《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
肌の綺麗さはその人の印象を大きく左右する要因の1つです。また、肌のツヤやハリがある美肌であることで、実年齢よりも若く見られやすくなります。
一方で、年齢を重ねるごとにその影響が現れやすいのも肌で、日々のケアを怠っていると肌の老化が進み年齢よりも老けて見えてしまいます。
そんな見た目をよくするために欠かせない美肌に対し、近年水素吸入療法が有効な可能性があり注目を集めています。
本記事では、水素吸入療法が美肌に効果があるのかどうかについて、これまでに報告されている研究データをもとに解説していきます。
活性酸素は美肌の大敵?
年齢と共に衰える肌を美しく保つには化粧品によるスキンケアだけではなく、体の内側からのケアも大切です。肌にダメージを与える原因はさまざまですが、近年の研究により肌の老化には酸化ストレスが大きく関わっていることが明らかになっています。
そのため、体の内側から美肌へ導くケアとして、酸化ストレスの抑制が注目されています。酸化ストレスの原因は活性酸素です。
まずは、活性酸素が引き起こす肌への影響について見てみましょう。
活性酸素は肌の細胞を老化させる
活性酸素は、細胞に含まれる遺伝子、細胞を作る脂質やたんぱく質などに酸化ストレスを与えて機能低下を引き起こすこと考えられています1)。その結果、肌のハリを保つために必要なコラーゲンやエラスチンなど組織の産生量が低下し、たるみやシワが目立ちやすくなります。
また、活性酸素にはコラーゲンやエラスチンなどの組織を分解する酵素の働きを活性化する作用があることも分かっています1)。肌のハリを維持する組織が少なくなった上に次々と分解されてしまうことで、さらにシワができやすくなってしまうのです。
活性酸素はシミの原因にもなる
活性酸素には、シミの元となるメラニン色素を作るメラノサイトを活性化させる働きがあることも分かっています2)。メラノサイトは、私たちの肌を外部の刺激から守る働きがあります。そのため、活性酸素によるダメージを検知すると活性化して多くのメラニン色素を生成するのです。
また、紫外線は活性酸素を介してすでにできているシミをさらに濃くすることが明らかになっており、活性酸素が多いほど目立ちやすいシミができやすくなると言えます3)。
水素吸入は美肌に効果はある?
活性酸素は私たちの細胞にさまざまなダメージを与える物質であり、健康や美容を維持していく上で活性酸素をいかに抑制していくかが大きなポイントと考えられています。2007年には、水素ガスによって有害な活性酸素が除去されるとの報告がされました4)。それ以降、水素吸入を病気の治療や美容のケアなどに応用しようとする動きが進んでいます。
上述したように、活性酸素は美肌の大敵であるため、美肌ケアとして水素吸入の有効性を検討する研究が行われました。研究結果について詳しく見てみましょう。
活性酸素と取り除くとシミができにくくなる
2023年に公表された研究では、メラノサイトに多く含まれるサイトグロブリンというたんぱく質には活性酸素を減らす働きがあることが明らかになりました5)。また、サイトグロブリンによって活性酸素が減少することでメラニン色素の生成も抑制されていることも判明しました。
つまり、この研究から、メラノサイトが活性酸素から自身を守る仕組みが備わっていること、活性酸素を抑えることでメラニン色素の生成が抑えられるということが示唆されました。これまで、活性酸素の影響でメラノサイトが活性化されてシミができやすくなることは分かっていましたが、逆に活性酸素を抑えるとシミができにくくなるという科学的なデータは大きな発見と言えます。
活性酸素を取り除くことができる水素吸入はシミの生成を予防して美肌に維持に役立つ可能性があると考えてよいでしょう。
水素吸入がハリとシミを改善
研究では、健康状態に問題がない25~40歳の女性22人を対象に、2週間に渡って5分間の水素吸入を一日5回行ったときと水素吸入を行わなかった2週間における肌の状態の変化を比較検討しました6)。
肌の弾性を機械的に調べたところ、2週間の水素吸入を行うと肌のハリが有意に改善していることが明らかになっています。また、肌の画像解析による赤ら顔やシミも有意に減少したことも示されました。
これらの結果から、水素吸入はハリやシミといった代表的な肌のトラブルを改善して美肌に導く効果を持つことが示唆されたのです。
【私はこう考える】水素吸入と美肌
水素吸入は私たちの体に有害な活性酸素を取り除く効果があるとされており、現在さまざまな治療や美容のケアに応用されつつあります。美肌を叶えるためのケアもその一つです。
活性酸素は細胞にダメージを与え、肌の弾力を保つコラーゲンやエラスチンを減らしていきます。また、メラノサイトを活性化させてメラニン色素の生成量を増やす働きもあり、シミやシワなど美肌の大敵となる肌トラブルを引き起こします。
今回ご紹介した研究結果により、活性酸素を軽減するとメラノサイトからのメラニン色素の生成が抑制されたことが明らかとなり、水素吸入はシミ予防の効果が期待できると考えられます。また、実際に水素吸入を行なって肌の状態の変化を調べた研究では、水素吸入をするとしていないときと比べて有意にハリやシミが改善していたことが明らかになりました。
研究は少数を対象に行っているため、確実に水素吸入がハリやシミを改善すると断言することはできません。しかし、今後のハリやシミの新しい対策方法として有望であるため、さらなる解明が期待されます。
水素吸入は、活性酸素を取り除くことで美容以外にも病気の予防や健康の維持に役立つと考えられています。肌の調子が悪いだけでなく、体の衰えを実感している方は水素吸入を試してみるのもよいでしょう。
参考文献
- Yoshikazu Yonei, Masayuki Yagi, Wakako Takabe, Misato Kon, Skin Aging: Oxidative Stress and Glycative Stress, Journal of Society of Cosmetic Chemists of Japan, 2019, Volume 53, Issue 2, Pages 83-90, Released on J-STAGE June 21, 2019, Online ISSN 1884-4146, Print ISSN 0387-5253, https://doi.org/10.5107/sccj.53.83, https://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj/53/2/53_83/_article/-char/en
- B16メラノーマ細胞におけるメラニン産生抑制と抗酸化活性(粧技誌第44巻第2号)
- 皮膚のアンチエイジング(オレオサイエンス第18巻第3号)
- 医療用ガスとしての水素ガスの可能性
- Tanaka Y, Sato-Matsubara M, Tsuruta D, Tanaka H, Kadono C, Sugawara K, Kawada N, Wakamatsu K, Ito S, Yoshizato K. Cytoglobin functions as a redox regulator of melanogenesis in normal epidermal melanocytes. Pigment Cell Melanoma Res. 2023 Nov 2. doi: 10.1111/pcmr.13146. Epub ahead of print. PMID: 37920136.
- Appearance of Psychophysiological Effect of Hydrogen Inhalation and Effect of Continuous Use on the Skin Properties(日本香粧品学会誌)