「HHOガスの方が健康効果が高い!」
こんな主張を見聞きし、H2ガス(水素分子)を発生させる水素吸入器はダメなの?と不安になられている方も多いでしょう。
結論からお伝えすると、現時点での研究報告を考慮すると、無理にHHOガスを選ぶ必要はなく、従来のH2ガス(水素分子)を発生させる水素吸入器で十分合理的と考えられます。
この記事では、なぜそう言えるのか、HHOガスとH2ガスの違いから、科学的根拠や価格といった様々な角度から解説していきます。この記事を最後までお読みいただければ、ご自身にとって最適な水素吸入器を選ぶための確かな知識が身につくはずです。
《この記事の執筆者》

当サイト「すいかつねっと」の運営者。水素の可能性に魅了され、日々独自に探求する水素健康アドバイザー。主に海外の論文をもとに水素を研究し、少しでも水素を活用して幸せになれればと情報を発信。
HHOガス水素吸入器を否定するのではなく、現時点での科学的根拠に基づいた客観的な情報提供を目的としています。実際、HHOガス水素吸入器を使われて違いを感じられている方もおられるので、最終的な判断はご自身で行なってください。
HHOガスとは?基本とその特徴

HHOガスは、「水素酸素ガス」とも呼ばれ、水素が原子状態で存在するガスとされています。
基本的には、水を電気分解した際に発生する水素と酸素が2:1の比率で混ざった「混合ガス」のことです。
しかし、HHOガスが単なる混合ガスとしてではなく特別に注目される理由は、このガスの中に「原子状水素(H)」という特殊な状態の水素が含まれている、と主張されている点にあります。この「原子状水素」こそが、HHOガスの特徴や効果を語る上で、中心的なキーワードとなっているのです。
では、その特徴や主張について詳しく見ていきましょう。
HHOガスの特徴「原子状水素(H)」とは?
HHOガスの最大の特徴として挙げられるのが、「原子状水素(H)」の存在です。
私たちが通常「水素ガス」と呼んでいるものは、水素原子(H)が2つ安定的に結合した「水素分子(H2)」です。
一方、原子状水素(H)は、その結合が解けて水素原子が単独で存在している状態を指します。
なぜHHOガスは「効果が高い」と言われるのか?
「HHOガスの方がH2ガスよりも効果が高い」と主張される主な根拠は、原子状水素(H)の高い反応性にあります。化学的な話になりますが、電子が1つで不安定であり、近くにある原子と結合しようとするのです。
体内の過剰な活性酸素は、老化や様々な病気の原因になると考えられています。HHOガスに含まれるとされる反応性の高い原子状水素(H)が、この活性酸素をより効率的に除去してくれるため、水素分子(H2)よりも優れた抗酸化作用を発揮する、というのが肯定派の主な主張です。
科学的根拠を重視するなら「H2ガス(水素分子)」吸入を推奨
ここからは、現時点で「HHOガスがH2ガスより優れているわけではない」と考える、具体的な根拠を4つの視点から解説します。
HHOガスについてはまだまだわからない部分が多いため、あくまで現時点で得られている科学的な観点から、より合理的と考えられる選択肢としてH2ガスを推奨する理由をご説明します。
根拠①:健康効果の研究対象は「水素分子(H2)」がほぼ全て

これが最も重要な根拠の一つです。現在、水素の健康効果に関する研究は世界中で進められていますが、人や動物を対象とした信頼性の高い臨床研究や基礎研究のほとんど(99%以上と言っても過言ではありません)で使用されているのは、「水素分子(H2)ガス」です。
例えば、日本で心停止後症候群の患者さんを対象に先進医療Bとして実施された大規模な臨床試験でも、「Molecular Hydrogen(水素分子)」の吸入効果が検証されています。1)また、慶應義塾大学の研究者らも、医学・薬学領域で治療応用が期待されているのは「物質として存在する水素分子(H2)」であると明確に報告しています。2)
一方で、「原子状水素(H)」や「HHOガス」を用いた信頼できる臨床研究の報告は、残念ながら現時点では見当たりません。「水素が健康に良い」という情報の根拠となっているのは、あくまでH2ガス(水素分子)を用いた研究結果なのです。
当サイトで取り上げている数百件以上の水素の関連研究論文でもHHOガスを用いたものは、今のところ見たことがありません。
>> 水素に関する研究論文一覧
根拠②:水素が働くメカニズムは「抗酸化作用」だけではない

