《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
むくみの原因や対策に悩んでいませんか?
特に夕方になると脚が重くなる、朝起きると顔がむくんでいる、そんな経験は誰にでもあるものです。
そのむくみに対して、最近注目されているのが「水素吸入」です。
本記事では、むくみのメカニズムから具体的な原因、そして水素吸入による新しい対策について詳しくご紹介します。あなたのむくみ対策のヒントとしてぜひご参考ください。
むくみにはどんな原因があるの?
むくみとは、皮膚の下に余分な水分が溜まった状態のことを指します。医学的には「浮腫」とも呼ばれていますが、原因は多岐に渡ります。
生活習慣や体質などでむくみやすくなるケースもありますが、なかには重篤な病気が原因の場合もあるため注意が必要な症状の一つです。
まずはむくみのメカニズムと原因について詳しく見てみましょう。
むくみのメカニズム
むくみは、皮膚の下にある細胞と細胞の隙間に余分な水分が溜まることで全体的な容積が大きくなった状態のことを指します。
私たちの毛細血管(非常に細い血管)からは血液中の余分な水分がしみ出ており、細胞と細胞の隙間に溜まっていく性質があります。溜まった水分はリンパ管に回収されるのが通常です。
しかし、毛細血管からしみ出す水分が多くなりすぎるとリンパ管に回収され切れずに水分が溜まっていってむくみを引き起こします。
むくみの原因とは?
むくみの原因は多岐に渡りますが、生活習慣に関連するものと体の不調に関連するものに分けられます。
一般的に、夕方など特定の時間帯に生じやすいむくみは生活習慣が主な原因ですが、時間帯を問わず慢性的に生じるむくみは体の不調が原因となっているケースが多いでしょう。
具体的には、それぞれどのような原因があるのでしょうか?
むくみの原因①:生活習慣
むくみは血行不良によって生じやすくなるため、運動不足、長時間のデスクワーク、冷えなどが原因として挙げられます。また、体の中に余分な水分を溜めやすくする塩分の摂り過ぎや過度な飲酒もむくみの原因です。
そのほか、ストレスや睡眠不足などでむくみが生じることもあります。
むくみの原因②:体の不調
むくみは、心臓、腎臓、肝臓の病気によって機能が低下すると引き起こされやすくなります。ホルモンバランスの乱れ、栄養不足などのむくみの原因となります。
また、ふくらはぎなど限られた部位に生じる強いむくみは、炎症、静脈瘤、血栓症などが原因であるケースも少なくありません。
むくみを改善するには?
むくみの対処法は、原因によって大きく異なります。
生活習慣が原因のむくみは、適度な運動やストレッチ、入浴など血行を促進するための対策をすれば改善していくケースがほとんどです。むくみが気になる場合は、弾性ストッキングの着用、脚を挙げて寝るといった対策もよいでしょう。
一方、病気が原因のむくみは病気自体の治療が必要となります。放っておくと胸やお腹に水が溜まるなど重篤な状態になることがあるため、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。
水素吸入はむくみの予防や改善に役立つ?
むくみの原因はさまざまですが、約6割ははっきりした原因が分からないとする報告もあります1)。むくみを改善するにはそれぞれの原因に適した対処法が必要ですが、原因が分からないため適切な対処ができずむくみに悩まされている方は少なくないでしょう。
そのため、新たなむくみの予防や改善方法の究明は今もなお続けられており、近年では水素吸入がむくみの予防や改善に役立つ可能性を示唆する研究結果も報告されています。
これまでにどのような研究結果が報告されているのか詳しく見てみましょう。
水素吸入がむくみを予防する?
2023年に、アメリカの研究チームは水素水(水素ガスが溶けた水)がふくらはぎの筋力低下の役立つとする研究結果を報告しました2)。脚のむくみはふくらはぎの筋力が低下することで血行が悪化することも要因の一つです。
この研究は、脚を固定して筋肉を萎縮させたマウスを用いた動物実験で行われました。水素水を投与した群と投与していない群に分けて運動を再開させた結果、水素水を投与したマウスは有意にふくらはぎの筋肉量が増えたことが明らかになっています。
水素吸入がむくみ予防に役立つ可能性
この研究は、マウスを用いた動物実験ですが、水素水が人に対しても筋力をアップさせる効果は期待できるかもしれません。さらに、水素水よりも効率よく水素分子を体内に取り込める水素吸入にも同様の効果は期待できるでしょう。
むくみの予防は明確な方法が確立していないため、今後のさらなる研究の進歩に期待します。
水素吸入が血行を改善してむくみを解消する?
2020年、日本の研究チームは水素吸入が毛細血管の血行を改善する効果を持つ可能性を示唆する研究結果を報告しています3)。
この研究はラットを使用した動物実験でおこなわれました。高血圧を発症させたマウスに水素吸入をさせた際の血圧や心拍数の変動を調べたところ、水素を吸入したラットは吸入していないラットと比べて有意に血圧が低下。さらには毛細血管の血流が増加していることも顕微鏡検査で確認されています。
水素吸入には毛細血管の血流を改善する効果を持つ可能性が示されました。
水素吸入がむくみの改善に役立つ可能性
この研究から、水素吸入には毛細血管の血流を増加させる可能性があることがわかりました。まだ動物実験の段階であるため、人にも同様の効果があると断言はできません。
一方で、むくみは毛細血管の血流が悪化して停滞した結果、血液中の水分がしみ出すことが発症メカニズムの一つです。水素吸入が毛細血管の血行を改善すれば、むくみの予防にも役立つと考えられるでしょう。今後のさらなる研究の進展に期待しましょう。
【私はこう考える】水素吸入とむくみ
むくみはさまざまな原因によって引き起こされ、生活習慣に起因するものもあれば病気が背景にあるものもあります。軽く思われがちな症状ではありますが、病気に寄らないむくみも「見た目」に影響を及ぼすことがあるため注意が必要です。
むくみは原因がはっきり分からないことも多く、明確な予防や治療方法がないケースも少なくありません。
今回ご紹介した2つの研究結果から、水素吸入はむくみの予防や改善に役立つ可能性を持つことが示唆されました。まだ確実な効果があると言える段階ではありませんが、今後の進展に期待します。
現状でむくみが気になっている方も、水素吸入は美容や健康に良い多くの効果があるため予防や改善方法の1つとして取り入れてみるのもよいでしょう。
参考文献
- 足の腫れ・むくみの原因は?|国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
- Sugai, K., Tamura, T., Sano, M., Uemura, S., Fujisawa, M., Katsumata, Y., Endo, J., Yoshizawa, J., Homma, K., Suzuki, M., Kobayashi, E., Sasaki, J., & Hakamata, Y. (2020). Daily inhalation of hydrogen gas has a blood pressure-lowering effect in a rat model of hypertension. Scientific reports, 10(1), 20173. https://doi.org/10.1038/s41598-020-77349-8
- Nazari, S. E., Tarnava, A., Khalili-Tanha, N., Darroudi, M., Khalili-Tanha, G., Avan, A., Khazaei, M., & LeBaron, T. W. (2023). Therapeutic Potential of Hydrogen-Rich Water on Muscle Atrophy Caused by Immobilization in a Mouse Model. Pharmaceuticals (Basel, Switzerland), 16(10), 1436. https://doi.org/10.3390/ph16101436