消化器系
【医師監修】手術後の腸閉塞リスクを軽減?水素吸入の可能性を解説

【医師監修】手術後の腸閉塞リスクを軽減?水素吸入の可能性を解説

《この記事の監修者》

お腹の張りや痛み、便秘が続く…。そんな症状を「ただの体調不良」と見過ごしていませんか?

腸閉塞は、放置すると命に関わることもある深刻な病気です。特に手術経験のある方や持病がある方は要注意。

最近の研究では、水素吸入が腸閉塞の炎症を抑え、腸の動きを助ける可能性があると注目されています。

本記事では、腸閉塞の基礎知識から水素吸入との関連まで、研究報告に基づいて詳しく解説します。

すいかつねっとのエビデンス評価
3.5

水素吸入が腸閉塞の炎症抑制や腸管運動改善に寄与する可能性があり、動物実験では一定の効果が示されている。初期的なヒト研究の進展が期待される段階​。

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腸閉塞ってどんな病気?

腸閉塞ってどんな病気?

腸閉塞とは、何らかの原因で腸管が狭くなったり(狭窄:きょうさく)、詰まったり(閉塞)して、食べ物や水分、消化液などがスムーズに流れなくなる状態です。

消化管の手術後によく見られる合併症で、特にお腹を開けて行う開腹手術後では、約14%に発症するという統計があります。1)

腸閉塞の種類と違い

腸閉塞は、大きく分けて「機械性イレウス」と「機能性イレウス」の2種類に分類され、それぞれの特徴は以下の通りです。

腸閉塞の種類と違い
  • 機械性イレウス
    腸管が物理的にふさがるタイプで、術後の癒着や腫瘍、ヘルニア、ねじれなどによって起こります。
  • 機能性イレウス
    腸管の動きそのものが低下または麻痺し、食べ物やガスが通過しづらくなるタイプです。

厳密には、腸閉塞とイレウスは異なりますが、一般人であれば同じものとして捉えても問題はありません。現在の定義では、機械性イレウスが腸閉塞、機能性イレウスがイレウスとされています。

腸閉塞の原因

腸閉塞の原因としては、以下のようなものが知られています。

腸閉塞の原因
  • 術後癒着
    過去の開腹手術後にお腹の中で臓器や組織がくっつき、腸管を圧迫することで起こる。最も多い原因の一つ。
  • ヘルニア
    腸の一部が腹壁の隙間から飛び出し、腸管が圧迫されて起こる。
  • 腫瘍
    腸管内に腫瘍ができ、腸管を狭くしたり、詰まらせたりすることで起こる。
  • 腸捻転や腸重積
    腸管がねじれたり、腸の一部が他の部分に入り込んで起こる。
  • 腸管運動の低下
    開腹手術後早期や腹膜炎、電解質異常などにより腸管の運動が麻痺することで起こる。

腸閉塞の主な症状

腸閉塞の代表的な症状には、以下が挙げられます。

腸閉塞の主な症状
  • 腹痛
    ときに間欠的に強い痛みが起こる場合もあれば、持続的に鈍痛が続く場合もあります。
  • 嘔吐・吐き気
    腸に溜まった内容物が逆流し、吐き気や嘔吐を引き起こします。
  • 腹部の張り
    ガスや内容物が溜まってお腹が張ります。
  • 便秘や排ガス障害
    腸内が詰まるため、便やガスが出にくくなります。
  • 発熱
    腸が血流障害や壊死などを起こしている場合に見られることがあります。

腸閉塞の一般的な治療方法

腸閉塞の治療法は、原因や症状の程度、重症度によって異なります。

軽度の場合、絶食や輸液(点滴)、経鼻胃管(鼻から胃に通すチューブ)、イレウス管(鼻から胃を経由して小腸まで通すチューブ)による消化管内容物の減圧、薬物療法などを行います。

また、腸閉塞の原因となっている部位を切除したり、癒着を剥がしたりする手術を行う場合もあります。腸管壊死が疑われる場合は、緊急手術が必要になります。

水素吸入が腸閉塞の予防や改善に役立つ可能性

水素は、体内の酸化ストレスを抑える抗酸化作用や、炎症を抑える抗炎症作用を持つことが知られており、様々な疾患への効果が期待されています。

水素吸入療法は、水素ガスを吸入することで体内に水素を取り込み、その効果を得る治療法です。

近年は医療や健康分野で注目されており、腸閉塞に対しても予防や改善に寄与する可能性が示唆されています。

以下では、関連する研究報告をもとに、水素吸入が腸閉塞にどのように働く可能性があるのか考察します。

腸閉塞の予防における水素吸入の可能性

腸閉塞の一種である「機能性イレウス」は、開腹手術後早期に腸の動きが一時的に低下して起こるもので、炎症がその発症リスクの増加に深く関与していることがわかっています。

