一言まとめ
男性被験者10名が、20分間サイクリング運動を行う際に、1%水素吸入を行ったところ呼気アセトンレベル及び、酸素摂取量が有意に増加した。
3分で読める詳細解説
結論
有酸素運動時の水素吸入によって、脂質代謝が亢進する。
研究の背景と目的
有酸素運動は、脂肪代謝のための有用な手段として広く認識されている。一方、脂質代謝はミクロな視点では、脂肪酸をエネルギー源として利用する過程といえる。水素分子は、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を増強するとされているため、脂質代謝が促進される可能性があり、これを明らかにすることを目的とした。また、ミトコンドリアの酸化的リン酸化はROSを増加させ、酸化ストレスを増強することが知られているため、同時に悪影響がないかを調査した。
研究方法
健康な男性12名を対象としたランダム化単盲検プラセボ対照クロスオーバーデザインを用いた研究。20分間の中等度のサイクリング運動中に1%水素吸入か対照ガスの吸入を行った。座位安静45分間に1%水素吸入か対照ガスの吸入を実施した。(参加人数 サイクリング運動:10名、座位安静:6名)
呼気中のアセトンレベルと血中の酸化ストレスマーカーを比較した。
研究結果
Appendix(用語解説)
- 呼気アセトンレベル:脂質代謝の指標の一つ。アセトンは脂肪酸の代謝産物であり、脂肪燃焼が活発に行われている状態では、呼気中のアセトン濃度が上昇する。呼気アセトンレベルを測定することで、脂質代謝の状態を非侵襲的に評価できる。
- 酸素摂取量:運動中に体内に取り込まれる酸素の量。酸素摂取量は、有酸素運動の強度や持久力を反映する指標である。酸素摂取量が高いほど、エネルギー産生に必要な酸素を多く取り込んでいることを示す。
- 脂質代謝:脂肪酸をエネルギー源として利用する代謝過程。脂質代謝は、体内の脂肪を分解し、エネルギーを産生するために重要な役割を果たす。運動や食事制限によって脂質代謝が促進されると、体脂肪が減少する。
- ミトコンドリア:細胞内小器官で、エネルギー産生に重要な役割を果たす。ミトコンドリアは、脂肪酸や糖質を分解し、ATPを合成する。ミトコンドリアの機能が低下すると、エネルギー産生が減少し、細胞の機能不全につながる。
- 酸化的リン酸化:ミトコンドリアでのATP合成過程。酸化的リン酸化は、電子伝達系と呼ばれる一連の酵素反応によって駆動される。この過程で、酸素分子が電子を受け取り、水分子に還元される。酸化的リン酸化の効率が高いほど、より多くのATPを産生できる。
- ROS:活性酸素種。酸素分子から派生した化学的に反応性の高い分子やイオンの総称。ROSは、生体内で様々な役割を果たすが、過剰に産生されると酸化ストレスを引き起こし、細胞や組織にダメージを与える。
- 酸化ストレス:ROSと抗酸化システムのバランスが崩れた状態。酸化ストレスは、細胞の損傷や炎症、老化などに関与する。適度な酸化ストレスは、生体の恒常性維持に必要だが、過剰な酸化ストレスは様々な疾患の原因となる。
- ランダム化単盲検プラセボ対照クロスオーバーデザイン:被験者をランダムに2群に分け、一方の群には実薬を、もう一方の群にはプラセボを投与し、一定期間後に実薬とプラセボを入れ替えて投与する研究デザイン。このデザインは、被験者内比較が可能であり、個人差の影響を最小限に抑えられる利点がある。
- d-ROMs:酸化ストレスマーカーの一つ。d-ROMsは、活性酸素代謝物(Reactive Oxygen Metabolites)の略称で、血中の過酸化物質の濃度を反映する。d-ROMsが高値であるほど、酸化ストレスが高いことを示唆する。
- BAP:抗酸化活性マーカーの一つ。BAPは、生物学的抗酸化能(Biological Antioxidant Potential)の略称で、血漿中の抗酸化物質の総量を反映する。BAPが高値であるほど、抗酸化能が高いことを示唆する。
論文情報
タイトル
Inhalation of molecular hydrogen increases breath acetone excretion during submaximal exercise: a randomized, single-blinded, placebo-controlled study(水素吸入は運動中の呼気アセトン濃度を高める)
引用元
Hori, A., Ichihara, M., Kimura, H., Ogata, H., Kondo, T., & Hotta, N. (2020). Inhalation of molecular hydrogen increases breath acetone excretion during submaximal exercise: a randomized, single-blinded, placebo-controlled study. Medical gas research, 10(3), 96–102. https://doi.org/10.4103/2045-9912.296038