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【医師監修】水素吸入は乳がんの新しい治療法になる?

【医師監修】水素吸入は乳がんの予防や改善に効果はある?

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乳がんは女性のがんの中で最も発症率が高く、9人に1人は乳がんを発症するとされています。40代頃から発症しやすくなり、日本では年間15,000人ほどの方が乳がんで亡くなっているのが現状です1)

乳がんは早期段階で発見できれば治る見込みが高いがんの一つです。しかし、転移が生じているような進行がんの場合、5年生存率は4割以下となっています。乳がんの標準的な治療法は、手術、放射線治療、薬物療法となりますが、近年では標準的な治療のほかに先進的な治療法をプラスしてがんと向き合う方が増えています。水素吸入もその一つです。

今回は、乳がんと水素吸入の効果と今後の展望について詳しく解説します。

乳がんってどんながん?

乳がんは、乳腺という組織から発生するがんです。乳がんは女性の病気と思われがちですが、男性にも乳腺はあるため稀に男性が罹患することもあります。

まずは、乳がんとはどのような病気なのか詳しく見てみましょう。

症状

乳がんの代表的な症状は乳房のしこりです。早期段階では気付づきにくいですが、がんが一定以上の大きさになると自分でも触れるようになります。また、乳房の形に左右差ができる、乳房の一部にくぼみやただれができる、乳頭から血液が混ざった分泌物が出る、といった症状が現れるようになります。さらに進行して周囲のリンパ節に転移すると脇の下にしこりが触れるようになるのが特徴です。

検査

乳がんを疑う症状があった場合は、乳房の状態をよく見て、しこりがないか触れる診察を行います。そして、マンモグラフィという乳房専用のX線検査や超音波検査で乳房内にがんが疑われる病変がないか確認します。

しかし、画像検査のみでは診断はできず、本当に乳がんか調べるためには皮膚から病変に向けて針を刺して組織を採取し、顕微鏡で詳しく調べる病理検査が必要です。

治療

乳がんの治療方法は進行度や乳がんの性質によって大きく異なります。

基本的に、手術ができる進行度であれば手術を行ってがんを切除した上で、再発を予防するために放射線治療や薬物療法を行うことも珍しくありません。すでにがんが周囲の多くのリンパ節や臓器に転移しているような場合には薬物療法を主体とした治療を行い、病状に合わせて手術や放射線治療を組み合わせて行います。

なお、乳がんには女性ホルモンの作用を受けてがんが大きくなるタイプや特定の遺伝子変異によって発症するタイプなどさまざまな性質を持つがんがあります。薬物療法は日々進歩を続けており、それぞれのタイプの特徴に合わせて効果を発揮する薬剤が多く開発されているのです。

乳がん治療の実際

乳がんの5年生存率は早期段階では9割以上を越えるものの、転移が生じているような進行段階の場合は4割以下。早期段階で発見して治療を開始すれば治る見込みがあるがんですが、発見が遅れると治療をしても命を落とすケースが増えるのです。

また、乳がんの手術方法にはがんがある乳房すべてを切除する方法と一部のみを切除する方法があります。日本では一部のみを切除する「乳房温存療法」が最も多く行われていますが、乳房温存療法は再発のリスクも考えなければなりません。

一般的に乳がんは発見した時期によっては治りやすいがんの一つではあります。しかし、発見が遅れた場合や再発した場合などは治療が難しくなるケースも多く、手術、薬物療法、放射線治療を行っても十分な効果が得られない可能性もあるでしょう。

そのため、近年では標準的な治療法の他に水素吸入療法など体に負担が少なく、がんへの効果があると考えられている先進的な治療法を組み合わせる方も増えているのです。

水素吸入療法は乳がんの新しい治療法?

水素吸入療法とは、鼻から酸素と共に水素ガスを吸い込む治療方法のことです。水素ガスが私たちの体にダメージを与える活性酸素を除去する働きを持つことが分かってから、さまざまな病気の治療に使われるようになっています。

乳がんに対する水素吸入療法について詳しく見てみましょう。

活性酸素と乳がんの関係

水素ガスは体にダメージを与える活性酸素を除去して撃退する効果があるとされています。

活性酸素とは、体内に取り込まれた酸素が通常よりも活性化された状態になった酸素のことであり、増えすぎると細胞に酸化ストレスによるダメージを与えてしまいます。

活性酸素が引き金となって引き起こされる病気はたくさんありますが、がんもその一つです。活性酸素によってDNAが傷つくと異常な細胞がどんどん増殖して最終的にはがんを発症します2)

特に、乳がんの細胞は活性酸素が活発であることが知られています。近年の研究では、乳がん細胞の約9割は活性酸素を除去する酵素の不足が認められており、酵素の不足によって活性酸素が増加。DNAがダメージを受けて最終的に乳がんを引き起こすとの報告もされました3)

水素ガスは炎症性サイトカインも抑制する?

