《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
腸内環境は私たちの健康に深く関わっており、善玉菌と悪玉菌のバランスが重要です。
腸内には約100兆個の細菌が生息し、このバランスが乱れると様々な健康問題を引き起こす可能性があります。
最近、水素吸入療法が腸内環境の改善に役立つかもしれないという研究結果が出ており、この記事ではその可能性について解説します。
腸内環境ってどんなもの?その特徴とは
腸内環境とは、その名の通り私たちの腸内部の状態のことです。
私たちの腸の中には、1000種類もの細菌が約100兆個生息していることが分かっています1)。これらの細菌は善玉菌、悪玉菌、そして善玉菌と悪玉菌、どちらにでもなれる日和見菌という3種類に分類されます。
腸内環境は3種類の細菌のバランスに左右され、状態が悪化すると病気の原因になることもあります。
まずは腸内環境の特徴について詳しく見てみましょう。
理想的な腸内環境のために注意すべきことは?
理想的な腸内環境は、3種類の細菌のうち善玉菌の割合が多い状態になることです。
善玉菌には免疫機能を高めてコレステロールを低下させる働きなどがあります。一方、悪玉菌の割合が増えると便秘や下痢など便通の異常が生じ、免疫機能の低下を引き起こします。
また、悪玉菌は体に害になる物質を生み出すため、肌荒れや生活習慣病のリスクを高めることもあります。
次のような項目に当てはまる方は悪玉菌が増えやすいため特に注意が必要です1)。
- タンパク質や脂質が多い食事
- 睡眠不足
- ストレス
- 慢性的な便秘
善玉菌を増やして健やかな腸内環境をキープするには?
善玉菌を増やすには、善玉菌自体を摂取すること、善玉菌のエサとなる食品を多く取り入れることが大切です1)。
善玉菌はヨーグルト、納豆、漬物などの発酵食品に多く含まれています。一方で善玉菌は腸内で長く生き続けることができないため、これらの食材は毎日摂取するのがポイントです。
また、善玉菌のエサとなる食材は野菜、果物、豆類などに多く含まれるオリゴ糖と食物繊維です。毎食のメニューに少しずつ取り入れるようにしましょう。
腸内環境と整える治療もある?
腸内環境は上述したように食事などの生活習慣を整えることで改善が可能です。
しかし、生活習慣を整えるのが難しく、腸内環境の改善が進まない方は少なくないでしょう。
近年では薬剤などで腸内環境を整える治療も行われていますが、確立した治療方法はないのが現状です。
水素吸入療法は腸内環境の改善に役立つ?
水素吸入療法が腸内環境を改善させる可能性を示唆する研究結果が報告されています。
腸内環境の悪化は、糖尿病、肥満、動脈硬化、大腸がんなどの生活習慣病のほか、潰瘍性大腸炎やクローン病など腸に炎症を引き起こす病気のリスクを高めます。
そのため、腸内環境を改善する新たな方法を見出すため、多くの研究が行われているのが現状です。
水素吸入療法もその一つとなります。水素吸入療法と腸内環境の関係を示す研究結果を詳しく見てみましょう。
水素水には腸内環境を改善する可能性がある!
2018年に、水素水(水素ガスが溶けた水)が腸内環境を整える可能性を示す研究結果が報告されました2)。
この研究では、腸内細菌のバランスを崩したマウスに対して水素水を投与したところ、通常の水を投与したマウスよりも有意に生存率が高かったことが示されました。また、悪玉菌の増殖や炎症を引き起こす物質の産生も抑制されたことが明らかになっています。
これらの結果から、水素は腸内環境の改善を促す可能性があると考えられました。
水素水は腸内細菌のバランスを整える可能性がある!
2023年に、水素水を投与した高血糖患者の便を分析したところ、腸内細菌のバランスが整っていたとする研究結果が報告されています3)。
この研究では、高血糖患者73名を一日1000mlの水素水を8週間投与する群と通常の水を投与する群に分けて便を分析しました。
結果として、水素水を投与した群は腸内細菌バランスが改善したことが明らかにされています。つまり、この研究結果からも水素水は腸内細菌バランスを整えて腸内環境を改善する可能性が示唆されたのです。
水素吸入療法も腸内環境を整える可能性
これら2つの研究結果から、水素水よりも多くの水素を体内に取り込める水素吸入療法は腸内環境を整える可能性があると考えられます。
現時点では、確実な効果があると断言することはできませんが、今後のさらなる究明が期待されます。
【私はこう考える】水素吸入と腸内環境
腸内環境は食事、睡眠、ストレスなどさまざまな生活習慣の乱れによって悪化していきます。
腸内環境の悪化は便秘や下痢の原因になるだけではなく、生活習慣病や腸の病気の引き金になるケースも少なくありません。
腸内環境を整えることは健康な生活を送る上で非常に大切なことです。しかし、悪化した腸内環境はすぐに良い状態に戻せません。
そのため、腸内環境を整える薬剤やサプリメントなどの開発が今も進められています。
今回ご紹介した2つの研究は、水素吸入療法には腸内環境を整える可能性を持つことが示唆される結果となりました。
今後さらに研究が重ねられれば腸内環境を整える手段として活用される可能性があります。
水素吸入療法は体への負担なく自宅でも行うことができます。便通の異常などに悩んでいる方は、腸内環境と整える方法の一つとして取り入れてみるのもよいでしょう。
参考文献
- 腸内細菌と健康 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
- Ikeda, M., Shimizu, K., Ogura, H., Kurakawa, T., Umemoto, E., Motooka, D., Nakamura, S., Ichimaru, N., Takeda, K., Takahara, S., Hirano, S. I., & Shimazu, T. (2018). Hydrogen-Rich Saline Regulates Intestinal Barrier Dysfunction, Dysbiosis, and Bacterial Translocation in a Murine Model of Sepsis. Shock (Augusta, Ga.), 50(6), 640–647. https://doi.org/10.1097/SHK.0000000000001098
- Liang, B., Shi, L., Du, D., Li, H., Yi, N., Xi, Y., Cui, J., Li, P., Kang, H., Noda, M., Sun, X., Liu, J., Qin, S., & Long, J. (2023). Hydrogen-Rich Water Ameliorates Metabolic Disorder via Modifying Gut Microbiota in Impaired Fasting Glucose Patients: A Randomized Controlled Study. Antioxidants (Basel, Switzerland), 12(6), 1245. https://doi.org/10.3390/antiox12061245