血液透析に伴う重度の倦怠感を訴える患者2名に、水素を溶かした透析液と水素吸入を3ヶ月間併用した結果、倦怠感が消失し生活の質(QOL)が著しく改善した。
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結論
水素豊富透析液と水素吸入の併用は、透析患者の重い倦怠感を解消する可能性がある。
研究の背景と目的
血液透析を受ける患者の多く(60%〜97%)は、生活の質を著しく低下させ、時には生命にも関わる重度の倦怠感に悩まされている 。この倦怠感の明確な原因は不明だが、治療に伴う酸化ストレスや炎症が関与していると考えられている 。
これまでに、水素を溶かした透析液(水素豊富透析液)を使うことで倦怠感が和らぐことが報告されていたが、その効果は限定的だった 。そこで本研究は、水素豊富透析液に加えて水素吸入を併用し、体内に供給する水素の量を増やすことで、透析患者の倦怠感をさらに強力に改善できるかを検証することを目的とした 。
研究方法
- 対象者
- 症例1:64歳男性、腎硬化症による末期腎不全、透析歴23年
- 症例2:53歳男性、慢性糸球体腎炎による末期腎不全、透析歴30年
- 介入方法
- 従来から受けていた水素豊富透析液による治療に、水素吸入を追加で3ヶ月間実施した 。
- 水素濃度:
- 水素豊富透析液:平均300 ppb
- 水素吸入:2.5%濃度の水素ガス
- 流量: 250 mL/分
- 頻度: 週3回
- 期間: 3ヶ月間
- 実施時間: 血液透析中の4〜5時間
- 対照群の設定
- 本研究は症例報告のため、厳密な対照群は設定されていない 。介入前(水素豊富透析液単独)の状態との比較をもって効果を評価している 。
- 評価方法
- 倦怠感: SONG-HD Fatigue スコア(0点:倦怠感なし 〜 9点:最大の倦怠感)
- 生活の質 (QOL): EQ-VAS(0点:想像しうる最悪の健康状態 〜 100点:想像しうる最高の健康状態)
- 炎症マーカー: 血清中のCitH3(シトルリン化ヒストンH3)の値
研究結果
- 倦怠感の消失とQOLの改善
- 両患者ともに、倦怠感を示すSONG-HD Fatigueスコアが、併用療法前の「3」から「0(倦怠感なし)」へと完全に消失した 。
- QOLを示すEQ-VASスコアは、症例1で「30」から「100」へ、症例2で「35」から「100」へと、最高の健康状態を示すスコアまで劇的に改善した 。
- 併用療法を中止し、従来の透析方法に戻したところ、両患者の倦怠感スコアは「9」、QOLスコアは「0」にまで悪化した 。
- 炎症マーカーの低下
- 炎症の指標である血清CitH3の値が、透析後に両患者で低下した(症例1: 8.48→1.58 ng/mL, 症例2: 6.71→4.32 ng/mL)。
- 考察と研究の限界
- 水素吸入を併用することで、水素豊富透析液単独よりも効果的に倦怠感を解消できることが示唆された 。この効果は、水素分子が持つ抗酸化・抗炎症作用により、体内の炎症反応(NETs形成)が抑制されたためと考えられる 。
- 本研究は対象者が2名のみの症例報告であり、この結果を一般化するには、より多くの患者を対象とした大規模な研究が必要である 。
Appendix(用語解説)
- 血液透析(HD): 腎臓の代わりに機械を使って、血液中の老廃物や余分な水分を取り除く治療法。
- QOL(Quality of Life): 「生活の質」と訳される。病気の有無だけでなく、精神的な満足度や日常生活の快適さを含めた、総合的な幸福度の指標。
- 酸化ストレス: 体内で作られる「活性酸素」が過剰になり、細胞を傷つけてしまう状態。老化や多くの病気の原因と考えられている。
- CitH3(シトルリン化ヒストンH3): 体内で炎症が起きていることを示す目印(マーカー)の一つ。特に、NETsと呼ばれる物質が放出される際に増える。
- NETs(好中球細胞外トラップ): 白血球の一種である好中球が、病原体を捕まえるために放出する網状の物質。しかし、過剰に作られると自らの体を傷つけ、炎症を悪化させる原因にもなる。透析患者では作られやすいことが知られている 。
論文情報
タイトル
Nakazawa, R., Nagami, S., Nozaki, H., Yataka, M., Akiyama, K., Uchino, T., & Azuma, N. (2025). Fatigue disappearance in hemodialysis patients by dual approach with hydrogen gas inhalation and hydrogen-enriched dialysate: two case reports(血液透析患者における水素ガス吸入と水素濃縮透析液の併用アプローチによる疲労感の消失:2症例報告)
引用元
Nakazawa, R., Nagami, S., Nozaki, H., Yataka, M., Akiyama, K., Uchino, T., & Azuma, N. (2025). Fatigue disappearance in hemodialysis patients by dual approach with hydrogen gas inhalation and hydrogen-enriched dialysate: two case reports. Medical gas research, 15(1), 122–123. https://doi.org/10.4103/mgr.MEDGASRES-D-24-00024
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