実際、術後に全身性炎症がある患者は腸管運動の回復が遅れることが統計的に有意であると示されており、機能性イレウスの発症を抑えるためには、炎症を管理することが重要と考えられています。2)

水素吸入による炎症抑制効果と予防への期待

現時点では、水素吸入が腸閉塞の予防に有効であることを示すヒトを対象とした試験報告は確認できていません。

しかし、様々な研究で、水素吸入には体内の炎症を抑制する抗炎症作用が報告されており3)、機能性イレウスのように炎症を伴う腸閉塞のリスク低減に寄与する可能性が考えられます。

実際、機能性イレウスのマウスを対象とした研究でも、水素水を腹腔内に投与(お腹に注入)することで腸運動障害が有意に軽減されたという報告があります。4)

水素吸入も同様に、機能性イレウスのように炎症を伴う腸閉塞の場合にも、炎症抑制効果を通じて腸管運動障害を防ぎ、イレウス予防に寄与する可能性が期待されます。

腸閉塞の改善における水素吸入の可能性

一方で、すでに腸閉塞が起こっている状態に対する改善効果としては、「敗血症性イレウス」を対象とした動物実験において、水素吸入の有効性が示唆されています。4)

この研究では、敗血症を誘発したマウスに水素ガスを吸入させた群と吸入しなかった群を比較したところ、腸管運動機能障害の抑制や炎症性サイトカイン(炎症を引き起こす物質)の発現抑制が確認されました。

敗血症は、細菌やウイルスなどの感染が全身に広がることで臓器機能が低下する重篤な状態です。

これに伴い腸閉塞が起こることがあり、その際に水素吸入による炎症抑制が改善に寄与する可能性がこの研究結果から示唆されました。

まとめ:水素吸入が腸閉塞の新たな治療・予防法となりうるのか

現時点では、水素吸入療法が腸閉塞に対して有効であると断言できるほどの十分な臨床データはありません。

ただし、動物実験レベルでは、水素吸入が腸の炎症を抑え、腸管の動き低下を抑制・改善する可能性が示唆されています。

抗酸化作用や抗炎症作用を通じて腸閉塞の発症や悪化を防ぐ可能性があるという点は興味深いと言えるでしょう。

一方で、まだヒトを対象とした大規模なランダム化比較試験(RCT)は不足しています。今後は、腸閉塞の種類(機械性・機能性)や患者さんの年齢、基礎疾患などを考慮したうえで、水素吸入の安全性と有効性を検証する研究が待たれます。

ご興味がある方は、主治医に相談しながら、標準治療を優先しつつ補助的なケアとして活用できるかどうかを検討してみても良いでしょう。

参考文献
  1. Miller, G., Boman, J., Shrier, I., & Gordon, P. H. (2000). Natural history of patients with adhesive small bowel obstruction. The British journal of surgery, 87(9), 1240–1247. https://doi.org/10.1046/j.1365-2168.2000.01530.x
  2. Ay, A. A., Kutun, S., Ulucanlar, H., Tarcan, O., Demir, A., & Cetin, A. (2011). Risk factors for postoperative ileus. Journal of the Korean Surgical Society, 81(4), 242–249. https://doi.org/10.4174/jkss.2011.81.4.242
  3. 【医師監修】水素吸入は本当に炎症を抑える?最新研究をもとに考察
  4. Okamoto, A., Kohama, K., Aoyama-Ishikawa, M., Yamashita, H., Fujisaki, N., Yamada, T., Yumoto, T., Nosaka, N., Naito, H., Tsukahara, K., Iida, A., Sato, K., Kotani, J., & Nakao, A. (2016). Intraperitoneally administered, hydrogen-rich physiologic solution protects against postoperative ileus and is associated with reduced nitric oxide production. Surgery, 160(3), 623–631. https://doi.org/10.1016/j.surg.2016.05.026
  5. Sakata, H., Okamoto, A., Aoyama-Ishikawa, M., Yamashita, H., Kohama, K., Fujisaki, N., Yamada, T., Kotani, J., Tsukahara, K., Iida, A., & Nakao, A. (2016). Inhaled hydrogen ameliorates endotoxin-induced bowel dysfunction. Acute medicine & surgery, 4(1), 38–45. https://doi.org/10.1002/ams2.218

このコラム記事は、一般的な医学的情報および最新の研究動向をもとに作成しておりますが、読者の方の個別の症状や体質などを考慮したものではありません。また、医学的アドバイス、診断、治療に代わるものではなく、特定の製品や治療法の効果・効能を保証、証明するものでもありません。健康上の問題がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、医師などの専門家に必ずご相談ください。本コラム記事の情報をもとに被ったいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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