水素ガスの主な働きは活性酸素の除去ですが、その他にも炎症性サイトカインという物質を除去する働きがあります4)

炎症性サイトカインとは、炎症を促すたんぱく質のことです。体内にウイルスや細菌などの病原体が侵入したときに体を守るために必要なたんぱく質ですが、過剰になると体に害を及ぼすことがあります。

炎症性サイトカインにはいくつかの種類がありますが、TNFα(腫瘍壊死因子)と呼ばれる炎症性サイトカインは乳がん患者さんに多く見られるという研究データも。結論としては、乳がんの発生は血液中のTNFαの量と関係しているとされているのです5)

また、TNFαは新しい血管を作り出してがんを大きくするVEGF(血管内費細胞増殖因子)という物質の生成を抑える働きもあります。水素吸入療法をすればTNFαが抑制されるため、結果として乳がんの縮小や進行予防に期待できると考えられます。

このようにまだ研究段階ではありますが水素吸入療法の効果は理論上、乳がんの予防や治療にも役立つと考えられているのです。

乳がんへの水素吸入療法~実際の症例から

では、乳がん患者さんへ実際に水素吸入療法を行った症例について詳しく見てみましょう。

40代 女性

診断時にはすでに脇の下や鎖骨の下にリンパ節転移があり、手術不能状態。
温熱療法と低用量抗がん剤治療を開始したが十分な効果は認められず、薬物療法(オプジーボ)と水素吸入療法を開始した。

この患者さんは乳がんが発見された段階でステージⅣの進行段階であり、根治が望める手術は不可能でした。薬物療法などを行いましたが、十分な効果はなくオプジーボの投与と水素吸入療法を開始したそうです。

そして、9カ月後にはリンパ節に転移していたがんは縮小し、脇の下の転移はほぼ消失したとのこと。この段階で乳房にできた元のがんを切除する手術もできたそうです。

実際にどの治療法がリンパ節への転移を消失・縮小したか確実なことはわかりません。しかし、水素吸入療法を開始してから改善が認められたことから、症状改善には水素吸入療法の効果があった可能性も高いと考えられます。

また、オプジーボは「免疫チェックポイント阻害薬」という新しいタイプの癌治療薬であり、従来の抗がん剤とは全く異なるタイプの薬剤です。オプジーボは免疫を担うキラーT細胞のブレーキを外して自分自身の免疫細胞にがんを攻撃させることでがんの縮小や消失を目指す効果があります。従来の治療法では効果が出にくかったがんでも高い効果が出るケースがあり、現在では多くのがん治療に使用されています。

しかし、オプジーボが十分な効果を発揮するには、キラーT細胞が活性化していることが必須です。水素ガスは活性酸素を除去してキラーT細胞を活性化する効果もあるため、オプジーボが聞きやすくなるとされています。水素ガスによって肺がんに対するオプジーボの効果が高まるとの報告もあり、乳がんにおいても同様の効果が期待できる可能性は高いといえるでしょう6)

水素吸入療法は乳がん治療の可能性を拡げる

活性酸素や炎症性サイトカインを除去する水素吸入療法は乳がん治療に一定の効果がある可能性が考えられます。さらに、薬物治療の効果を高める可能性も指摘されており、今後の乳がん治療の可能性を大きく拡げる可能性もあるでしょう。

水素吸入療法はまだまだ発展段階ですが、さまざまな研究を重ねてよりよい治療法が開発されることが期待できます。

【私はこう考える】水素吸入と乳がん:まとめ

水素吸入療法は2016年から先進医療として認められ、心停止後の治療で救命できた方の治療に駆るようされています。しかし、水素吸入療法は活性酸素や炎症性サイトカインの除去によりさまざまな病気の治療に応用できるとして注目を集めています。

特にがん治療に有用であるとの報告が多く上がっており、女性で最も罹患率が高い乳がんも理論上は水素吸入療法の効果が期待できると考えられているのです。

しかし、現在のデータは比較対象が少ないなど必ずしも医学的に確立したものではありません。あくまでも「治療につながる可能性」を示唆しているにすぎないのです。乳がんと診断された場合は、第一に標準的な治療を行い、十分な効果が認められない場合や再発を予防したい場合などに医師とよく相談して水素吸入療法を検討しましょう。

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