《この記事の執筆者》
国立大学医学部卒。大学病院で25診療科を経験したのち、大阪や愛知、静岡、徳島など各地域の拠点病院で科の垣根を越えて診療に従事。基礎医学研究をしていた期間もあり、研究発表では最優秀賞を受賞。その後東京都の公立病院で内科全般、精神科、麻酔科、産婦人科、救急医療などに携わる。
日本人の5人に1人が命を落とす動脈硬化。その予防や改善に、水素が効果を発揮するかもしれません。
最新の研究では、水素吸入が動脈硬化の進行を食い止める可能性が示唆されているのです。
本記事では、最新の研究から見えてきた、水素吸入療法と動脈硬化の関係について詳しく解説します。
動脈硬化とは
動脈硬化は動脈の血管が硬くなり、弾力性を失った状態です。
血管の内側にかゆ状のコブ(プラーク)や血栓ができることで、血管が狭くなったり詰まったりします1)。
2022年の日本の人口動態統計によると、およそ5人に1人が動脈硬化に関係する疾患で亡くなっています2)。
動脈硬化の対策は、日本の大きな課題です。
動脈硬化の主な原因や症状
動脈硬化の主な原因には次のものがあり、生活習慣の乱れが大きく関係しています。
- 加齢
- 喫煙
- 高血圧
- 糖尿病
- 肥満
- 運動不足
初期症状はほとんど見られませんが、動脈硬化が進むと、脳梗塞や心筋梗塞など重篤な疾患を発症する可能性が高まります3)。
動脈硬化の主な治療法や再発予防法
治療や予防は、生活習慣の改善(食事や禁煙、運動など)が基本となります3)。
治療薬は、スタチン系薬の内服が有効です。
ただし、スタチン系薬には横紋筋融解症などの危険な副作用があるため、医師の監視のもとで治療や予防に取り組むことが大切です。
水素吸入は動脈硬化の予防に効果はある?
動脈硬化の予防は、上で述べたように生活習慣の改善が基本です。
薬剤の内服もありますが、禁煙や運動、食生活の見直しなどがより直接的に予防につながります。
これらに加えて、水素吸入が動脈硬化の予防につながる可能性が示唆されました。
水素吸入が酸化ストレスを軽減し動脈硬化を予防?
体内の過剰な活性酸素による酸化ストレスや炎症反応が、動脈硬化につながっているといわれてきました。
今回、2022年の日本の報告によると、水素吸入が抗酸化作用を持つことが示され、動脈硬化の予防につながる可能性が示唆されました4)。
この研究は中年の健康な被験者を対象にした、ランダム化二重盲検試験です。
被験者15名のうち4名に水素吸入したところ、抗酸化作用や赤血球や白血球の能力改善が認められました。
この研究以外にも、水素吸入が活性酸素を除去し、炎症反応を抑えることで動脈硬化の予防につながる可能性が報告されています5)。
つまり、水素吸入が動脈硬化の予防に効果があると考えるのも否定できないでしょう。
水素水が血管老化を予防する
水素吸入ではありませんが、水素水を飲むことによって動脈硬化の大きな要因である血管老化を抑えられる可能性が2017年に日本で報告されています6)。
具体的には、高濃度水素水を常時投与するグループと投与しないグループにマウスを分けて、どちらも高脂肪食を与えました。
すると、高濃度水素水を投与しないグループの血管の細胞老化は進行しましたが、常時投与したグループは血管の細胞老化が抑えられました。
この結果から、水素が血管の老化防止の観点から動脈硬化の予防に役立つことが示され、水素をより多く取り込める水素吸入でも同様の効果が期待できるかもしれません。
ただ、まだ確実なことは言えないため、水素吸入を用いた血管老化抑制効果の研究報告が待たれます。
水素吸入は動脈硬化の改善に効果はある?
水素吸入は動脈硬化の改善に効果があると示唆されています。
なぜなら、水素を摂取することによってコレステロール値の異常の改善が報告されているからです7)。
コレステロールと動脈硬化には密接な関係があります。
動脈硬化のもととなるプラークに、コレステロールがたくさん溜まっているのです。
水素によってコレステロール値の異常が改善されると、プラークが安定化し、心筋梗塞や脳梗塞などの発症リスクが低下すると考えられます8)。
水素吸入とコレステロールの関係については別記事で詳しく扱っているので、よければそちらをご覧ください。
>> 【医師監修】水素吸入療法はコレステロール値の改善に効果はある?
【私はこう考える】水素吸入と動脈硬化
水素吸入が動脈硬化の予防につながると示唆した論文は前から存在しました。
しかし、多くの研究が細胞実験や動物実験の段階だったので、人を対象にした研究は少ないのが実情でした。
今回、2022年に人を対象として水素吸入の抗酸化作用が示されたのは大きな成果といえます。そのうえ、ランダム化二重盲検試験は根拠としての信頼性も高いです。
ただ被験者が14名と少なく、動脈硬化に直接言及した論文ではなかったので、このまま臨床応用に直結するとは断言できません。
しかしながら、健康な人を対象とした研究での成果であり、今のところ水素吸入での重篤な副作用も報告がないです。
また今回、動物実験で水素水が血管老化の予防につながると示唆した論文を紹介しました。水素水よりも効率的に水素を摂取できる水素吸入においても、同様の効果が期待できるかもしれません。
将来、健康な人を対象として水素吸入で血管老化を予防することが証明できれば、動脈硬化予防のさらなる一歩になるでしょう。水素吸入の今後の展望に期待しています。
参考文献
- 動脈硬化|厚生労働省e-ヘルスネット
- 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況|厚生労働省
- アテローム性動脈硬化|MSDマニュアル
- Takada Y, Miwa N. Hydrogen Gas Inhalation Prevents Erythrocyte Aggregation and Promotes Leukocyte Phagocytosis Together with Increases in Serum Antioxidant Activity. Hydrogen. 2022; 3(1):72-82. https://doi.org/10.3390/hydrogen3010006
- Zhang, Y., Tan, S., Xu, J., & Wang, T. (2018). Hydrogen Therapy in Cardiovascular and Metabolic Diseases: from Bench to Bedside. Cellular physiology and biochemistry : international journal of experimental cellular physiology, biochemistry, and pharmacology, 47(1), 1–10. https://doi.org/10.1159/000489737
- Iketani, M., Sekimoto, K., Igarashi, T., Takahashi, M., Komatsu, M., Sakane, I., Takahashi, H., Kawaguchi, H., Ohtani-Kaneko, R., & Ohsawa, I. (2018). Administration of hydrogen-rich water prevents vascular aging of the aorta in LDL receptor-deficient mice. Scientific reports, 8(1), 16822. https://doi.org/10.1038/s41598-018-35239-0
- Song, G., Li, M., Sang, H., Zhang, L., Li, X., Yao, S., Yu, Y., Zong, C., Xue, Y., & Qin, S. (2013). Hydrogen-rich water decreases serum LDL-cholesterol levels and improves HDL function in patients with potential metabolic syndrome. Journal of lipid research, 54(7), 1884–1893. https://doi.org/10.1194/jlr.M036640
- Sarraju, A., Nissen, S.E. Atherosclerotic plaque stabilization and regression: a review of clinical evidence. Nat Rev Cardiol (2024). https://doi.org/10.1038/s41569-023-00979-8