《この記事の執筆者》
大学病院にて研修期間終了後、整形外科入局。出産を機に転科し、現在はリハビリテーション科医として勤務。また、産業医の資格も取得し、労働者に対する安全衛生講習も行っている。
関節痛に悩んでいる方は多く、特に膝や股関節などは負荷がかかりやすいため、痛みが日常生活に支障をきたすこともしばしばです。従来の治療法では痛みがなかなか改善しないケースも少なくありません。
そんな中、注目を集めているのが「水素吸入療法」です。水素には、炎症の原因となる活性酸素を除去する作用があるとされ、関節痛の予防や改善に役立つ可能性が示唆されています。
本記事では、関節痛の原因や治療法などの基礎知識から、水素吸入が関節痛に与える影響や、その効果について詳しく解説します。いま関節痛にお悩みの方に役立つ情報なので、ぜひ最後までご覧ください。
関節痛について
関節痛とは、肩関節、股関節、膝関節など骨と骨をつなぐ関節部分に痛みを感じることです。
日本では約1560万人もの方が関節痛に悩まされおり、40歳以上の方の変形性関節症有病率は55%と言われています。
日々外来診療を行っていても、関節痛のため杖をついていたり、車椅子で来られる方も大勢いらっしゃいます。
関節痛の症状
特に膝関節や股関節は、体重を支えるために過度な負荷がかかりやすい部位であるため損傷が起こりやすく、症状が出ると日常生活に支障がでます。
関節が傷むと、関節痛の他にも関節が熱っぽい、水が溜まる、曲げ伸ばしがしづらいなどの症状が見受けられます。
レントゲンを撮ってみると関節の隙間が無くなってしまい、末期の状態であることも少なくありません。
関節痛のメカニズム
関節痛の原因は様々で、年齢を重ねることによる自然な変化や、スポーツや仕事で酷使しすぎた事、怪我、更には関節リウマチのような病気が原因になることもあります。
関節に負荷がかかり細胞が痛むことで活性酸素が過剰に発生すると、半月板や周囲の組織を酸化し、炎症を引き起こします。
この炎症が慢性化してしまうと、半月板が破壊され徐々に骨が変形していきます。
最終的には関節の動きが制限されてしまい、日常生活や趣味に支障が出てくるという流れです。
関節痛の治療法
関節痛を改善するためには、痛みの元になっている炎症を抑え、痛んだ組織を修復することが大切です。
従来の治療法として鎮痛薬(抗炎症薬)の服用、関節内注射、リハビリテーション療法、手術等があります。しかし、毎週のように外来受診をして関節内注射をしたり、鎮痛薬を内服して頂いてもなかなか良くならないという方も多くおられます。
つまり、ある程度関節痛への治療法は確立されているものの、なかなか改善せず生活に支障をきたしている方も一定数いるのです。
水素吸入は関節痛の予防・改善に役立つのか?
