そんなアトピー性皮膚炎に対して、抗酸化作用や抗炎症作用のある水素吸入療法が有効ではないかと近年注目を集めています。
本記事では、水素吸入療法がアトピー性皮膚炎の予防や改善に役立つのかについて、最新研究をもとに考察していきます。
《▼YouTube動画版での解説▼》
アトピー性皮膚炎ってどんな病気?
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が低下することでかゆみを伴う湿疹ができる病気です。
よくなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。
重症な場合には強いかゆみなどの症状で日常生活に支障を来すケースも珍しくありません。
まずは、アトピー性皮膚炎の特徴について見てみましょう。
アトピー性皮膚炎の原因
近年の研究から、アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能や免疫機能を担う遺伝子の変異が関係していることが明らかになっています。
アトピー性皮膚炎はアレルギーの一種。
アレルギーを起こしやすい体質に加え、皮膚のバリア機能が低下することでダニやほこりなどアレルギーを引き起こす物質に反応して発症すると考えられています。
一方で、アトピー性皮膚炎は以下のような要因があると悪化しやすいことも分かっています1)。
- 遺伝
- 空気の乾燥
- 気温の上昇
- ストレス
- 寝不足
- 衣類の摩擦
- 化粧品や洗剤などの化学物質
アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎はかゆみを伴う湿疹ができて、良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。
湿疹は顔、首、肘や膝の関節などに左右対称に現れることが多く、症状の強さには個人差があります。
重症な場合には非常に強いかゆみが生じるため、掻きむしってさらに皮膚のバリア機能が低下します。
そうなると、どんどん症状が強くなるという悪循環に陥るケースも少なくありません。
アトピー性皮膚炎は他のアレルギー疾患を併発しやすい
アトピー性皮膚炎は、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、喘息など他のアレルギー疾患を併発しやすいのも特徴の一つです。
複数のアレルギー疾患をお持ちの方も多く、アレルギーを起こしやすい体質が発症に関係していると考えられています1) 2)。
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎を根本的に治す方法はありません。
そのため、症状を抑えて日常生活への支障を軽減することが治療の目標となります3)。
アトピー性皮膚炎は皮膚の炎症やアレルギーを抑えるための薬物療法が主体となります。
また、皮膚のバリア機能を改善するため、皮膚を清潔にして保湿をするといったスキンケアの継続も大切です。
水素吸入療法はアトピー性皮膚炎の予防や治療に役立つ?
水素吸入療法がアトピー性皮膚炎の予防や治療に役立つ可能性を示唆する研究結果が報告されています。
アトピー性皮膚炎の症状の現れ方には個人差があります。
重症な場合には強いかゆみなどで日常生活に支障を来すケースも多く、さらに整容面にも影響を与えるため深刻な悩みを抱えている方は少なくありません。
現在でもアトピー性皮膚炎の新たな予防や治療方法を模索する研究が続けられているのが現状です。
水素吸入療法とアトピー性皮膚炎の関係を示す研究結果を詳しく見てみましょう。
酸化ストレスはアトピー性皮膚炎の要因となる
2013年に、酸化ストレスがアトピー性皮膚炎の要因となっている可能性を示唆する研究結果が報告されました4)。
この研究では、アトピー性皮膚炎の患者25人と健常者25人の血液中の酸化ストレスを示す指標と抗酸化物質の量を測定し、比較しました。
その結果、アトピー性皮膚炎の患者は健常者よりも酸化ストレスを多く受けており、抗酸化物質が減少していることが明らかになりました。
抗酸化物質の減少は酸化ストレスに対抗するために消費した結果と考えられます。
酸化ストレスを軽減できる水素吸入療法は予防に役立つ?
この研究結果から、アトピー性皮膚炎の発症には酸化ストレスが関与している可能性が示唆されました。
限られた人数での比較検討であるため、確実な関与があると断言することはできません。
しかし、酸化ストレスを軽減できる水素吸入療法がアトピー性皮膚炎の予防に役立つ可能性は否定できないでしょう。
今後のさらなる研究の進展により、水素吸入療法が発症予防に応用されることを期待します。
水素水はアトピー性皮膚炎の症状を改善させる
2017年に、水素水(水素ガスが溶けた水)がアトピー性皮膚炎の炎症を改善させる可能性を示唆した研究結果が報告されています5)。
この研究では、アトピー性皮膚炎を発症させたマウスに4週間に渡って水素水を投与した群と通常の水を投与した群で投与後の症状の変化を比較しました。
その結果、水素水を投与した群は有意にアトピー性皮膚炎の症状が改善したことが明らかになっています。
他にもいくつか同様のマウス実験で、水素水を投与したマウスは投与していないマウスに比べて有意に症状が改善しただけでなく、炎症やアレルギーを引き起こす物質が減少していたことも明らかになっています。
動物においては水素水のアトピー性皮膚炎を改善する効果が明らかになりつつあります6, 7)。
水素風呂はアトピー性皮膚炎の症状を改善させる?
