研究論文
水素吸入が肝切除手術後の肝障害を抑制する

水素吸入が肝切除手術後の肝障害を抑制する

一言まとめ

ブタに70%肝切除と20分の肝門部遮断を行い、2%水素ガス吸入の効果を調べたところ、水素吸入群で肝障害マーカーの上昇抑制、酸化ストレスの軽減、肝細胞のアポトーシス減少などの肝保護効果が見られた。

3分で読める詳細解説

結論

水素吸入は、大量肝切除後の虚血再灌流障害や門脈圧亢進による肝障害を、炎症や酸化ストレスの軽減により大幅に抑制する。

研究の背景と目的

大量肝切除時には、出血制御のために肝門部遮断(Pringle法)が用いられるが、これにより肝虚血再灌流障害が生じる。また残肝量が少ないと門脈圧が上昇し小肝症候群を引き起こす。これらは術後肝不全の主因となるが、いまだ有効な予防法はない。 そこで本研究は、選択的に活性酸素を除去する新たな抗酸化物質として注目される水素に着目。ブタの大量肝切除モデルにおける水素吸入の肝保護効果を検証した。

研究方法

  • 体重15-20kgの雄ブタ14頭を、70%肝切除(出血量50mL以下)と20分間の肝門部遮断の処置後、水素吸入群(2%水素ガス吸入、n=7)と対照群(n=7)の2群に無作為に分けた。
  • 術前・術後1時間・3時間に、血行動態、血清肝酵素(ALT、AST)、ヒアルロン酸、TNF-α、IL-6、肝組織中のマロンジアルデヒド(MDA)を測定。
  • 術後3時間に、残肝の組織学的評価(HE染色、電子顕微鏡、TUNEL染色、PCNA染色)を行った。

研究結果

  • 水素吸入群で、術後の門脈圧上昇が抑制される傾向にあった(有意差なし)。
  • 水素吸入群で、血清ALT、ASTの上昇が有意に抑制された(術後1h、3h)。
  • 水素吸入群で、肝組織中のMDA濃度の上昇が有意に抑制された(術後1h、3h)。
  • 水素吸入群で、血清ヒアルロン酸値の上昇が有意に抑制された(術後1h、3h)。
  • 水素吸入群で、類洞内皮細胞の剥離・破壊や類洞拡張、出血などの形態学的障害が軽度だった。
  • 水素吸入群で、残肝のTUNEL陽性細胞率(アポトーシス)が有意に低かった。
  • 残肝のPCNA陽性率(肝再生)は両群間で有意差はなかった。
  • 水素吸入群で、血清TNF-α、IL-6の上昇が有意に抑制された(術後1h、3h)。

Appendix(用語解説)

  • ALT、AST:肝細胞障害で上昇する血清酵素
  • ヒアルロン酸:類洞内皮細胞障害で上昇
  • マロンジアルデヒド(MDA):酸化ストレスマーカー
  • TNF-α、IL-6:炎症性サイトカイン
  • TUNEL染色:アポトーシスを検出
  • PCNA染色:細胞増殖を検出

論文情報

タイトル

Inhalation of hydrogen gas reduces liver injury during major hepatotectomy in swine(ブタの大量肝切除中の肝障害を軽減する水素ガス吸入)

引用元

Xiang, L., Tan, J. W., Huang, L. J., Jia, L., Liu, Y. Q., Zhao, Y. Q., Wang, K., & Dong, J. H. (2012). Inhalation of hydrogen gas reduces liver injury during major hepatotectomy in swine. World journal of gastroenterology18(37), 5197–5204. https://doi.org/10.3748/wjg.v18.i37.5197

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