《この記事の執筆者》
北海道大学医学部卒業、北海道大学医学部大学院(循環病態内科学)卒業。専門は循環器内科、総合内科。循環器内科医師として北大病院をはじめとする総合病院にて勤務後、現在は大学教授として臨床医学を教えている。
日本では、年間約100万人がガンと診断され、約40万人が命を落としているとされています1)。
胆管がんも毎年多くの方が罹患しているとされ、5年生存率や予後が悪いことで知られています。
本記事では、水素吸入療法が胆管がんの予防や改善に効果があるのかについて科学的根拠をもとに解説していきます。
胆管がんとは?
胆管がんは胆管にできる悪性腫瘍です。
胆管とは脂肪を消化するために必要な胆汁が通る管をいいます。
肝臓から十二指腸まで続いており長さは10~15cmほどです。
診断には、画像検査(超音波、CT、MRI)や内視鏡検査(内視鏡的超音波検査、内視鏡的逆行性胆管造影検査)などが用いられます。
一般的に発見された時は進行がんであることが多く予後の悪い疾患です。
胆管がんの主な症状は?
初期の段階ではしばしば無症状であり、特異的な症状はありません。
病気が進行し、早期であれば、主に以下のような症状が現れます。
- 黄疸(体が黄色く変色)
- 全身の痒み
- 褐色尿
- 灰白色便 など
さらに進行期になると、全身倦怠感や食欲不振、体重減少などが見られます。
中にはお腹を触ると腫大した胆嚢を蝕知することがありますが、痛みを伴わないのが特徴です。
胆管がんの主な原因は?
原因については完全に解明されていませんが、以下のような要因が関連すると考えられています。
- 胆石:長期間にわたり胆石が胆管内に存在すると胆管の炎症や損傷を引き起こすからです。
- 慢性胆管炎:長期間にわたる胆管の炎症や感染ががんのリスクを高めるためです。
- 胆管奇形:先天性の胆管の奇形や閉塞は胆汁の流れを妨げ、炎症や損傷を引き起こすためです。
胆管がんの治療法は?
患者の状態や病期によって様々な治療を組み合わせることが多いです。
手術が代表的治療ですが、化学療法や放射線療法、免疫療法などがあります。
手術は、腫瘍の部分的または全摘出を目的として行われ、早期の段階では治癒する可能性があります。
切除が難しい症例では、化学療法や放射線療法、免疫療法があり、これらの治療を組み合わせて治療することも多々あります。
水素吸入療法は胆管がんの予防に効果がある?
現時点では、水素吸入療法が胆管がんの予防に直接的な効果があるかどうかについての科学的エビデンスはありません。
したがって、水素吸入療法が胆管がんの予防に効果的かについては、「正直なところわからない」というのが現状です。
ここでは、これまでに報告されている胆管がんの予防法から、水素吸入を用いた予防に対する可能性について考察したいと思います。
報告されている胆管がんの予防方法
これまでの研究で以下の生活習慣が予防に有効であることが報告されています1)。
- 野菜を多く摂る
- 果物を多く摂る
- 不溶性食物繊維を多く摂る
いずれの食物も体内の酸化ストレスを減少させる作用があり、それが予防に役立っているのではと考えられています。
酸化ストレスを低減する水素吸入の可能性
水素吸入療法は、抗酸化作用や炎症抑制作用を有することが証明されています。
つまり、上記研究において予防に有効であるとされる食物と同じように体内の酸化ストレスを減少させる作用があります。
従って、水素l吸入療法はこれらの食物を摂取した時と同じような体内状態をもたらす可能性が高く、1つのアプローチとして期待が膨らみます。
今後、実際に水素吸入療法が胆管がんの予防に役立つのかについて調べた研究が報告される事を期待しています。
水素吸入療法は胆菅がんの改善に効果がある?
水素吸入療法の胆管がんに対する改善効果についても、まだ有効性が確認されておらず不明であるのが現状です。
しかし、これまでに水素吸入を含め水素療法は大腸がんや胆嚢がん、肝臓がん、胃がん、結腸がんを対象として有効性を認めた研究結果が報告されています2)。
具体的には、生存率やQOL(生活の質)、血液指標や腫瘍の縮小などの面で改善がみられたと示されています。
これらの結果報告から、水素吸入が胆管がんの改善に有効であるとするのは、飛躍のしすぎで無理があります。
とはいえ、胆管がんに対しても同様の効果が見られる可能性も0ではないでしょう。
さらに研究が進められ、水素吸入療法が胆管がんを改善するかについて解明される事を期待します。
【私はこう考える】水素吸入と胆管がん
水素吸入は従来のがん治療の補助的治療として研究されています。
水素療法が消化器がんに有効である研究結果はありますが、その1つである胆管がんについての研究成果は無いのが現状です。
しかしながら、消化器がんの進行に伴う身体症状を軽減する補助的治療として水素療法の有用性が報告されております。
具体的には、味や身体的・精神的健康に対して水素療法がプラスの影響をもたらしたとする報告です2)。
研究結果がまだまだ少なく、これを一般化して解釈することは現時点では飛躍のしすぎと考えられます。
とはいえ、有効な補助的治療が無い中で水素療法が選択され一定の効果がみられたたことは今後に期待が持てます。
胆管がんは予後の悪い疾患です。
従って、胆管がんと診断された際は第一に標準治療を行い、期待された効果が認められない場合は医師とよく相談しながら、水素療法による改善効果を期待しても良いかもしれません。
今後さらに胆管がんに対する有効性のエビデンスが確立されることを期待しています。
参考文献
- 全がん:[国立がん研究センター がん統計]
- Makiuchi, T., Sobue, T., Kitamura, T., Ishihara, J., Sawada, N., Iwasaki, M., Sasazuki, S., Yamaji, T., Shimazu, T., & Tsugane, S. (2017). The relationship between vegetable/fruit consumption and gallbladder/bile duct cancer: A population-based cohort study in Japan. International journal of cancer, 140(5), 1009–1019. https://doi.org/10.1002/ijc.30492
- Mohd Noor, M. N. Z., Alauddin, A. S., Wong, Y. H., Looi, C. Y., Wong, E. H., Madhavan, P., & Yeong, C. H. (2023). A Systematic Review of Molecular Hydrogen Therapy in Cancer Management. Asian Pacific journal of cancer prevention : APJCP, 24(1), 37–47. https://doi.org/10.31557/APJCP.2023.24.1.37