HHOガス推進派は、原子状水素の高い反応性による「強力な抗酸化作用」を強調することがあります。しかし、近年の研究により、水素分子(H2)が体に良い影響を与えるメカニズムは、単純な抗酸化作用だけではないことが分かってきました。
水素分子(H2)は、体内で特に有害な活性酸素(ヒドロキシルラジカルなど)を選択的に除去する働きがあると考えられています。それに加えて、体の炎症反応を抑えたり、細胞の防御機能を高めるスイッチ(Nrf2など)をONにしたり、細胞内のシグナル伝達を調整したりと、実に多様な経路で体に作用することが示唆されています。
「反応性が高い=効果が高い」とは一概には言えません。むしろ、安定した水素分子(H2)が、穏やかに、かつ多角的に体内のバランスを整えることこそが、健康効果の鍵である可能性も考えられるのです。
根拠③:「原子状水素(H)」の存在と安定性への科学的疑問

HHOガスの効果の根拠とされる「原子状水素(H)」ですが、その存在自体や安定性には、科学的な観点から大きな疑問符がつきます。
前述の通り、原子状水素(H)は非常に不安定なラジカルであり、通常の環境下では瞬時に他の原子と結合して安定な水素分子(H2)になろうとします。科学の世界で原子状水素を安定して存在させるためには、絶対零度に近い極低温や強力な磁場といった、極めて特殊な実験環境が必要です。3)
常温常圧で動作する吸入器の中で、不安定な原子状水素が生成され、チューブを通って吸入されるまで安定した状態で存在し続けるというのは、現在の科学常識からは考えにくいのです。また、HHOガス中に原子状水素が実際に存在することを直接的に証明した信頼できる学術データも、今のところ公には示されていません。
根拠④:HHOガスを出す水素吸入器の価格がプレミアム

