研究論文
水素吸入は腎臓の障害を軽減する

水素吸入は腎臓の障害を軽減する

一言まとめ

慢性間欠的低酸素(CIH)は腎臓の鉄過剰を引き起こす。そして過剰に蓄積した鉄は、アポトーシスと酸化ストレスをもたらし腎傷害を引き起こす。水素吸入は抗酸化作用によって酸化ストレスを軽減し、腎障害の発生を抑制する可能性がある。

3分で読める詳細解説

結論

過剰な鉄は酸化ストレスをもたらし腎傷害を引き起こすが、水素吸入は抗酸化作用によって酸化ストレスを軽減し、腎障害の発生を抑制する可能性がある。

研究の背景と目的

  • 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は様々な疾患の原因・悪化因子として知られる。OSAによって慢性間欠的低酸素(CIH)が引き起こされる。
  • 鉄が過剰になると有害な活性酸素種が生成され、酸化ストレスを引き起こす。
  • 本研究は、CIHが腎臓の鉄代謝に与える影響と、それに対する水素吸入の効果を明らかにすることを目的とした。

研究方法

  • ラットを4群(コントロール群、CIH群、CIH+水素群、コントロール+水素群)に分けた。
  • CIH群は、35日間、1日8時間、3分ごとに酸素濃度を21%から9%に変化させるCIHに曝露。
  • CIH+水素群は、CIH後に毎日2時間の水素吸入を行った。
  • 腎組織の病理学的検査、血清クレアチニン値、アポトーシス、酸化ストレスマーカー(MDA、SOD)、腎臓の鉄量などを評価した。

研究結果

  • CIH+水素吸入群のラットでは、コントロール群及びCIH群と比較して、CIHによって引き起こされる腎傷害、アポトーシス、酸化ストレスが顕著に軽減していた。
  • 具体的には、組織学的にはCIH群で見られた腎組織の浮腫が水素吸入によって軽減した。
  • また、血清クレアチニンレベルは、CIH群では対応するコントロール群と比較して7日目、14日目、35日目のそれぞれで高値を示したが、CIH+水素吸入群のデータとも比較すると、正常化した。
  • CIH群ではアポトーシス率が増加したが、CIH+水素吸入群ではアポトーシス率が有意に抑制された。
  • CIH群ではMDAレベルの上昇、SOD活性の低下がみられたが、水素吸入によってこれらが改善した。
  • CIH群では、近位尿細管に鉄の沈着がみられたが、CIH+水素吸入群では鉄の沈着が抑制された。
  • CIH群では腎臓の鉄の再吸収を促進するタンパク質の発現がみられたが、CIH+水素吸入群ではこれが抑制された。
  • 水素吸入は、CIHによって生じるHIF-1αの発現を抑制した。
  • 水素吸入は、HO-1の発現を抑制することでCIHによって生じるヘムからの鉄の抽出を抑制した。
  • 水素吸入は、CIHによる腎臓のアポトーシス、酸化ストレス、鉄過剰、鉄の代謝異常を抑制することで腎障害の改善に寄与する可能性がある。

Appendix(用語解説)

  • CIH(慢性間欠的低酸素):断続的に低酸素状態にさらされること。OSAなどで起こる。
  • MDA(マロンジアルデヒド):脂質過酸化の最終産物。酸化ストレスマーカー。
  • SOD(スーパーオキシドジスムターゼ):活性酸素を分解する酵素。抗酸化マーカー。
  • HIF-1α(低酸素誘導因子1α):低酸素に反応して様々な遺伝子の転写を活性化する。
  • HO-1(ヘムオキシゲナーゼ1):ヘムを分解し、鉄イオンを遊離する酵素。HIF-1αにより発現が誘導される。

論文情報

タイトル

Hydrogen Gas Alleviates Chronic Intermittent Hypoxia-Induced Renal Injury through Reducing Iron Overload(水素ガスは鉄の過剰蓄積を減らすことで、慢性間欠的低酸素による腎臓の障害を軽減する)

引用元

Guan, P., Sun, Z. M., Luo, L. F., Zhao, Y. S., Yang, S. C., Yu, F. Y., Wang, N., & Ji, E. S. (2019). Hydrogen Gas Alleviates Chronic Intermittent Hypoxia-Induced Renal Injury through Reducing Iron Overload. Molecules (Basel, Switzerland), 24(6), 1184. https://doi.org/10.3390/molecules24061184

専門家のコメント

三國ユウジ 先生のアバター

三國ユウジ 先生

今でこそ、閉塞性睡眠時無呼吸の危険性が世間的にも広く認知されてきていますが、合併症やその治療については、まだまだ明らかになっていないことがあります。
本研究で明らかにされた、CIHによる様々な反応を水素吸入が効果的に抑制していたことは注目すべきことです。
この病態を有する患者さんでは、睡眠時無呼吸に起因する心臓血管疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患などの病態が併存する可能性もありますが、水素吸入が効果的に作用するメカニズムを考えると、各臓器に保護的に作用する可能性もあります。ヒトを対象とした大規模なRCTが待たれます。

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