2023年には、水素風呂(水素水での入浴)がアトピー性皮膚炎の症状を改善させる可能性を示唆する研究結果の報告されました8)。
この研究は、アトピー性皮膚炎患者6人が水素風呂に入った後の症状変化を比較検討しました。
その結果、4週間後には体幹や四肢など浴槽に完全に浸かった部位の病変部は皮膚の乾燥が改善され、かゆみも軽減したことが明らかになりました。
さらに、水素風呂への入浴を2週間中断したところ、症状は悪化。
水素風呂への入浴を再開すると症状の改善が認められたとのことです。
水素吸入療法もアトピー性皮膚炎の症状改善に役立つ可能性
これらの研究結果から、水素がアトピー性皮膚炎の症状を改善する可能性が示唆されました。
もちろん今後さらに研究を重ねていく必要があります。
しかし、水素がアトピー性皮膚炎に治療に役立つ可能性は期待できるでしょう。
水素水よりも多くの水素を効率的に取り込める水素吸入療法もアトピー性皮膚炎の治療に役立つ可能性がある考えられます。
また、水素吸入器は製品によって浴槽の水に水素を溶かすこともできるため、水素吸入器を用意しておけばアトピー性皮膚炎の治療の役立つ可能性があるでしょう。
さらなる研究の進展に期待しましょう。
【私はこう考える】水素吸入とアトピー
アトピー性皮膚炎は根本的な治療方法がありません。
治療の目的は症状を落ち着かせて日常生活への支障を軽減するにとどまります。
症状が強い場合には、激しいかゆみから睡眠が妨げられるなど多くの悩みを引き起こす病気でもあります。
今回ご紹介した2つの研究結果は、水素吸入療法がアトピー性皮膚炎の予防や治療に役立つ可能性を示唆しました。
特に水素水を投与した研究では、実際にマウスのアトピー症状が改善したことが明らかになっています。
また、水素ガスを水に溶かした水素風呂によってアトピーが改善したという人の症例もちらほら報告されています。
まだ確実な効果があると断言できる段階ではありませんが、今後の解明と治療への応用に期待が寄せられています。
水素吸入療法は体への負担なく自宅で行うこともできるため、現時点でアトピー性皮膚炎に悩んでいる方は補助的な治療として試してみるのもよいでしょう。
参考文献
- アトピー性皮膚炎ってどんな病気?|九州大学
- アトピー性皮膚炎|アレルギーポータル(一般社団法人日本アレルギー協会)
- アトピー性皮膚炎|皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
- Sivaranjani, N., Rao, S. V., & Rajeev, G. (2013). Role of reactive oxygen species and antioxidants in atopic dermatitis. Journal of clinical and diagnostic research : JCDR, 7(12), 2683–2685. https://doi.org/10.7860/JCDR/2013/6635.3732
- Kajisa, T., Yamaguchi, T., Hu, A., Suetake, N., & Kobayashi, H. (2017). Hydrogen water ameliorates the severity of atopic dermatitis-like lesions and decreases interleukin-1β, interleukin-33, and mast cell infiltration in NC/Nga mice. Saudi medical journal, 38(9), 928–933. https://doi.org/10.15537/smj.2017.9.20807
- Yoon, Y. S., Sajo, M. E., Ignacio, R. M., Kim, S. K., Kim, C. S., & Lee, K. J. (2014). Positive Effects of hydrogen water on 2,4-dinitrochlorobenzene-induced atopic dermatitis in NC/Nga mice. Biological & pharmaceutical bulletin, 37(9), 1480–1485. https://doi.org/10.1248/bpb.b14-00220
- Ignacio, R. M., Kwak, H. S., Yun, Y. U., Sajo, M. E., Yoon, Y. S., Kim, C. S., Kim, S. K., & Lee, K. J. (2013). The Drinking Effect of Hydrogen Water on Atopic Dermatitis Induced by Dermatophagoides farinae Allergen in NC/Nga Mice. Evidence-based complementary and alternative medicine : eCAM, 2013, 538673. https://doi.org/10.1155/2013/538673
- Hu, A., Yamaguchi, T., Tabuchi, M., Ikarashi, Y., Mizushima, A., & Kobayashi, H. (2023). A pilot study to evaluate the potential therapeutic effect of hydrogen-water bathing on atopic dermatitis in humans. Advances in Integrative Medicine. Advance online publication. https://doi.org/10.1016/j.aimed.2023.10.003