《この記事の執筆者》
北海道大学医学部卒業、北海道大学医学部大学院(循環病態内科学)卒業。専門は循環器内科、総合内科。循環器内科医師として北大病院をはじめとする総合病院にて勤務後、現在は大学教授として臨床医学を教えている。
腎臓は体内から余分な水分や毒素を排出し、血液の浄化を行う生命維持に欠かせない器官です。
この機能が低下したものを腎臓病と呼び、急勢腎障害や腎臓結石など様々な疾患があります。
近年この腎臓病の発症や進行に活性酸素が関わっていることがわかってきており、活性酸素を除去する水素吸入が有効であると期待が寄せられています。
本記事では、水素吸入療法が腎臓病の予防や改善に効果があるのかについて、これまでに報告されている研究データをもとに考察していきます。
腎臓病について
腎臓は体内の老廃物や余分な液体を除去し、血圧や電解質のバランスを維持する重要な臓器です。
腎臓病には、主に以下のものがあります。
- 急性腎障害
- 慢性腎不全
- 腎臓結石
- 多嚢胞性腎臓病
- 腎細胞癌 など
進行すると腎不全に進展して透析や腎移植が必要になる場合があります。
腎臓病の主な原因や症状
腎臓病の主な原因には、酸化ストレスが要因となる高血圧や糖尿病などの生活習慣病、感染症、薬物の副作用、遺伝などがあります。
症状は、初期では現れないことが多く、進行すると疲労感、むくみ、尿量減少、血尿、蛋白尿、貧血などが現れることがあります。
慢性腎臓病になると、徐々に腎機能が低下し腎不全に至ることがあります。
早期の診断と治療が重要で健康診断などを利用した定期的な腎機能チェックが重要です。
腎臓病の主な治療法
腎臓病の治療法には、主に以下のものが挙げられます。
- 薬物療法(例:高血圧や糖尿病の治療)
- 生活習慣の改善(例:バランスの取れた食事、適切な運動、禁煙)
- 腎臓機能を保護するための薬物(例:蛋白尿や高血圧の管理)
- 腎機を代替する治療(例:透析治療や腎移植)
- 栄養療法
腎臓病は様々な疾患があるため、個々の患者の状況に応じて治療計画が立てられます。
水素吸入は腎臓病の予防に効果はある?
水素吸入は酸化ストレスや炎症の軽減を認めることが動物実験では報告されておりますが、臨床的な有効性を示す十分な証拠はまだありません。
従って、水素吸入が腎臓病の予防に有効であるか否かを述べるにはさらなる研究が必要です。
予防においては、バランスの取れた食事、塩分や砂糖の摂取の制限、喫煙や過度の飲酒の回避、適度な運動、定期的な健康診断や血圧、血糖、腎機能の検査を受けることが重要であることは言うまでもありません。
しかしながら、有望な研究成果を1つ紹介いたします。
水素吸入は腎臓結石の予防に有効?
マウスを用いた中国の動物実験では、水素吸入が腎臓結石の予防に有効ではないかとの可能性が示唆されています。
具体的には、水素吸入により酸化ストレスと炎症を抑制することにより、腎臓中の結晶化を抑制するとともに、グリオキシル酸による腎尿細管上皮細胞の障害を抑制する可能性を報告しました1)。
同時に、炎症に関連する物質であるオステオポンチン(OPN)、CD44、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)を抑制したことが報告されています。
さらに、本治療による副作用はほとんど認めなかったことが報告されています。
このような結果は、腎臓結石の予防として新たな治療選択になりうることが期待されます。
水素吸入は腎臓病の改善に効果はある?
現時点では、腎臓病に対するサポート治療としての水素吸入を直接的に調べた研究がないため、水素吸入が腎臓病治療のサポート治療になりうるかは不明であるといえます。
しかしながら、腎臓病が進展する原因として過剰な活性酸素による酸化ストレスや炎症が関与していることは、動物や人を対象とした研究において明らかになっております2)。
水素の抗酸化作用による腎臓病への有効性
水素は抗酸化作用を有することを考えますと、理論的には腎臓病のサポート治療として有効である可能性は想像に難しくありません。
一部の研究では、水素を含んだ液体を摂取することにより急性腎障害や慢性腎臓病、糖尿病性腎症、薬剤性腎障害などの腎臓病において有効であると報告されています2)。
腎臓病は様々な疾患の総称ですので、疾患ごとの病状の進展は異なるため疾患ごとの水素吸入の有効性を検討しなければ有効なエビデンスを導くことはできないと考えます。
したがって、水素吸入が腎臓病のサポート治療になりうるか否かの研究結果は現在のところ報告されていないためあくまで推測の域は出ません。
【私はこう考える】水素吸入と腎臓病
水素吸入は腎臓病の予防およびサポート的治療として研究されています。
いくつかの研究は、動物実験において、糖尿病性腎臓病、抗がん剤による腎機能障害、腎結石、急性腎障害、透析などの病態において、炎症改善効果や腎機能改善効果をもたらすと報告しています2)。
しかしながら、水素吸入が有する潜在的効果を有効とする証明までには至っておりません。
したがって、腎臓病の予防およびサポート治療に対して水素吸入が効果的とすることは時期早々と考えます。
今回紹介した研究では、腎臓病の中でも腎臓結石に対して予防効果を検討した結果、動物実験の段階ではありますが、炎症や酸化ストレスを抑制するとともに腎臓内の石灰化を抑制することが報告されました。
腎臓結石は尿路結石の1つの疾患に属しますが、尿路結石の年間罹患率は人口10万人あたり138人であり、男性では40歳代、女性では50歳代に多く、男性7人に1人、女性では15人に1人が生涯に経験する比較的一般的な病気です3)。
したがって、本研究が新たな予防法として確立された際には、恩恵を受ける患者数が多いため期待は膨らみます。
今後はさらに腎臓病に対する有効性のエビデンスが確立されることを期待しています。
参考文献
- Peng, Z., Chen, W., Wang, L., Ye, Z., Gao, S., Sun, X., & Guo, Z. (2015). Inhalation of hydrogen gas ameliorates glyoxylate-induced calcium oxalate deposition and renal oxidative stress in mice. International journal of clinical and experimental pathology, 8(3), 2680–2689. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4440082/
- Hirano, S. I., Ichikawa, Y., Sato, B., Takefuji, Y., & Satoh, F. (2023). Clinical Use and Treatment Mechanism of Molecular Hydrogen in the Treatment of Various Kidney Diseases including Diabetic Kidney Disease. Biomedicines, 11(10), 2817. https://doi.org/10.3390/biomedicines11102817
- 一般社団法人日本分泌学会『一般の皆様へ INDEX』