関節痛の予防や改善に対して、近年水素吸入が注目を集めています。
水素には体内のあらゆる組織の炎症を抑える力があるのではないかと言われ、日々様々な研究が行われています。
関節痛の予防と改善の2つの側面から可能性を探ってみましょう。
水素吸入が関節痛を予防する可能性
水素には、体内で発生した活性酸素を除去する作用があり、これが関節痛の予防につながる可能性があります。
上述の「関節痛のメカニズム」で説明したように、関節痛は活性酸素の過剰発生による炎症が起こることが原因です。
水素には、この活性酸素の増加を防ぎ、また関節痛のもとおなる炎症を抑える作用もあることがこれまでの研究で示されています。
たとえば、2024年に報告された英語論文誌に掲載されたヒトを対象とした研究では、水素吸入を60分間行った後自転車運動を行い、水素を吸入した群としなかった群で活性酸素や乳酸の値に差が出るのか比較が行われました。結論として、運動前に水素吸入を行う事で、運動後の疲労を緩和し、活性酸素および乳酸の値を改善することができると報告されています。⁴
水素が体内の炎症や活性酸素を抑えることで、関節痛を予防するほどの効果があるかについては、まだ研究報告がなくわからない部分が多いです。
しかし、理論的に考えた場合は、十分に期待できるかと思います。
今後、さらに研究が進み、水素吸入が関節痛の予防に役立つことが示されることを期待したいです。
水素吸入が関節痛を改善する可能性
水素吸入は、関節痛の予防だけではなく、症状の改善にも役立つかもしれません。
動物実験ではありますが、その可能性がこれまでの研究で示唆されています。
2022年中国では、関節炎のあるマウスに水素吸入治療を行う実験が行われました。毎日3時間程、期間は15~60日とばらつきはありますが、関節症状が緩和されたと結果が出ています。
ここでいう関節症状の緩和とは、関節周囲の熱っぽい感じや痛みの程度、または組織を採取して観察した時に炎症でおこる変化が抑制されているという報告でした。¹
関節痛に関して人間での研究はまだこれからです。しかし、水素は体内の隅々まで行き渡りやすいという特徴があり、実際肺や心臓等病気に対する作用に関しての研究結果はたくさんあります。
水素吸入療法だけで、関節痛が魔法のように消えてしまう訳ではありません。しかし、従来の治療と併用することで水素の抗炎症作用・抗酸化作用がよりよい効果をもたらす可能性はゼロではないでしょう。そして、鼻からの水素吸入で効率よく体内に取り入れることが可能であるという研究結果も出ており、痛み無く摂取することが可能です。²
【私はこう考える】水素吸入と関節痛
水素が傷んだ関節自体を完全に元に戻せる訳ではありませんが、水素吸入療法は抗炎症作用や抗酸化作用により、関節痛の治療をサポートする可能性を秘めています。さらに、水素は身体に優しく、副作用の心配がほとんど無く、安心して使用出来るのではないかという研究結果も出ています。³
従来の治療法でも痛みが長引いている方、薬物療法の副作用に悩む患者にとって安全に行えるサポート的な治療になりうるのではないでしょうか。
最適な投与量や投与期間、長期的な効果に関してはさらなる研究が必要であり、患者個人の症状によってオーダーメイドで提供される必要があります。
完全に確立した治療法ではありませんが、水素が体内の様々な臓器に対して良い抗炎症作用を発揮するという報告が多いことから、関節痛への良い作用も強く期待できると考えます。
水素吸入を利用しつつ、日常生活や趣味を楽しく続けられる筋力を維持していきましょう。
参考文献
- Tian, Y., Kang, X., Yang, H., Zhang, S., Wang, Y., & Fan, W. (2022). Xi bao yu fen zi mian yi xue za zhi = Chinese journal of cellular and molecular immunology, 38(5), 400–405. (Retraction published Xi Bao Yu Fen Zi Mian Yi Xue Za Zhi. 2022 Dec;38(12):1150.)
Sano, M., Shirakawa, K., Katsumata, Y., Ichihara, G., & Kobayashi, E. (2020). Low-Flow Nasal Cannula Hydrogen Therapy. Journal of clinical medicine research, 12(10), 674–680. https://doi.org/10.14740/jocmr4323
Salomez-Ihl, C., Tanguy, S., Alcaraz, J. P., Davin, C., Pascal-Moussellard, V., Jabeur, M., Bedouch, P., Le Hegarat, L., Fessard, V., Blier, A. L., Huet, S., Cinquin, P., & Boucher, F. (2024). Hydrogen inhalation: in vivo rat genotoxicity tests. Mutation research. Genetic toxicology and environmental mutagenesis, 894, 503736. https://doi.org/10.1016/j.mrgentox.2024.503736
Dong, G., Wu, J., Hong, Y., Li, Q., Liu, M., Jiang, G., Bao, D., Manor, B., & Zhou, J. (2024). Inhalation of Hydrogen-rich Gas before Acute Exercise Alleviates Exercise Fatigue: A Randomized Crossover Study. International journal of sports medicine, 10.1055/a-2318-1880. Advance online publication. https://doi.org/10.1055/a-2318-1880