《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
日本では、がんの罹患数を部位別に見ると胃がんは男女ともに3位となっており、メジャーながんの1つと言えます。
早期発見が難しく、進行すると治療の選択肢が限られることから、新しい予防法や治療法の開発が求められています。
本記事では、胃がんの基礎知識から主な症状、標準治療法に加え、水素吸入が胃がんの予防や治療にどのような効果をもたらす可能性があるのかを探ります。
最新の研究成果を基に、水素吸入の胃がんに対する予防効果や治療への応用可能性について詳しく解説し、私自身の見解を交えながら、この新たな可能性について考察します。
《▼YouTube動画版での解説▼》
胃がんとはどんな病気?
胃がんは、胃の粘膜から発生するがんです。
男女とも3番目になりやすいがんであり、日本では年間で40,000人以上の方が胃がんで命と落としています(2021年)1)。
胃がんは進行するまで症状が現れないことも多く、発見された段階ですでに手術などの治療が行えないケースも少なくありません。
そのため、胃がんに対する新たな予防法や治療法の開発が今も進められています。
まずは、胃がんとはどのような病気なのか詳しく見てみましょう。
胃がんの主な症状
胃がんでよく見られる症状としては、上腹部の痛みや不快感、吐き気、食欲不振、胸焼けなどが挙げられます。
しかし、胃がんは早期段階では自覚症状がないケースも多いとされています。
進行した場合
胃がんは胃の粘膜から発生するがんですが、進行すると胃の壁の深くにまで病変が広がっていきます。
この段階になると病変部から出血が生じるようになるため、めまいや動悸などの立ちくらみが引き起こされることも少なくありません。
病変部からの出血が便とともに排出されると粘り気のある黒い便が見られるようになるのも特徴の一つです。
さらに出血が多くなると、胃の中に溜まった血液が口から吐き出される「吐血」が生じます。
また、病変が大きくなると食べ物の通り道が狭くなって食事のつかえを感じたり、体重が著しく減少したりする場合もあります2)。
胃がんの標準的な治療法
胃がんの治療方法は、がんの進行度によって異なります。
ごく早期の段階であれば、内視鏡でがんを切除することが可能です。一方、がんが粘膜の更に深くまで浸潤している場合はがんを切除する手術を行い、必要に応じて術後に再発を予防するための抗がん剤治療が必要となります。
がんの転移がある場合
さらに、がんが別の臓器に転移している場合には一般的に手術をすることはありません。抗がん剤治療や症状を緩和するための対症療法が治療の主体となります。
胃がんは早期の段階で治療をするほど治る見込みが高い病気です。
進行度をステージⅠ~Ⅳに分類すると、ステージⅠで治療をした場合の5年生存率は90%を超えています。
しかし、他の臓器に転移があるステージⅣではわずか5%程度です3)。
水素吸入は胃がんの予防・改善に効果はある?
胃がんは早期段階で治療をすれば高い確率で治癒が見込める病気です。
しかし、胃がんは早期段階ではっきりした自覚症状が現れるケースは多くありません。
不調を感じて病院を受診したら、すでに胃がんが進行していたというケースも多いのです。
現在でも胃がんを予防・改善する方法は開発が進められています。
近年では、活性酸素と胃がんとの関連を調べる研究もおこなわれています4)。
水素吸入は体内の活性酸素を取り除く働きがあるため、胃がんの予防や治療に応用できるかもしれません。
どのような研究結果が明らかとなったのか詳しく見てみましょう。
水素吸入は胃がんの予防に役立つ可能性がある
普遍的ではないものの、飲酒や喫煙など特定の習慣がある人に対して、活性酸素を低下させることで胃がんの予防につながる可能性を示唆する報告があります。
胃がんの発生と血中活性酸素濃度を調べた研究
2015年に、胃がんの発生と活性酸素の血中濃度との関係を調べる研究結果が発表されました4)。
この研究は、40~69歳の男女約3万7千人を対象に行われ、1990~2004年まで追跡した上で胃がんを発症した495人と胃がんを発症しなかった495人を抽出。血液検査を行って血中の活性酸素濃度を調べました。
その結果、胃がんを発症した群と発症していない群の血中活性酸素濃度の差はないことが判明しました。
一方で、喫煙や飲酒の習慣がある人でとくに血中活性酸素濃度が高い人は、胃がんの発症リスクも高くなることが明らかになっています。
喫煙や飲酒による活性酸素を抑えて予防につながる?
活性酸素はさまざまな要因によって増えますが、喫煙や飲酒も大きな要因の一つです。
この研究からは、喫煙や飲酒などの原因によって活性酸素が増えると細胞にダメージが生じて胃がんを引き起こしやすくなる可能性が示唆されました。
このことから、胃がんのリスクとなる喫煙や飲酒習慣がある方は活性酸素を取り除くことができれば細胞へのダメージを軽減できて胃がんの発生リスクを軽減できる可能性があると言えるでしょう。
水素吸入は活性酸素を取り除くことができるため、胃がんの予防につながる可能性も否定できません。
今後のさらなる解明に期待したいです。
水素吸入は胃がん治療に役立つか?
2021年に、水素ガスが胃がんの進行に影響を及ぼすか検討した研究結果が報告されました5)。
この研究では、胃がんの細胞を水素ガスに曝露させた群と曝露させていない群でがん細胞の増力や広がりの違いを比較。
その結果、水素ガスに曝露させた群はがん細胞の増力と広がりを有意に抑制したことが明らかになりました。
この研究結果から、将来的に胃がんの治療に水素ガスが開発される可能性があることが示唆され、多くの期待が寄せられています。
【私はこう考える】水素吸入と胃がん
胃がんは日本人に多いがんの一つです。
早期段階で治療をすれば治る見込みは高いですが、胃がんは早期段階ではほとんど症状が現れず発見されたときには進行しているケースも多々あります。
そのため、ピロリ菌除菌など胃がんを予防するための方法は研究開発が進められています。水素吸入もその一つです。
今回ご紹介した研究結果では、活性酸素を増やす原因があると胃がんの発症リスクが高くなるとされています。もちろん、生活習慣を整えることも大切ですが、水素吸入で活性酸素を取り除くのも胃がんの予防につながる可能性があります。
また、2021年には水素ガスの作用で胃がん細胞の増殖や広がりが抑制できたとする研究結果も報告され、水素吸入が胃がんの治療に応用できる可能性が示唆されました。
水素吸入は自宅でも安全に使用することができ、体に負担をかけることもないためさまざまな病気の治療や美容の維持に応用されています。
更なる解明が進んで、水素吸入に効果がある病気が増えていくことを願います。
思い当たる生活習慣がある方や胃がんの治療中・治療後の方は水素吸入を試してみるのもよいでしょう。
ただし、胃がんは水素吸入だけで予防や改善することはできません。あくまでも補助的な役割として使用して下さい。
参考文献
- がん情報サービス『最新がん統計』
- がん情報サービス『胃がんについて』
- がん情報サービス『院内がん登録生存率集計結果閲覧システム』
- 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト『血中活栓酸素種濃度と胃がん発生率との関連』
- Zhu, B., Cui, H. & Xu, W. Hydrogen inhibits the proliferation and migration of gastric cancer cells by modulating lncRNA MALAT1/miR-124-3p/EZH2 axis. Cancer Cell Int 21, 70 (2021). https://doi.org/10.1186/s12935-020-01743-5