《この記事の執筆者》
国立大学歯学部卒。大阪市内の歯科医院にて勤務した後、医療法人の歯科部門として開業。一般診療に加え訪問診療に携わる。出産後は歯科医師国家試験の予備校に勤務。生徒の指導に加え、記事の執筆・監修、問題の解説動画の作成を行う。
口の中にプチットした口内炎。食事もしづらいし、気になるしで鬱陶しいですよね。
この口内炎に対しては特効薬がなく、対症療法的な治療が現状で、自然に治るのをただ待っている方も多いのではないでしょうか。
そんな中、水素吸入が新たなアプローチとして、注目を集めています。
この記事では、口内炎の原因や種類を解説しつつ、水素吸入がその予防や改善にどのように役立つ可能性があるのか、最新の研究結果をもとにご紹介します。水素分子の抗炎症効果を活用し、口内炎の症状を軽減する新たなアプローチについて、詳しく見ていきましょう。
口内炎とは
口内炎とは、口の中や唇などの口周辺の粘膜におこる炎症の総称のことをいいます。
一般的に口内炎といわれて思いつく、患部がぷくっとして痛みがあるものを「アフタ性口内炎」といいます。
一概に口内炎と言っても、様々な種類があります。口内炎はただ痛いだけでなく、食べにくい、喋りにくい、眠りにくいなど様々な苦悩を引き起こしQOLを甚だしく低下させます。
口内炎の主な原因や症状
口内炎の原因と種類は主に4つあります。
- アフタ性口内炎
- カタル性口内炎
- ウイルス性口内炎
- 全身疾患による口内炎
これらについて説明します。
1. アフタ性口内炎
最もよくみられる口内炎です。2~5mmくらいの白いアフタと呼ばれる潰瘍が口の粘膜にみられます。
はっきりとした原因は分かっていませんが免疫機構の低下が原因だといわれています。ストレスや疲れ、睡眠不足、栄養不足(主にビタミンB2)なども原因だといわれています。
2. カタル性口内炎
頬の内側を咬んでしまったり、やけど、口の中の矯正器具や入れ歯が当たったりするなどの物理的な刺激でおこる口内炎です。
傷口から雑菌が入ると赤く腫れたり水疱ができます。口臭が伴うこともあります。
3. ウイルス性口内炎
ヘルペス性口内炎やカンジダ性口内炎が有名です。ウイルスや細菌、真菌などに感染することによっておこります。
ウイルス性口内炎では小さな水疱が数個できることがあり、それが破れてびらんになり激しい痛みや発熱が伴うこともあります。
また、感染症なので飛沫感染や接触感染で感染が広がります。
4. 全身疾患による口内炎
なんらかの食べ物や金属などがアレルゲンとなって引き起こされる「アレルギー性口内炎」や喫煙が原因である「ニコチン性口内炎」などがあります。
また、口内炎は通常2週間程度で治りますが、それ以上かかる場合や口内炎が増え続けている場合などは全身疾患の疑いもありますので医療機関での受診をおすすめします。
口内炎の標準的な治療
残念ながら口内炎の特効薬はまだ開発されていないので、対症療法が主流です。
原因が分かっている口内炎の場合、その原因を取り除くことが第一選択となりますが、症状を緩和させるにはステロイドや抗炎症薬による対症療法が主になってきます。
水素吸入は口内炎の予防・改善に効果はある?
口内炎の治療薬として塗り薬や貼り薬などがあり直接患部に作用しますが、なにぶん口の中なので唾液で流れやすく薬効成分をその場にとどまらせることが難しいのが欠点といえるでしょう。
水素吸入が口内炎の症状改善や予防に役立つという研究結果はまだ報告されていません。しかし、水素分子が炎症を取り去り、口内炎の予防や改善に役立つ可能性を示唆する研究報告があります。
水素による効果について詳しくみていきましょう。
水素水が口内炎を予防する
日本大学の研究では、水素水が口内炎の予防に役立つ可能性が示唆されています1)。
この研究では、実験開始1週前からラットを水素水群と脱水素水群にわけて自由摂取させ、その後、口内炎様の症状を作り経過を観察しました。
その結果、炎症性因子の遺伝子発現量が減少し、特にインターロイキン6(IL6)は有意に減少することが分かりました。
「IL6」は、サイトカインとよばれる免疫系の細胞から分泌されるタンパク質で、免疫・炎症反応などの生体防御に関連しています。過剰に産生されると炎症反応や免疫反応が過剰になり、発熱や倦怠感、CRPの上昇などの炎症反応を引き起こしてします。
水素吸入も口内炎の予防に?
この実験結果から水素はIL6を低下させる抗炎症効果をもち、口内炎の治療や予防に有益であることが示唆されました。
水素吸入は水素水よりも効率的に水素分子を取り込めるため、同様の効果が期待できるかもしれません。
この効果を裏付けるために、今後水素吸入を用いた研究報告がなされることを期待しています。
水素水で口内炎の症状改善
徳島大学の研究で、水素水の摂取は口の粘膜の創傷治癒の促進に有用だという結果が報告されています2)。
この研究では、ラットの口腔粘膜を一部剥離し口内炎様の症状を作り、ラットをランダムに蒸留水摂取のグループと水素水摂取のグループの二群に分け、自由に摂取させました。
結果は、水素水摂取のグループの方が創傷閉鎖の割合が高く、創傷の治癒が促進されていることが観察されました。また、全身的な酸化ストレス度の減少、炎症性サイトカインの抑制が認められました。
水素吸入でも口内炎が改善する?
このことから、水素水摂取によって抗酸化反応を主体とする生体防御反応が引き起こされ酸化ストレスの抑制・細胞の増殖因子が増加したことが分かります。
つまり、口腔粘膜の創傷治癒の促進において水素水摂取は有用であると示唆されました。
水素吸入を用いた研究ではないため、効果があるとは断言できませんが、水素水よりも多くの水素を取り込める水素吸入にも同様の効果が期待できるかもしれません。
今後もっと研究が進めば、水素吸入での口内炎抑制の効果が確立される可能性もあるでしょう。
【私はこう考える】水素吸入と口内炎
口内炎は老若男女誰でも起こりえる身近な病変です。
激しい痛み、たべにくい、話しにくいなどの不快な症状が多いにも関わらず特効薬がないのが現状です。
今回ご紹介した実験結果から、水素水が口内炎の改善・予防ができる可能性があると分かりました。
水素吸入を行うことで水素水を摂取するよりも高濃度の水素を摂取できることも分かっているので、ご紹介した実験の効果は水素吸入でもみられる可能性が高いと思われます。
マウスピースを用いて高濃度の水素を口腔内に放出することもできます。それを用いた場合は、水素水の摂取と同様の口腔内の環境を実現できるため、水素吸入でも同様の効果が期待できると考えるのも想像に難くないでしょう。
また、水素吸入は人体に害もなく手軽に摂取できるので試しに取り入れてみるのも良いかもしれません。
今後の更なる研究に期待しましょう。
参考文献
- 水素水による口内炎抑制・軽減効果の検討(日本大学・松戸歯学部)https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-26463172/26463172seika.pdf
- 酸化ストレス制御による口腔癌予防と化学放射線療法時の口内炎発症の予防効果の解明(徳島大学)https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-15K11418/15K11418seika.pdf