研究論文
水素吸入は酸化ストレスを軽減し血管リモデリングを予防する

水素吸入は血管リモデリングを予防する

一言まとめ

マウスに2週間の水素ガス吸入を行った後、大腿動脈にカフを装着して血管傷害を誘発したところ、水素吸入群では新生内膜形成や細胞増殖、酸化ストレスが抑制され、血管リモデリングが軽減した。

3分で読める詳細解説

結論

水素吸入は酸化ストレスを軽減することで血管リモデリングを抑制する可能性がある。

研究の背景と目的

心血管疾患は世界的に主要な死因の一つであり、その発症や進行には活性酸素種(ROS)による慢性的な酸化ストレスが関与している。水素分子は選択的にヒドロキシルラジカル(・OH)やペルオキシ亜硝酸(ONOO-)などの細胞毒性の高いROSを還元することで抗酸化作用を発揮し、様々な疾患の予防・改善効果が報告されている。そこで本研究では、水素ガスの持続吸入が血管リモデリングに及ぼす影響をマウスのカフ誘発血管傷害モデルを用いて検討した。

研究方法

  • 8週齢の雄性C57BL/6マウスを水素吸入群と対照群(空気吸入群)に無作為に割り付け。
  • 水素吸入群には1.3%水素ガス(21% O2, 77.7% N2)を、対照群には空気(21% O2, 79% N2)を、それぞれ2週間連続で吸入させた。
  • 2週間後、全マウスに麻酔下で大腿動脈にポリエチレン製カフを装着して血管傷害を誘発。その後も吸入を継続した。
  • カフ装着14日後に大腿動脈を採取し、組織学的解析や免疫染色、遺伝子発現解析などを行った。

研究結果

  • 水素吸入群ではカフ装着14日後の新生内膜形成面積が対照群の0.55倍に有意に抑制された。[Fig 2]
  • 新生内膜における細胞増殖マーカーPCNA陽性細胞数も水素群で0.69倍に減少した。[Fig 3]
  • 水素吸入群ではNADPHオキシダーゼNOX1の発現が対照群の0.23倍に低下したが、p40phoxやp47phoxの発現に差はなかった。[Fig 4]
  • スーパーオキシド産生量に群間差はなかったが、ヒドロキシルラジカルとペルオキシ亜硝酸は水素群で0.84倍に減少した。[Fig 5]
  • 酸化ストレスによるDNA損傷マーカーの8-ニトログアノシンと8-ヒドロキシデオキシグアノシンは水素群でそれぞれ0.93倍、0.84倍に低下した。[Fig 6]
  • 以上より、水素吸入は一部のROSを選択的に抑制することで酸化ストレスを軽減し、血管リモデリングを抑制したと考えられる。
  • ただし炎症性サイトカインへの影響は明らかでなく、詳細なメカニズムは不明である。

Appendix(用語解説)

  • 活性酸素種(ROS):スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシルラジカルなど、酸素に由来する反応性の高い分子の総称。
  • 新生内膜:血管の内膜が肥厚して血管内腔を狭窄させる組織。動脈硬化などで見られる。
  • NADPHオキシダーゼ:スーパーオキシドの産生を触媒する酵素の一群。NOX1はその一種。
  • 8-ニトログアノシン、8-ヒドロキシデオキシグアノシン:ROSによるDNA損傷の指標となる物質。

論文情報

タイトル

Constitutive hydrogen inhalation prevents vascular remodeling via reduction of oxidative stress(持続的な水素吸入は酸化ストレスを軽減することで血管リモデリングを予防する)

引用元

Kiyoi, T., Liu, S., Takemasa, E., Nakaoka, H., Hato, N., & Mogi, M. (2020). Constitutive hydrogen inhalation prevents vascular remodeling via reduction of oxidative stress. PloS one15(4), e0227582. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0227582

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