もう一つ、現実的な視点として価格の問題があります。市場に出回っている製品を見ると、「HHOガスを生成する」とされる水素吸入器は、一般的な「H2ガス(水素分子)を生成する」吸入器と比較して、かなり高価な価格設定になっている傾向が見られます。
例えば、同じ水素発生量の機器と比較した場合に、1.5〜2倍ほどの価格が設定されているケースがあります。
もちろん、製品の価格は様々な要因で決まりますが、もしHHOガスに本当にH2ガスを凌駕する明確な健康効果があるのであれば、その価格差も納得できるかもしれません。しかし、これまで見てきたように、その効果を裏付ける科学的根拠は乏しく、存在自体にも疑問符がつく状況です。
現時点では、「価格に見合うだけの明確な科学的優位性が示されていない」との見方も多く、費用対効果の観点からも、H2ガス吸入器を選ぶ方が合理的な判断となる可能性が高いでしょう。
HHOガスがH2ガスよりも良いと証明するのに必要なこと
ここまで、H2ガス(水素分子)吸入を推奨する根拠を述べてきました。
では、もし将来的にHHOガスがH2ガスよりも優れていると主張するのであれば、どのようなことが科学的に証明される必要があるのでしょうか?
主に、以下の2点が重要になると考えられます。
1. 原子状水素(H)の存在と安定性の科学的証明
まず大前提として、HHOガスを生成するとされる装置内で、実際に原子状水素(H)が安定して生成され、吸入可能な状態で存在していることを、信頼できる科学的手法(分光分析など)で明確に証明する必要があります。
その生成メカニズムや、なぜ不安定な原子状水素が安定して存在できるのか、科学的な説明も不可欠です。
2. H2ガスとの厳密な効果比較研究
次に、HHOガスを発生させる機器と、純粋なH2ガスを発生させる機器を用いて、人間を対象とした厳密な比較臨床試験を行う必要があります。そして、その結果、HHOガスの方がH2ガスよりも統計的に有意に優れた健康効果(特定の疾患の改善効果や、生理学的指標の改善など)を示すことが求められます。「個人の感想」や「体験談」レベルではなく、客観的で再現性のあるデータが必要です。
これらの科学的な検証が行われ、その優位性が客観的に証明されて初めて、「HHOガスの方が良い」という主張に説得力が生まれます。現状では、これらの証明はなされておらず、今後の研究開発に期待がかかるところですが、現段階で安易にその効果を信じるのは時期尚早と言えるでしょう。
HHOガスを謳う水素吸入器を選ぶ際の注意点
もし、あなたがHHOガスを謳う水素吸入器の購入を検討している場合、いくつか注意するべき点があります。
これはHHOガスに限らず、あらゆる水素吸入器を選ぶ際に共通する重要なポイントでもあります。
効果効能を謳っている製品は要注意
まず、「がんが治る」「あらゆる病気に効く」といった、薬機法(旧薬事法)に抵触する可能性のある過剰な効果効能を謳っている製品や販売サイトには、特に注意が必要です。
水素吸入は医療行為ではなく、あくまで健康維持やコンディショニングをサポートするものです。
また、現時点で医療機器として効果・効能が認められている水素吸入器は日本には存在しません。
>> 「医療用」水素吸入器とは?定義や誤解されるポイントを解説
そのほかの確認ポイント9つ
そのほか、機器のスペックや安全性、耐久性、コストなど以下の9つの重要なポイントがあります。
- 水素ガス発生量は十分か?
- 連続吸入時間は1時間以上可能か?
- 騒音レベルは50db以下か?
- 製品価格は高すぎないか?
- 維持費はかかりすぎないか?
- メンテナンスは簡単か?
- 製品本体は動かしやすく丈夫か?
- 安全性は保証されているか?
- メーカー/販売会社は信頼できるか?
HHOガスの水素吸入器を検討する場合も、こうした複数の点を総合的にみて判断するようにしましょう。そうすれば、買ってから後悔するリスクを大きく下げられるはずです。
それぞれのポイントについて詳しくは、以下で解説しています。
>> 失敗しない水素吸入器の選び方|9つのポイント解説
まとめ:HHOとH2ガスを正しく理解し、自分に合った水素吸入器を
今回は、「HHOガスを出す水素吸入器が良いって本当?」という疑問にお答えする形で、H2ガス(水素分子)との違いや、科学的根拠について詳しく解説してきました。
現時点では、科学的根拠を重視するならば、「H2ガス(水素分子)」を発生させる水素吸入器を選ぶことが合理的と言えるでしょう。
大切なのは、様々な情報に惑わされず、正しい知識に基づいてご自身で判断することです。この記事が、あなたの疑問解消と、健やかな毎日を送るための一助となれば幸いです。
参考文献
- Tamura, T., Suzuki, M., Homma, K., Sano, M., & HYBRID II Study Group (2023). Efficacy of inhaled hydrogen on neurological outcome following brain ischaemia during post-cardiac arrest care (HYBRID II): a multi-centre, randomised, d1ouble-blind, placebo-controlled trial. EClinicalMedicine, 58, 101907. https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2023.101907
- 水素ガス吸入療法の現状と将来性|山元 良, 本間 康一郎, 佐野 元昭, 佐々木 淳一. ファルマシア, 57(1), 44-48. https://doi.org/10.14894/faruawpsj.57.1_44
- 2.偏極原子状水素 新 井 敏 一