《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
突然、胸が苦しくなったり、息ができなくなったりしたことはありませんか?
パニック障害は、突如として襲ってくる動悸や息苦しさ、めまいなどが特徴の病気で、多くの人が悩んでいます。従来の治療法に加えて、最近注目されているのが「水素吸入」です。
本記事では、パニック障害の基本情報とともに、水素吸入がどのようにパニック障害に効果を発揮するのかについて詳しく解説します。水素吸入を取り入れて、より健やかな生活を目指しましょう。
パニック障害とはどんな病気?
パニック障害とは、胸の痛み、動悸、息苦しさ、めまいなどの症状が突然現れる病気です。これらの症状は時間や場所に関係なく現れ、症状が続く間は強い恐怖を感じるとされています。
まずは、パニック障害について詳しく見てみましょう。
パニック障害の原因
現在のところ、パニック障害の明確な発症メカニズムは解明されていません。
一方で、パニック障害の原因についてはさまざまな研究が重ねられており、体内の二酸化炭素を感知する脳の延髄が過剰に反応することによって発症するという説が有力視されています。
具体的には、わずかな二酸化炭素の情報を酸素不足と感知してしまうことで動悸や息苦しさなどの症状が出現します。さらには交感神経が刺激されて全身にさまざまな症状を引き起こすというものです。
その他にも脳内の神経伝達物質バランスの乱れ、強いストレス、遺伝など多くの要因が重なって発症すると考えられています。
パニック障害の症状
パニック障害は時間や場所関係なく、突然予期せずに以下のような身体的症状が発作のように現れるのが特徴です。
- 動悸
- 胸の痛み
- 息苦しさ
- 息切れ
- 発汗
- 震え
- 吐き気
- めまい
- 寒気や暑さ
これらの症状がある間は、強い恐怖心が引き起こされて死の危険を感じるケースも少なくありません。パニック障害では、このような身体的・精神的な症状が突然現れて数分で改善するという発作を繰り返します。
そのため、外出ができなくなるなど日常生活に支障を来すケースや抑うつ状態に陥るケースもあります。
パニック障害の治療
パニック障害を根本的に治す方法はなく、以下のような治療を行いながら症状を和らげて日常生活への支障を取り除くことを目指します。
薬物療法
パニック障害の基本的な治療は薬物療法です。
主に抗うつ薬と抗不安薬が用いられますが、症状の現れ方によってそれぞれに適した薬剤を選択します。
精神療法
パニック障害では、医師やカウンセラーと交流を繰り返すことで精神的な症状の改善を目指す精神療法を行うことがあります。
特に、患者の認知のゆがみを修正して物事の良い面と悪い面を捉えるように導く認知行動療法はパニック障害に効果的であることが分かっています。
パニック障害はよくある病気?
パニック障害の発症率は2~3%です1)。つまり、100人中2,3人は一生のうちにパニック障害を発症すると考えられているのです。
特にパニック障害は20~30代の女性が発症しやすく、円滑な社会生活が困難になる場合も少なくありません。さらに、薬物療法や精神療法で十分な効果が得られない場合には、生活に大きな支障をもたらします。
水素吸入はパニック障害の予防や治療に役立つ?
パニック障害は比較的発症率が高い精神的な病気の一つです。しかし、明確な発症メカニズムが解明されていないため確立した予防方法はありません。治療が難しいケースも多々あります。
そのため、現在でもパニック障害の新たな予防や治療方法を見出す研究が行われています。水素吸入もその一つです。
水素吸入とパニック障害の関係を検証した研究結果を詳しく見てみましょう。
水素吸入はストレスに関連する病気の発症を予防する
2017年に、中国の研究チームは水素吸入がストレスに関連する精神的な病気の発症を予防する可能性を示唆する研究結果を報告しました2)。
この研究はマウスを用いた動物実験であり、慢性的なストレスに晒したマウスに水素ガスを吸入させるとストレスの原因となるホルモンや炎症を引き起こす物質を有意に減少させたことが明らかになりました。
水素吸入はストレスによって引き起こされるさまざまな病気を予防する可能性があると考えられました。
水素吸入がパニック障害の予防に役立つ?
今回の研究から、水素吸入はストレスを軽減してストレスに関連する病気を予防できる可能性を持つことが示唆されました。上述したようにパニック障害の発症にはストレスが関与しているケースも多く、水素吸入はパニック障害を予防できる可能性が考えられます。
動物実験の段階であるため、確実に効果があると断言はできません。しかし、今回の研究結果は確立した方法がないパニック障害の予防への新たな光となることでしょう。今後のさらなる究明と予防への応用に期待します。
水素水がパニック障害の症状を改善する
2022年に、スペインの研究チームは水素水(水素ガスが含まれた水)がパニック障害の症状を有意に改善したとする研究結果を報告しました3)。
この研究はパニック障害と診断された女性患者を対象に行われ、精神療法と水素水の摂取を3か月行った群と精神療法と通常の水を摂取した群で症状の変化を比較検討しました。
その結果、水素水を摂取した群は、体の痛みや体調などが通常の水を摂取した群と比較して改善したことが明らかになっています。
水素吸入はパニック障害の治療に役立つ?
今回の研究から、水素水はパニック障害の治療に役立つ可能性が示唆されました。水素吸入は水素水の摂取よりも効率に水素ガスを体内に取り込むことができるため、水素吸入にも同様の効果を期待できる可能性はあるでしょう。
限られた人数を対象とした研究であるため、確実な効果があるとは言えませんが今後のさらなる究明に期待したいと思います。
【私はこう考える】水素吸入とパニック障害
パニック障害は発症頻度が高い精神的な病気の一つです。発症すると突然予期せぬ場所や時に身体的、精神的な症状が引き起こされるため社会生活が困難になるケースも少なくありません。
今回ご紹介した2つの研究結果から、水素吸入はパニック障害の予防や治療に役立つ可能性が示唆されました。パニック障害は現在のところ確立した予防法はなく、治療が難しいケースもあります。水素吸入は体への負担がほとんどなく、自宅でも簡単に行うことができます。
すでにパニック障害と診断されている人、ストレスが多い生活を送っている人は、パニック障害の予防や治療方法の一つとして水素吸入を取り入れてみるのもよいでしょう。
参考文献
- 塩入俊樹先生に「パニック障害/パニック症」を訊く|公益社団法人日本精神神経学会
- Gao, Q., Song, H., Wang, X. T., Liang, Y., Xi, Y. J., Gao, Y., Guo, Q. J., LeBaron, T., Luo, Y. X., Li, S. C., Yin, X., Shi, H. S., & Ma, Y. X. (2017). Molecular hydrogen increases resilience to stress in mice. Scientific reports, 7(1), 9625. https://doi.org/10.1038/s41598-017-10362-6
- Fernández-Serrano, A. B., Moya-Faz, F. J., Giner Alegría, C. A., Fernández Rodríguez, J. C., Soriano Guilabert, J. F., & Del Toro Mellado, M. (2022). Effects of hydrogen water and psychological treatment in a sample of women with panic disorder: a randomized and controlled clinical trial. Health psychology research, 10(3), 35468. https://doi.org/10.52965/001c.35468