《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
「脂肪肝」と聞いても、健康診断で「ちょっと気をつけて」と言われる程度と軽く考えていませんか?
実は、脂肪肝が進行すると肝硬変や肝臓がんなど、命に関わる病気に繋がる可能性があります。
そんな中、最近注目されているのが「水素吸入」です。
本記事では、脂肪肝の原因や症状などの基本情報から、水素吸入が脂肪肝対策としてどのように役立つのかを最新の研究データをもとに、わかりやすく解説します。日本で1,000万人以上いると推定されるこの病気についてしっかり理解しておくためにも、ぜひ最後までご覧ください。
水素吸入による脂肪肝の進行抑制や肝機能改善効果が、小規模な臨床試験や動物モデルで確認されている。初期的なエビデンスは有望だが、効果の再現性や長期的な安全性の裏付けには、さらなる大規模試験が必要。
(すいかつねっとのエビデンス評価基準はこちら)
脂肪肝について
脂肪肝とは、肝臓に脂肪が蓄積する病気のことです。日本では脂肪肝の患者は少なくとも1,000万人以上と推計されており、身近な病気の一つとも言えます。
しかし、初期段階では目立った症状がありません。自覚がないまま進行すると肝臓に炎症を引き起こして肝硬変や肝臓がんへ進行する可能性があるため注意が必要な病気の一つです。
まずは、脂肪肝の原因、症状、治療方法を詳しく見てみましょう。
脂肪肝の原因
脂肪肝は肝臓に過剰な脂肪がたまる病気ですが、主に以下のような原因で発症します。
- 過剰な飲酒
- 運動不足
- 栄養バランスの偏り
- 糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病
- 急激な体重減少
- 薬の副作用
脂肪肝は生活習慣に関連して発症するケースが多く、生活習慣病の一つと考えられています。
脂肪肝の症状
肝臓は「沈黙の臓器」と言われるように、脂肪肝を発症しても初期段階では目立った症状は現れないのが特徴です。そのため、発症に気づかないまま放置してしまうケースも少なくありません。
しかし、徐々に進行していくと肝臓の機能が低下して倦怠感や食欲不振などの症状が現れるようになります。さらに進行すると肝炎、肝硬変などに進行し、最終的には肝臓がんを引き起こす可能性がある病気です。
脂肪肝は早い段階で適切な生活改善や治療を開始する必要があります。生活習慣を見直すことも大切ですが、早期発見のためには体の不調がなくても定期的な健康診断や人間ドックを受けることが推奨されています。
脂肪肝の治療方法
脂肪肝の治療には、第一に脂肪肝の原因を改善することが大切です。運動、食事、飲酒習慣などを見直し、原因となる生活習慣病がある場合には適切な治療を継続する必要があります。
その上で肝臓の機能低下などがある場合には肝臓を保護するための薬物療法などが行われます。
水素吸入が脂肪肝の予防や改善に役立つ可能性
脂肪肝はよくある病気の一つですが、進行するまで自覚症状が現れないため重症化するまで発症に気づかないこともある病気です。
現在では脂肪肝に対する有効な予防や治療方法は明らかになっていますが、肝硬変や肝臓がんに進行するケースは決して少なくありません。そのため、脂肪肝の新たな予防や治療方法を見出すための研究が重ねられています。
近年では水素分子が脂肪肝の予防や改善に役立つ可能性を示唆する研究結果の報告されています。具体的な内容を詳しく見てみましょう。
水素水は脂肪肝の進行を予防する?
2018年、日本の研究チームは水素水(水素ガスが溶けた水)の飲用が肝臓への脂肪の蓄積を抑制する可能性を示唆する研究結果を報告しました1)。
この研究では、12名の脂肪肝患者を対象に28日間に渡って水素水を摂取させたところ、摂取していない患者に比べて有意に肝臓の脂肪が減少したことが明らかになっています。
また、この研究では患者の血液を調べて酸化ストレスの状態を評価し、水素水を摂取した患者は有意に酸化ストレスが減少して抗酸化能が高まったことを明かしました。
水素吸入が脂肪肝の進行予防に役立つ可能性
今回の研究で、研究者たちは水素が持つ抗酸化力が肝臓の脂肪蓄積を阻害した可能性に言及しています。この説が正しいとすれば、効率よく水素を取り込むことができる水素吸入にも同様の効果が期待できる可能性は高いでしょう。
まだ限られた人数を対象とした研究であるため確実な効果があると断言できる段階ではありません。しかし、今後さらに大規模な研究を継続すれば水素吸入が脂肪肝の予防に役立つ日が来ることも期待できるでしょう。
水素吸入が脂肪肝によって低下した肝機能を改善する?
2022年、中国の研究チームは水素と酸素の混合ガスの吸入が脂肪肝によって悪化した肝機能を改善することを示す研究結果を報告しました2)。
この研究は、脂肪肝患者43名を対象に13週間に渡って水素と酸素の混合ガスを吸入させたところ、吸入していない患者に比べて有意に肝機能が改善したことを示しました。
また、マウスを用いた動物実験では水素と酸素の混合ガスの吸入により肝臓への脂肪蓄積が減少したことも明らかになりました。
水素吸入が脂肪肝の治療に役立つ可能性
今回の研究から、水素吸入には脂肪肝によって低下した肝機能を改善する効果が期待できる可能性が示されました。動物実験では水素吸入により肝臓に蓄積した脂肪が減少したことも明らかになっています。
明確なメカニズムは解明されていませんが、この研究結果は水素吸入が脂肪肝の治療をサポートする役割を担う第一歩となる結果であったと言えるでしょう。さらに解明が進み、水素吸入が広く応用される日を期待します。
【私はこう考える】水素吸入と脂肪肝
脂肪肝は気づかないうちに進行して重篤な肝機能低下などを引き起こすことがある病気です。医師としては生活習慣病の中でも特に注意すべき病気の一つと考えます。
現在、脂肪肝に対する有効な予防や治療方法が確立しています。一方で、今回紹介した2つの研究結果は脂肪肝の新たな予防や治療として水素吸入が活用できることを示す結果になったと考えて矛盾はないでしょう。
この2つの研究はどちらも無作為化プラセボ対照臨床試験であり、プラセボ群の効果と比較することでより信頼性の高い評価ができる研究です。限られた人数での研究ですが、水素水や水素吸入の効果を検証していく上で非常に有益な結果であったと思います。
ただし、これらの研究は検証期間がやや短い点も実際の効果を立証するにはやや不十分と言えるでしょう。今後は長期的な水素吸入による弊害がないか検証しながら大規模な人数を対象とした研究が行われることを期待しましょう。
参考文献
- Shida, T., Akiyama, K., Oh, S., Sawai, A., Isobe, T., Okamoto, Y., Ishige, K., Mizokami, Y., Yamagata, K., Onizawa, K., Tanaka, H., Iijima, H., & Shoda, J. (2018). Skeletal muscle mass to visceral fat area ratio is an important determinant affecting hepatic conditions of non-alcoholic fatty liver disease. Journal of gastroenterology, 53(4), 535–547. https://doi.org/10.1007/s00535-017-1377-3
- Tao, G., Zhang, G., Chen, W., Yang, C., Xue, Y., Song, G., & Qin, S. (2022). A randomized, placebo-controlled clinical trial of hydrogen/oxygen inhalation for non-alcoholic fatty liver disease. Journal of cellular and molecular medicine, 26(14), 4113–4123. https://doi.org/10.1111/jcmm.17456