《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
腰痛に悩む方は多いですが、その原因や対処法は一人ひとり異なります。
近年、活性酸素が腰痛の主要な原因のひとつであることがわかり始め、水素吸入がその予防や改善に役立つ可能性が注目されています。
本記事では、腰痛の基本情報から、研究結果をもとに水素吸入が腰痛にどのようにアプローチできるのかを詳しく解説します。腰痛に苦しむ方、そして新しい対処法を探している方はぜひ最後までご覧ください!
腰痛について
腰痛は様々な原因によって引き起こされ、軽度なものから歩くことが困難になるほど重症なものまで症状の現れ方も多岐に渡ります。
厚生労働省による国民生活基礎調査(令和4年)の結果によれば、男性は1000人中91.6人、女性は111.9人が腰痛を自覚していることが明らかになっています1)。つまり、日本ではだいたい10人に1人が腰痛持ちであると言える状況なのです。
まずは、腰痛の原因、症状、対処方法について詳しく見てみましょう。
腰痛の原因
腰痛は日常的な活動に伴う筋肉や関節へのダメージ、姿勢の悪さなどの生活習慣が原因となるほか、加齢による背骨の変性なども発症に関与しています。
また、以下のような病気も慢性的な腰痛の原因になるため注意が必要です。
- 骨粗しょう症
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 脊柱管狭窄症
上記以外にも、まれにがんの骨転移によって腰痛が生じるケースもあります。
腰痛が続くときは、思わぬ病気が原因の場合もあるためできるだけ早めに医療機関を受診しましょう。
腰痛の症状
腰痛とは、その名の通り「腰の痛み」のことを指します。
しかし、症状の現れ方は原因によって大きく異なります。
筋肉や関節へのダメージなどによる腰痛は発症のきっかけがあった後から急激な痛みが生じるのが特徴です。場合によっては立ち上がれない、歩けない、など日常生活に支障を来すケースも少なくありません。
一方で、姿勢の悪さや加齢などによる慢性的な腰痛は激烈な痛みは生じにくいものの、だるさを伴う痛みを生じやすく、活動性の低下を引き起こすため注意が必要です。
また、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などによる腰痛は神経の圧迫が生じます。そのため、しびれなどの神経症状を伴い、重症な場合には尿失禁などが生じるケースもあります。
腰痛の対処方法
腰痛の対処方法は原因や重症度によって大きく異なります。
姿勢の悪さなどの生活習慣や加齢などによる腰痛の場合は、適度な運動や生活の見直しなどをすると改善する場合が多いです。
一方で、強い痛みがあるときは鎮痛剤や筋弛緩薬などを用いた薬物療法を行います。腰回りの筋肉を強化するためのリハビリやマッサージなども有用です。
また、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などで重度な腰痛が続く場合には、手術が検討されます。
水素吸入は腰痛の予防や改善に役立つ可能性
腰痛は多くの人が経験したことがある症状であり、原因は多岐に渡ります。中にははっきりした原因が分からないままつらい症状に悩まされている人もいるでしょう。
腰痛の予防や改善方法はたくさんありますが、現在のところ水素吸入が腰痛の予防や改善に役立つことを示す研究結果は報告されていません。しかし、腰痛と活性酸素の関係や水素水(水素ガスが溶けた水)の効果を示す研究結果は報告されています。
具体的な内容を詳しく見てみましょう。
活性酸素が椎間板変性による腰痛に関わっている?
2021年、中国の研究チームは活性酸素の増加が椎間板の変性による腰痛に関与していることを示す研究結果を報告しました2)。
この研究では、椎間板の変性による腰痛を訴える患者30名から椎間板の組織を採取し、活性酸素の量や重症度を評価しました。その結果、腰痛の程度が高い患者ほど椎間板の活性酸素量が有意に高いことが明らかになっています。
また、ラットを用いた実験も行い、活性酸素が椎間板の細胞を刺激して痛みの原因物質の産生を促すことも明らかになりました。
水素吸入が腰痛の予防に役立つ可能性
今回の研究は実際に患者の椎間板の細胞を用いて行われ、活性酸素が椎間板の変性による腰痛発症に関与している可能性を示唆しました。
椎間板の変性は加齢、姿勢の悪さなどの生活習慣、スポーツなどによる腰への負担、遺伝など様々な原因によって引き起こされます。腰痛の主な原因の一つであり、今回の研究から多くの腰痛に活性酸素が関わっている可能性があると言えます。
この研究は小規模な人数を対象に行った段階であるため確実な効果があると断言はできませんが、活性酸素を除去できる水素吸入が腰痛の予防に役立つ可能性は大いに期待できるでしょう。
水素水が腰痛を改善する?
2022年、スペインの研究チームは水素水が神経障害による腰痛を改善する可能性を示唆する研究結果を報告しました3)。
この研究は、坐骨神経へのダメージを引き起こして腰痛を誘発したマウスを用いた動物実験をもとに行われました。腰痛があるマウスに水素水を1日2回、4~7日間投与したところ活動性が高まり、腰痛が軽減した可能性が示唆されています。
また、マウスの脳や神経では水素水の投与によって抗酸化力が高まり、炎症物質が減少したことも明らかになりました。
水素吸入が腰痛を改善する可能性
今回の研究から、水素水の抗酸化作用は神経へのダメージによって引き起こされる腰痛を改善する効果が示されました。水素吸入は水素水よりも効率よく活性酸素を除去できるため、水素吸入にも同様の効果が期待できる可能性が考えられます。
まだ動物実験の段階であるため確実な効果があるとは言えませんが、今後はさらにヒトを対象として検証を行い、水素吸入の効果が解明されることを期待します。
【私はこう考える】水素吸入と腰痛
腰痛は非常に多くの人が悩まされている症状の一つです。急激な痛みが生じるケースもあれば、慢性的な痛みが継続することで活動性が低下するケースも珍しくありません。その結果、心身の衰えを引き起こす場合もあるのです。
今回ご紹介した2つの研究は、新たな腰痛の予防や改善方法を見出すきっかけになりうる結果であったと言えます。中国の研究チームは実際の患者の椎間板組織用いた検証を行い、活性酸素と腰痛の関係を示しました。また、スペインの研究チームはマウスを用いて水素分子の効果を検証し、非常に有益な結果が得られたと考えます。
どちらの結果も、水素吸入の応用に向けた新たな道筋となります。まだ研究段階ではありますが、ヒトを対象とした大規模な研究が進み、水素吸入が腰痛の予防や治療に用いられる日が来ることを望みます。
参考文献
- 2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況|厚生労働省
- Zheng, J., Zhang, J., Zhang, X., Guo, Z., Wu, W., Chen, Z., & Li, J. (2021). Reactive Oxygen Species Mediate Low Back Pain by Upregulating Substance P in Intervertebral Disc Degeneration. Oxidative medicine and cellular longevity, 2021, 6681815. https://doi.org/10.1155/2021/6681815
- Martínez-Serrat, M., Martínez-Martel, I., Coral-Pérez, S., Bai, X., Batallé, G., & Pol, O. (2022). Hydrogen-Rich Water as a Novel Therapeutic Strategy for the Affective Disorders Linked with Chronic Neuropathic Pain in Mice. Antioxidants (Basel, Switzerland), 11(9), 1826. https://doi.org/10.3390/antiox11091826