研究論文
水素吸入の膵炎に対する保護作用

水素吸入の膵炎に対する保護作用

一言まとめ

マウスに水素ガスを吸入させた後にセルレイン誘発性急性膵炎を発症させたところ、膵臓の病理学的変化や炎症が軽減し、膵臓組織中のHsp60タンパク質発現量が増加した。

3分で読める詳細解説

結論

水素ガス吸入前処置は、セルレイン誘発性急性膵炎マウスモデルにおいて膵炎の進行を抑制する可能性がある。

研究の背景と目的

急性膵炎は予後不良の疾患だが、その発症メカニズムには不明な点が多い。近年、水素ガス吸入が急性膵炎モデル動物に対して保護効果を示すことが報告されているが、その詳細な作用機序は不明である。一方、Hsp60は膵酵素の合成・分泌に関与するタンパク質だが、急性膵炎における役割は不明である。そこで本研究では、セルレイン誘発性急性膵炎マウスモデルを用いて、水素ガス吸入の効果とその機序におけるHsp60の関与を検討した。

研究方法

C57BL/6マウスを、コントロール群(NS群)、急性膵炎群(AP群)、水素ガス吸入コントロール群(HNS群)、水素ガス吸入急性膵炎群(HAP群)の4群に分けた(各群n=6-8)。AP群とHAP群のマウスには、1時間毎に6回、セルレインを腹腔内投与して急性膵炎を誘発した。HAP群とHNS群のマウスには、セルレイン投与の3日前から水素ガス(42%H2 + 21%O2 + 37%N2​)を吸入させた。解析項目は、膵臓の病理組織学的変化、血中アミラーゼ・リパーゼ活性、血中IL-1β・IL-6濃度、膵臓のグルタチオン(GSH)・マロンジアルデヒド(MDA)含量、膵臓のHsp60 mRNAおよびタンパク質発現量とした。

研究結果

  • 水素ガス吸入前処置により、急性膵炎マウスの膵臓における浮腫、空胞変性、炎症細胞浸潤、壊死などの病理学的変化が有意に軽減した。
  • 急性膵炎マウスで上昇した血中アミラーゼ・リパーゼ活性、IL-1β・IL-6濃度が、水素ガス吸入前処置により有意に低下した。
  • 急性膵炎マウスの膵臓で低下したGSH含量が水素ガス吸入前処置で増加し、上昇したMDA含量は低下した。
  • 急性膵炎マウスの膵臓で低下したHsp60タンパク質発現量が、水素ガス吸入前処置により誘発1時間後と5時間後で有意に増加した。一方、Hsp60 mRNA発現量に一定の傾向は見られなかった。

Appendix(用語解説)

  • セルレイン:コレシストキニンのアナログで、高用量の投与により実験動物に急性膵炎を誘発する。
  • Hsp60:熱ショックタンパク質の一種。ミトコンドリアに局在し、タンパク質の折りたたみや膜透過、会合・解離を助ける分子シャペロンとして機能する。

論文情報

タイトル

Pre-inhalation of hydrogen-rich gases protect against caerulein-induced mouse acute pancreatitis while enhance the pancreatic Hsp60 protein expression(セルレイン誘発性マウス急性膵炎モデルにおいて、水素ガス吸入前処置は膵臓Hsp60タンパク質発現を増加させつつ膵炎に対して保護作用を示す)

引用元

Li, K., Yin, H., Duan, Y., Lai, P., Cai, Y., & Wei, Y. (2021). Pre-inhalation of hydrogen-rich gases protect against caerulein-induced mouse acute pancreatitis while enhance the pancreatic Hsp60 protein expression. BMC gastroenterology21(1), 178. https://doi.org/10.1186/s12876-021-01640-9

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