感染症
【医師監修】「見えない危険」淋病の重症化リスクと水素吸入がもたらす新たな可能性

【医師監修】「見えない危険」淋病の重症化リスクと水素吸入がもたらす新たな可能性

《この記事の執筆者》

淋病は性感染症の一種で、男女問わず感染するリスクがありますが、特に女性は症状が出にくいため発見が遅れることが少なくありません。

最近では抗菌薬が効きにくい「スーパー淋菌」の増加が社会問題化し、治療の難しさが指摘されています。

そんな中、注目されているのが活性酸素と淋病の関係。研究により、活性酸素が淋病の重症化に関与する可能性が示され、水素吸入がそのダメージを軽減する手段として期待されています。

本記事では、淋病の原因や症状に加え、水素吸入の可能性を科学的視点から詳しく解説します。

淋病について

淋病について

淋病は性行為によって感染する性感染症の一種です。

男女ともに感染しますが、女性は目立った症状が現れないケースも多く、重症化するまで発見が遅れる場合があるため注意が必要な性感染症とされています。

まずは、淋病の原因、症状、治療方法について詳しく見てみましょう。

淋病の原因

淋病は、淋菌という細菌に感染することによって発症する病気です。

淋菌は粘膜のような湿った環境下で増殖しやすく、多くは感染者の尿道や子宮頸部に存在する淋菌が性行為によってパートナーに感染します。

また、淋菌が含まれた体液に晒されることで目やのどの粘膜に感染することも知られています。

淋菌の症状

淋病の症状の現れ方は男女によって異なります。

それぞれの症状の特徴は次の通りです。

男性の場合の症状
  • 尿道からの黄色や緑色の膿
  • 尿道のかゆみ
  • 排尿時の痛みや灼熱感

女性の場合の症状
  • おりものの量や性状の変化
  • 軽度な排尿時の痛み
  • 軽度な下腹部痛

また、のどに感染した場合にはのどの痛みや発熱、目に感染した場合には充血などの症状が引き起こされます。

一般的には女性よりも男性の方が症状が現れやすいのが特徴です。しかし、女性の場合は感染に気付かないまま放置すると骨盤炎などを引き起こして不妊症のリスクを高める場合があります。

淋病の治療方法

淋病の治療には、セフェム系をはじめとした抗菌薬の投与が行われます。

近年では抗菌薬が効きにくい淋菌の出現も問題となっていますが、感染した淋菌に適した抗菌薬を投与すれば完治します。

ただし、放置したまま骨盤内に炎症が広がってしまったようなケースでは卵管などに癒着が生じて不妊症を引き起こすケースも少なくありません。妊娠を希望の場合は不妊治療が必要になることもあります。

水素吸入が淋病の予防や治療に役立つ可能性

近年、抗菌薬が効きにくい「スーパー淋菌」の増加が社会問題となっています。淋菌は抗菌薬を内服すれば完治する病気ですが、抗菌薬が効きにくい淋菌に感染した場合には治療が難しくなるケースも報告されています。

近年では、淋菌の発症や重症化のメカニズムに活性酸素が関係している可能性を示唆する研究結果が報告されています。活性酸素を効率的に除去できる水素吸入は淋病の予防や治療をサポートできる可能性も期待できるでしょう。

具体的にどのような研究結果なのか詳しく見てみましょう。

淋菌は活性酸素への耐性がある?

2006年、オーストラリアの研究チームは淋菌には白血球から放出される活性酸素から身を守るための仕組みを持つ可能性を示す論文を報告しました1)。

この論文は、これまでの様々な研究結果をまとめて結論を導き出す総説論文です。結果として、研究者たちは淋菌には独自に活性酸素から身を守るための仕組みが備わっている可能性を唱えました。

病原体に感染すると私たちの血液にある白血球という細胞が集合して活性酸素を放出することが分かっています。活性酸素は病原体を攻撃する働きがあります。しかし、淋菌の場合は独自の防御システムがあるため活性酸素によるダメージは少なく、死滅しない淋菌を攻撃するために活性酸素の放出が継続することで正常な組織がダメージを受けると結論付けられました。

水素吸入が淋菌による組織へのダメージを予防する可能性

この総説論文から、感染した際に生じる活性酸素は淋菌に十分なダメージを与えず、むしろ感染部位の組織にダメージを引き起こす可能性が示唆されました。

水素吸入には活性酸素を除去する働きがあるため、淋菌に感染した際に生じる組織損傷を予防したり和らげたりできる可能性が考えられます。

今後は、ヒトを対象として研究が進んで水素吸入が予防策の一つとして応用されることを期待しましょう。

活性酸素の持続的な発生が女性の淋病重症化を引き起こす?

2018年、アメリカの研究チームは淋菌感染による持続的な活性酸素の発生が、外陰部から骨盤内へ炎症を進行させる可能性があることを報告しました2)。

淋菌は活性酸素が存在しても独自の防御システムがあるため、長い期間をかけて活性酸素による炎症を引き起こす可能性が前述の総説論文1)で示されています。

この総説論文では、淋菌には大きなダメージを与えないまま活性酸素の放出が継続することで重症化を引き起こす可能性があるとしています。

水素吸入が淋病の重症化予防に役立つ可能性

この総説論文では、活性酸素が淋病の骨盤内への進行に関与している可能性が示されています。そのため、活性酸素を効率的に除去できる水素吸入には淋病の重症化を抑えて症状の改善に役立つ可能性があると言えるでしょう。

確実な効果が期待できると言える段階ではありませんが、研究が進展して水素吸入が淋病治療の補助的な役割を担う日が来ることを期待します。

【私はこう考える】水素吸入と淋病

淋病は治療方法が確立された性感染症ですが、近年では抗菌薬が効きにくい淋病が増えています。

今回紹介した2つの研究結果から、淋病の発症や重症化には活性酸素が関与している可能性が示されました。実際に水素吸入の効果を示した論文ではありませんが、淋菌の特徴を究明し、病態を解明することで水素吸入が予防や治療をサポートできる可能性が期待できます。

まず、オーストラリアの研究チームによる淋菌の活性酸素防御システムの解明は新たな淋病の予防や治療方法を見出すための大きな発見であったと言えます。

また、アメリカの研究チームによる総説論文では、淋病によって起こりうる重症化のメカニズムが提唱されています。

いずれも水素吸入の実際の効果を検証するには、動物実験からヒトを対象とした大規模な臨床研究を行っていく必要があります。まだ道のりは長いですが、水素吸入が広い分野に応用される日を期待し、淋病の予防や治療のサポートを担う日が来ることを待ちましょう。

参考文献
  1. Seib, K. L., Wu, H. J., Kidd, S. P., Apicella, M. A., Jennings, M. P., & McEwan, A. G. (2006). Defenses against oxidative stress in Neisseria gonorrhoeae: a system tailored for a challenging environment. Microbiology and molecular biology reviews : MMBR70(2), 344–361. https://doi.org/10.1128/MMBR.00044-05
  2. Stevens, J. S., & Criss, A. K. (2018). Pathogenesis of Neisseria gonorrhoeae in the female reproductive tract: neutrophilic host response, sustained infection, and clinical sequelae. Current opinion in hematology25(1), 13–21. https://doi.org/10.1097/MOH.0000000000000394

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