一言まとめ
放射線治療を受けたがん患者を対象に、水素吸入治療の効果を後ろ向き観察研究で検証したところ、水素群で白血球数と血小板数の減少が有意に抑えられ、放射線による骨髄障害が軽減されることが示唆された。
3分で読める詳細解説
結論
水素吸入は放射線治療に伴う骨髄障害を軽減し、がんに対する放射線の効果を損なわない。
研究の背景と目的
強度変調放射線治療(IMRT)は従来の放射線治療の代替として開発されたが、骨髄障害の軽減効果は限定的である。そのため、IMRTによる骨髄障害をさらに軽減する新技術が求められている。水素分子は選択的にヒドロキシルラジカルとペルオキシ亜硝酸を除去する抗酸化物質として知られている。本研究の目的は、がん患者におけるIMRTによる骨髄障害に対する水素ガス治療の改善効果を検証することである。
研究方法
- 2015年5月~2016年11月に東京のクリニックで実施された後ろ向き観察研究。
- 対象は進行がん患者23名(男性11名、女性12名、26~82歳)。
- この期間中、登録された全患者が1日1回、1~4週間IMRTを受けた。
- 対照群(n=7、男3名、女4名、年齢26~70歳):各IMRT後に健康管理室で30分間、軽度高圧酸素療法を受けた。
- 水素群(n=16、男8名、女8名、年齢35~82歳):各IMRT後に健康管理室で30分間、5%水素ガス吸入を受けた。
- IMRT前後の末梢血液検査により、骨髄障害の程度を評価。赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値、白血球数、血小板数の変化率を算出した。
- 腫瘍の治療効果はIMRT後のCT検査で評価した。
研究結果
Appendix(用語解説)
- 強度変調放射線治療(IMRT):コンピューター制御により放射線の強度を変化させる高精度放射線治療法。腫瘍への集中的な照射と正常組織の防護を可能にする。
- 強度変調放射線治療(IMRT):腫瘍の形状に合わせて放射線の強度を変化させる高精度放射線治療法。
- 骨髄:主に骨の中心部にある造血幹細胞を含む組織。赤血球、白血球、血小板などの血液細胞を産生する。
- ヒドロキシルラジカル:酸素を含む活性酸素種の1つ。DNA損傷などを引き起こす。
- ヘマトクリット:血液中の赤血球の割合。貧血の指標となる。
論文情報
タイトル
Protective effects of hydrogen gas inhalation on radiation-induced bone marrow damage in cancer patients a retrospective observational study(がん患者における放射線誘発性骨髄障害に対する水素ガス吸入の防護効果:後ろ向き観察研究)
引用元
Hirano, S. I., Aoki, Y., Li, X. K., Ichimaru, N., Takahara, S., & Takefuji, Y. (2021). Protective effects of hydrogen gas inhalation on radiation-induced bone marrow damage in cancer patients: a retrospective observational study. Medical gas research, 11(3), 104–109. https://doi.org/10.4103/2045-9912.314329
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