飲んだ水素は肝臓に届くが全身には届かない

結論
高濃度の水素溶液をブタの小腸に短時間で注入したところ、門脈(消化管から肝臓へ血液を運ぶ血管)の水素濃度が腸内細菌が自然に作る水素だけの場合と比べて約50倍に上昇し、1時間以上にわたって維持された。一方、全身を巡る動脈血からは水素がほとんど検出されず、飲んだ水素は肝臓に届くが全身には到達しないことが示された。
研究の背景と目的
水素水の飲用が疲労の改善や糖脂質代謝の改善に有効であることを示す臨床研究は多いが、「飲んだ水素が体内でどこに行き、どのくらいとどまるのか」という薬物動態のデータはこれまで存在しなかった。
そこで本研究では、体の大きさや生理機能がヒトに近いブタを用いて、水素溶液を小腸に投与した後の血中水素濃度を複数の血管から経時的に測定し、水素の体内での動きを初めて定量的に追跡した。
研究の方法
8週齢のメスブタ4頭を対象に、小腸(空腸)に直接チューブを挿入し、高濃度の水素溶液を2分間で注入する実験を行った。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 動物 | メスブタ4頭(8週齢、体重約22 kg) |
| 投与方法 | 胃瘻チューブから小腸(空腸)に直接注入 |
| 水素溶液 | 5.42 mg/L(飽和濃度の約3.4倍※)、500 mL |
| 投与時間 | 2分間 |
| 対照 | 水素を含まないブドウ糖液 |
| 群構成 | 水素溶液群2頭、対照群2頭 |
主な評価項目は、空腸静脈(小腸の血管)・門脈(肝臓への入口)・下大静脈(肝臓の出口)・頸動脈(全身の動脈血)の4箇所にカテーテルを留置し、投与後120分間にわたり採血した血液中の水素濃度である。水素濃度はガスクロマトグラフィーで測定した。
研究の主な結果
本研究の結果から、以下の2点を取り上げる。
- ① 水素は小腸から吸収され、門脈を通じて肝臓に届く
- ② 腸内細菌が作る水素だけでは門脈の濃度は上がらない
① 水素は小腸から吸収され、門脈を通じて肝臓に届く
水素溶液を小腸に注入した後、4箇所の血管で水素濃度がどう変化するかを120分間にわたり追跡した。血液の流れとしては「小腸(空腸静脈)→ 門脈 → 肝臓 → 下大静脈 → 心臓・肺 → 全身の動脈(頸動脈)」の順になるため、この順に濃度が下がっていけば、水素が途中で代謝・消失していることを意味する。
| 採血部位 | 2分後 | 30分後 | 60分後 | 120分後 |
|---|---|---|---|---|
| 空腸静脈 (小腸の血管) | 0.284 (17.8%) | 0.097 (6.0%) | 0.060 (3.8%) | 0.046 (2.9%) |
| 門脈 (肝臓への入口) | 0.051 (3.2%) | 0.044 (2.8%) | 0.024 (1.5%) | 0.012 (0.8%) |
| 下大静脈 (肝臓の出口) | 0.012 (0.7%) | 0.012 (0.7%) | 0.009 (0.5%) | 0.004 (0.2%) |
| 頸動脈 (全身の動脈血) | 検出されず | 検出されず | 検出されず | 検出されず |

小腸で吸収された水素は門脈を通じて肝臓に到達し、その濃度は1時間後も飽和度1%以上を維持していた。しかし肝臓を通過した後の下大静脈では濃度が門脈の約3分の1に低下し、頸動脈ではほぼ検出されなかった。水素は肝臓で代謝されるか肺から呼気として排出されるため、全身の動脈血には届かないと考えられる。
② 腸内細菌が作る水素だけでは門脈の濃度は上がらない
ヒトの大腸では腸内細菌が1日最大13Lもの水素を産生しているとされる。この体内で自然に作られる水素が門脈の濃度にどの程度影響するかを、水素を含まない対照液を投与して確認した。
対照液投与後の門脈水素濃度は最大でも0.0009 mg/L(飽和度約0.06%)にとどまり、水素溶液投与時の約50分の1以下だった。腸内細菌由来の水素は総量としては多くても、大部分が呼気や腸内ガスとして排出されるため、門脈の水素濃度を生物学的に意味のあるレベルまで高めることはできない。水素を体内に効率よく届けるには、高濃度の水素水を短時間で飲む必要があることが裏づけられた。
なお、本研究では水素溶液の投与に伴う有害事象は報告されていない。
考察と今後の課題
本研究は、飲んだ水素が門脈を経由して肝臓に直接届くことを初めて実験的に示した。著者らは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のように肝臓の酸化ストレスが関与する疾患に対して水素水が効果を発揮する可能性を指摘しており、これまでに報告されている水素水の脂質・糖代謝改善効果も肝臓への直接作用で説明できるかもしれない。ただし、本研究は小腸に直接水素溶液を注入しており、ヒトが口から飲む場合には胃での滞留時間や胃壁からの吸収といった条件が異なる。また対象がブタ2頭と少数であり、ヒトでの検証が今後の課題となる。
すいかつねっと編集部の感想
「水素水を飲んだ際に、水素はどこに行くのか?」という疑問に、初めて大型動物の実験で答えを出した研究です。結果は明快で、水素は門脈を通じて肝臓に届くものの、全身の動脈血にはほとんど到達しません。つまり、水素水の飲用は「肝臓への水素供給」としては有効ですが、全身に水素を届けたい場合には水素吸入の方が適していると言えそうです。同じ研究グループは、ブタを使って水素吸入の体内動態や皮膚からの水素吸収も調べており、投与経路ごとの水素の行き先が体系的に明らかになりつつあります。肝疾患に対する水素治療の研究も進んでおり、水素水の飲用が肝臓の健康にどう貢献するか、今後の臨床研究に注目したいところです。
用語解説
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 門脈 | 消化管から吸収された栄養素を肝臓へ運ぶ血管。消化管と肝臓をつなぐ専用の輸送路 |
| 下大静脈 | 下半身の血液を心臓に戻す体内最大の静脈。肝臓の上を通る部分で採血することで、肝臓を通過した後の血液を調べられる |
| 空腸 | 小腸の中間部分。栄養の吸収が最も活発に行われる領域 |
| 薬物動態 | 体内に入った物質がどのように吸収・分布・代謝・排泄されるかを追跡する研究分野 |
| 水素飽和度 | 水に溶けうる水素の最大量(常圧で1.6 mg/L)に対する、実際の水素濃度の割合 |
| NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患) | 飲酒習慣がないにもかかわらず肝臓に脂肪が蓄積する疾患の総称。肥満や糖尿病と関連が深い |
| ガスクロマトグラフィー | 気体中の成分を分離して定量する分析手法。微量の水素ガスを正確に測定できる |
論文情報
論文タイトル
Pharmacokinetics of hydrogen after ingesting a hydrogen-rich solution: A study in pigs(水素含有溶液を摂取した後の水素の薬物動態:ブタでの研究)
引用元
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