研究論文
Protection of oral hydrogen water as an antioxidant on pulmonary hypertension(モノクロタリン誘発肺高血圧ラットモデルにおける経口投与と注射による水素の比較効果)

肺高血圧ラットモデルにおける水素の効果

一言まとめ

肺高血圧を誘発したラットに対して、水素水または水素生理食塩水を投与すると、肺動脈圧と右室肥大が有意に抑制された。抗酸化作用と抗炎症作用が主要な要因と考えられる。

3分で読める詳細解説

結論

水素水と水素生理食塩水のいずれも、モノクロタリン誘発肺高血圧を抑制し右室肥大を軽減する。

研究の背景と目的

肺高血圧は、肺動脈圧と右室負荷が徐々に上昇し、最終的に心不全へと進行する重篤な疾患である。従来の治療は主に血管拡張薬に依存し、病態を根本的に改善するには至っていない。近年、活性酸素種(ROS)と呼ばれるフリーラジカルが肺血管障害を進行させる一因とされ、選択的抗酸化物質の有用性が示唆されている。本研究は、水素分子がヒドロキシルラジカルや過酸化亜硝酸(ONOO-)などの有害な活性酸素を選択的に除去する特性に着目し、水素がモノクロタリン(MCT)で誘発した肺高血圧ラットモデルに及ぼす効果を検証する目的で行われた。

研究方法

  • 対象動物
    • SDラット(体重250〜280g)48匹を用い、4群に等分割した。いずれも実験開始前に飼育環境へ1週間順化させた。
  • 群分けと介入方法
    • SHAM群: MCT未投与の対照群。代わりに水素水を飲水として与えた。
    • MCT群: MCT(80 mg/kg、腹腔内投与)を行い、以後は普通の飲水を与えた。
    • 経口水素水群: MCT投与後14日目以降、水素水(0.55〜0.65 mmol程度の水素濃度)を飲水として与えた。
    • 腹腔内投与水素水群: MCT投与後14日目以降、水素を高圧下で飽和させた水素生理食塩水(0.6 mmol/L)を腹腔内注射で投与した。
  • 対照群の設定
    • MCTを投与しないSHAM群を対照とし、肺高血圧がない通常状態の指標とした。
  • 評価方法
    • 肺動脈圧(mPAP)の測定: 頸静脈からカテーテルを挿入し、肺動脈圧を測定。
    • 右室肥大指数(RVHI): 解剖後、右室重量を左室+中隔重量で割った値(RV/(LV+S))で評価。
    • 炎症・酸化ストレス関連指標: 肺組織における3-ニトロチロシン(3-nt)およびICAM-1の免疫染色およびウェスタンブロット解析。肺組織病理のHE染色。
    • 観察期間: MCT投与14日後に初回測定を行い、その後さらに14日間の水素介入を実施したうえで再度測定し、摘出組織を解析した。

研究結果

  • 肺動脈圧(mPAP)の変化
    • SHAM群: 19.8 ± 5.1 mmHg
    • MCT群: 44.6 ± 7.2 mmHg
    • 経口水素水群: 31.4 ± 6.5 mmHg
    • 腹腔内投与水素水群: 32.2 ± 6.7 mmHg
      MCT群はSHAM群に比べて肺動脈圧が有意に上昇していたが、水素水および水素生理食塩水投与群では有意に低下した(p<0.05)。
  • 右室肥大指数(RVHI)の変化
    • SHAM群: 0.24 ± 0.014
    • MCT群: 0.59 ± 0.065
    • 経口水素水群: 0.45 ± 0.048
    • 腹腔内投与水素水群: 0.47 ± 0.052
      MCT投与による右室肥大が顕著であったが、両方の水素投与で肥大が軽減された(p<0.05)。
  • 炎症や酸化ストレス指標の変化
    • 3-ニトロチロシン(3-nt)陽性細胞率は、MCT群が66±11%と最も高く、経口水素水群と腹腔内投与水素水群では約42〜44%まで低下。
    • ICAM-1陽性細胞率は、MCT群で28±5%、水素投与群では12〜13%まで減少。
    • 肺組織の炎症性細胞浸潤や肺胞隔壁の肥厚も水素投与群で軽減が見られた。
  • 主要な考察
    • 水素分子が選択的にヒドロキシルラジカルや過酸化亜硝酸を除去することで、過剰な酸化ストレスと炎症応答を抑制すると考えられる。これにより肺血管抵抗の上昇と右室負荷が低減され、肺高血圧の進展を食い止める可能性が示唆された。また、経口投与と腹腔内注射のいずれでも有意差は認められず、ともに同等の効果を示した。
  • 研究の限界
    • 本研究はラットモデルを用いた動物実験であり、その作用機序の詳細やヒトへの応用可能性については更なる研究が必要とされる。

Appendix(用語解説)

  • 肺高血圧: 肺動脈圧が病的に上昇する疾患。心臓の右室に過剰な負荷がかかり、進行すると心不全につながる。
  • 右室肥大: 肺血管抵抗の上昇に伴い、右心室が肥厚する現象。RVHI(右室重量 / 左室+中隔重量)で評価される。
  • 3-ニトロチロシン(3-nt): 過酸化亜硝酸(ONOO-)によってチロシン残基が修飾されて生成する物質。体内の「ニトロ化ストレス」指標となる。
  • ICAM-1: 細胞間接着分子の一種。炎症時に血管内皮などで発現が増加し、炎症細胞の浸潤を促す。
  • ヒドロキシルラジカル/過酸化亜硝酸(ONOO-): 活性酸素種の中でも特に強力な酸化力を持ち、細胞障害や炎症を引き起こす。
  • 水素分子: H₂の形態で存在する分子状の水素。ヒドロキシルラジカルや過酸化亜硝酸を選択的に除去するとされる。

論文情報

タイトル

Protection of oral hydrogen water as an antioxidant on pulmonary hypertension(モノクロタリン誘発肺高血圧ラットモデルにおける経口投与と注射による水素の比較効果)

引用元

He, B., Zhang, Y., Kang, B., Xiao, J., Xie, B., & Wang, Z. (2013). Protection of oral hydrogen water as an antioxidant on pulmonary hypertension. Molecular biology reports40(9), 5513–5521. https://doi.org/10.1007/s11033-013-2653-9

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