《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
「悪玉コレステロール」や「善玉コレステロール」という言葉は聞き覚えがあるかと思います。
なんとなく「悪玉コレステロールが高いと健康に良くない」というイメージを持っている方も多いでしょう。
この認識は正しく、実際に悪玉コレステロール値が高いことで動脈硬化のリスクが上がります。
そして、そのまま放置すると脳卒中や心筋梗塞などの重大な病気の引き金になってしまう事もあります。
本記事では、病気のリスク増加にもつながるコレステロール値に対して水素吸入が効果をもたらすのかについて、最新研究データを用いて解説していきます。
コレステロールの特徴
コレステロールとは、私たちの細胞の膜、ホルモンなどを作るのに必要な脂質の一種です。
コレステロールというと「身体に悪い」というイメージを持つ方が多いかも知れませんが、コレステロールは私たちの体に必要な成分の一つなのです。
しかし、コレステロールの量が増えすぎたり減りすぎたりすると、健康に悪影響を及ぼすことが分かっています。
まずは、コレステロールの特徴について詳しく見てみましょう。
コレステロールの種類と働き
コレステロールには、いわゆる「悪玉コレステロール」と「善玉コレステロール」という2種類のタイプに大きく分けられます。
悪玉コレステロールはLDLコレステロールのことであり、肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ役割があります。
一方、善玉コレステロールはHDLコレステロールと呼ばれ、血管の壁に溜まったコレステロールを回収して肝臓に戻す働きがあります1)。
コレステロール値の異常によるリスク
LDLコレステロールが増えたり、HDLコレステロールが減ったりする病気を脂質異常症と呼びます。
脂質異常症を発症すると血管の壁にコレステロールが溜まるようになり、動脈硬化を引き起こします。
そのまま放置すると脳卒中や心筋梗塞など命に関わる病気の引き金になることも。
しかし、脂質異常症は自覚症状が生じることはなく、定期的な健康診断などでコレステロール値をチェックすることが推奨されています。
コレステロール値の異常への対策
コレステロール値を正常な状態に戻すには、食事や運動などの生活習慣を改めることが大切です。
生活習慣の改善をしても異常値が続く場合は薬物療法を行います2)。
近年では水素水(水素ガスが溶けた水)がコレステロール値の改善に役立つとの研究結果が報告されており、新たな治療法の開発に期待が寄せられています3)4)。
水素吸入はコレステロール値の改善に効果はある?
現在のところ水素吸入療法とコレステロールの関係を検討した研究は行われていません。
しかし、水素ガスを含む水素水がコレステロール値にどのような影響を与えるのか検討した研究結果が報告されています。
具体的な内容について詳しく見てみましょう。
水素はLDLコレステロール値を下げてHDLコレステロール値を上げる
これまでにいくつかの研究で、水素がコレステロール値の改善に役立つ可能性があるとする報告がされています。
水素水で悪玉コレステロールが減少
2013年に報告された研究では、メタボリックシンドロームの可能性がある20人に一日あたり0.9~1.0リットルの水素水を10週間飲用させ、コレステロール値などの変化が検討されました3)。
その結果、10週間後には被験者の総コレステロール値とLDLコレステロール値が有意に減少したことが明らかとなっています。
水素水で善玉コレステロールが増加
また、2010年には、メタボリックシンドロームの可能性がある20人に一日あたり1.5~2リットルの水素水を8週間飲用させた研究が行われました4)。
この研究では、8週間後にHDLコレステロールが平均して8%上昇したことが報告されています。
これら2つの研究から、水素水は悪玉であるLDLコレステロールを減らし、善玉であるHDLコレステロールを増やす可能性があることが示唆されました。
限られた人数での検討であるため確実に効果があるとは言えません。
しかし、水素水よりも多くの水素を取り込める水素ガスの吸入も同様の効果を得られる可能性があると言えるでしょう。
水素はコレステロール値の異常を改善する
水素水によってコレステロール値の異常による動脈効果の進行が抑制される可能性が報告されています。
コレステロール値の異常は放置すると血管の壁にコレステロールを沈着させ、動脈硬化を引き起こします。
2018年に報告された研究では、動脈硬化を引き起こしたマウスに水素水を飲用させた群と通常の水を飲用させた群を比較したところ、水素水を飲用したマウスは動脈硬化の進行が抑制されたことが明らかとなりました5)。
この結果は、水素が動脈硬化の進行を抑える働きを持つことを示唆するため、今後の新たな治療法の開発に大きな光を与えることになりました。
現在のところ動物実験の段階であり、人に対しても水素水が動脈硬化の進行を抑えると断言することはできません。
しかし、水素が動脈硬化を引き起こした血管に何らかの良い影響を与える可能性は高いと言えるでしょう。
水素ガスの吸入も水素水と同様の効果が期待できるかもしれません。今後のさらなる研究と治療への応用に期待します。
【私はこう考える】水素吸入とコレステロール値
コレステロールは私たちの体に必要な脂質である一方、増えすぎたり減りすぎたりすると動脈硬化などを引き起こし、場合によっては命に関わる病気の原因になる場合があります。
コレステロール値の異常は目立った症状を引き起こさず、知らない内に動脈硬化が進行していたというケースも少なくありません。そのため、日頃から生活習慣の見直しや定期的な健康診断によるチェックが推奨されています。
今回ご紹介した3つの研究結果から、水素はコレステロール値を改善。さらにコレステロール値の異常によって引き起こされた動脈硬化の進行を抑える可能性を持つことが示唆されました。
現段階では確実な効果があるとは言えませんが、生活習慣が気になる方、健康診断でコレステロールが高めと指摘をされた方などは水素ガスを取り込むことができる水素吸入を試してみるのもよいでしょう。
ただし、水素吸入は、あくまでもコレステロール値の改善を図る補助的な手段の一つです。すでに脂質異常症と診断されている方は医師が指示する治療と併用して行うようにしましょう。
参考文献
- 厚生労働省e-ヘルスネット『コレステロール』
- 厚生労働省e-ヘルスネット『脂質異常症』
- Song, G., Li, M., Sang, H., Zhang, L., Li, X., Yao, S., Yu, Y., Zong, C., Xue, Y., & Qin, S. (2013). Hydrogen-rich water decreases serum LDL-cholesterol levels and improves HDL function in patients with potential metabolic syndrome. Journal of lipid research, 54(7), 1884–1893. https://doi.org/10.1194/jlr.M036640
- Nakao, A., Toyoda, Y., Sharma, P., Evans, M., & Guthrie, N. (2010). Effectiveness of hydrogen rich water on antioxidant status of subjects with potential metabolic syndrome-an open label pilot study. Journal of clinical biochemistry and nutrition, 46(2), 140–149. https://doi.org/10.3164/jcbn.09-100
- Iketani, M., Sekimoto, K., Igarashi, T. et al. Administration of hydrogen-rich water prevents vascular aging of the aorta in LDL receptor-deficient mice. Sci Rep 8, 16822 (2018). https://doi.org/10.1038/s41598-018-35239-0