《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
腎臓がんは自覚症状が現れにくく、進行すると治療が難しくなる厄介ながんです。
しかし、新たな研究で水素吸入療法が腎臓がんの予防や治療に役立つ可能性が示唆されています。
今回は、腎臓がんの基本情報から、腎臓がんに対する水素吸入療法の可能性について、最新の研究結果をもとにわかりやすく解説します。
腎臓がんってどんな病気?
腎臓がんとは、腎臓の細胞から発生するがんのことです。
医学的には「腎細胞がん」と呼ばれ、尿を作るはたらきを担う「腎実質」の細胞ががん化したものです。
日本では1年間に約30,000人が腎臓がん(尿路がんも含む)を診断され、約10,000人が命を落としています。
早期段階では自覚症状はほとんどなく、5年生存率も高くありません1)。
まずは、腎臓がんの特徴について見てみましょう。
腎臓がんの原因
腎臓がんの明確な発症メカニズムは解明されていない部分もありますが、以下のような要因が発症に関与していると考えられています2)。
- 喫煙習慣
- 肥満
- 長期間の透析治療
- 毒性のある化学物質
また、遺伝子の変異によって引き起こされるフォン・ヒッペル・リンドウ病の症状の一つとして腎臓がんを発症するケースもあります2)。
腎臓がんの症状
腎臓がんは早期段階では目立った自覚症状はないことがほとんどです。
しかし、進行すると以下のような症状が引き起こされます。
- 血尿(尿に血液が混ざる)
- お腹、背中、腰の痛み
- お腹にしこりを触れる
- 食欲低下
- 足のむくみ
- 吐き気や嘔吐
腎臓がんは肺、骨、脳などに転移しやすいのも特徴であり、転移による症状で発見されるケースも少なくありません。
腎臓がんの標準的な治療方法
腎臓がんの治療方法は、がんの進行度や全身の状態によって大きく異なります。
肺など離れた臓器への転移がない場合は、基本的に手術を行ってがんを取り除きます。
早期段階であれば腎臓の一部のみの切除を行いますが、一定以上がんが大きくなっている場合は腎臓を摘出する手術が必要です。
一方、離れた臓器への転移がある場合には基本的に手術はせずに薬物療法や放射線治療を行います。
腎臓がんは治りにくいがん
腎臓がん(尿路がんを含む)は早期段階で発見できれば5年生存率は約95%にも上ります。
しかし、転移があるような場合には5年生存率はわずか12%に過ぎません。
腎臓がんと診断された方全体の5年生存率は70%を切っており、比較的治りにくいがんの一つと言えます1)。
水素吸入療法は腎臓がんの予防や治療に役立つ?
腎臓がんは早期段階で自覚症状が現れにくく、今も多くの方が命を落とす原因となっています。
新たな予防や治療方法を見出すために多くの研究が行われているのが現状です。
これまでに、水素吸入療法が腎臓がんの治療に役立つ可能性を示唆する研究結果も報告されています。
具体的な研究結果について詳しく見てみましょう。
水素分子が透析治療による腎臓がんを予防できる?
2013年に、水素分子が透析治療中の酸化ストレスを軽減させる効果があることを示唆する研究結果が報告されました3)。
長期間の透析治療は腎臓がんの発生リスクを高めることが明らかになっています。
その背景には透析治療による活性酸素の増加があるとの報告があります。
この研究では、水素ガスを溶かした透析液(透析治療に必要な液体)と溶かしていない透析液を用いて酸化ストレスの変化を評価しました。
その結果、水素ガスを溶かした透析液を使用すると全身の酸化ストレスを示す指標が有意に低下したとのことです。
水素分子が将来的な腎臓がんのリスクを下げる可能性が示唆されました。
水素吸入療法は腎臓がんを予防する可能性
今回の研究の結果から、水素分子を体内に効率よく取り込むことができる水素吸入療法は透析治療による腎臓がんの予防に役立つ可能性が示唆されました。
まだ研究段階であり、この研究は透析治療の中でも腹膜透析という方法の患者を対象に行ったため、一般的な血液透析患者にも同様の効果があるか更なる検討が必要です。
現在、日本では約35万人の透析患者がいるとされています4)。
腎臓がんの予防は大切な課題であり、水素吸入療法が応用できるかさらなる研究の進展を期待します。
水素水は腎臓がんの増殖を抑える効果がある?
2019年に、水素水(水素ガスを溶かして水)が腎臓がんの増殖を抑制する効果があることを示唆する研究結果が報告されています5)。
この研究では、腎臓がんの発生を促す鉄ニトロ三酢酸という物質を投与したラットに水素水を摂取させ、腎臓がんの発生率に変化を及ぼすか検討が行われました。
その結果、水素水を摂取したラットは血管内費増殖因子などがん細胞の増殖に関わるタンパク質の発現が低下。
腎臓がんの発生と増殖を抑えたことが明らかになっています。
水素吸入が腎臓がんの治療に役立つ可能性
今回の結果は、水素水が腎臓がんの予防や治療に役立つ可能性を示唆しました。
現在のところ水素吸入療法と腎臓がんの関係を検討した研究は行われていません。
しかし、水素吸入療法は水素水を摂取するより効率に水素分子を体内に取り組むことができます。
まだ動物実験の段階ですが、水素吸入療法にも腎臓がんの発生や増殖を抑える効果が期待できるでしょう。
特に早期段階の腎臓がんの治療に役立つと考えられます。
【私はこう考える】水素吸入と腎臓がん
腎臓がんは5年生存率が高くなく、比較的治りにくいがんの一つです。
また、透析治療などによって引き起こされるケースもあり、新たな予防や治療方法の解明のため多くの研究が続けられいているのが現状です。
今回ご紹介した研究結果から、水素吸入療法も腎臓がんの予防や治療効果を持つ可能性が示唆されています。
まだ研究段階であるため、確実な効果があると断言することはできません。
しかし、水素ガスが腎臓がんの予防や治療に役立つ可能性は高いと言えるでしょう。
今後のさらなる解明が期待されます。
水素吸入療法は自宅でも簡単に行うことができます。
さらに、美容や健康によい効果も多いため、腎臓がんの予防や治療の補助的な手段として取り入れてみるのもよいでしょう。
参考文献
- 腎・尿路(膀胱除く):[国立がん研究センター がん統計]
- 腎臓がん(腎細胞がん) 予防・検診:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
- Terawaki, H., Hayashi, Y., Zhu, WJ. et al. Transperitoneal administration of dissolved hydrogen for peritoneal dialysis patients: a novel approach to suppress oxidative stress in the peritoneal cavity. Med Gas Res 3, 14 (2013). https://doi.org/10.1186/2045-9912-3-14
- わが国の慢性透析療法の現況, 透析会誌 55(12):665~723,2022
- Guan, P., Sun, Z. M., Luo, L. F., Zhao, Y. S., Yang, S. C., Yu, F. Y., Wang, N., & Ji, E. S. (2019). Hydrogen Gas Alleviates Chronic Intermittent Hypoxia-Induced Renal Injury through Reducing Iron Overload. Molecules (Basel, Switzerland), 24(6), 1184. https://doi.org/10.3390/molecules24061184