《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
皮膚がんは紫外線や放射線などの慢性的な刺激によって発症し、その種類や症状は実に様々です。
他のがんに比べて早期発見しやすい特徴もあり、早期発見できた場合の5年生存率は98%と非常に高いです。
しかし、進行して転移がある場合は5年生存率は15%まで一気に下がります。
本記事では、水素吸入療法が皮膚がんの予防や改善に役立つのかについて、これまでの研究報告をもとに解説していきます。
皮膚がんってどんな病気?
皮膚がんとは、皮膚に発生するがんの総称です。
皮膚がんには非常に多くの種類があり、症状の現れ方、進行の速さ、治療の難しさなどがそれぞれ異なります。
まずは、皮膚がんの特徴について見てみましょう。
皮膚がんの原因
皮膚がんは細胞に慢性的な刺激が加わることでDNAにダメージが生じて発症する病気です。
皮膚がんの原因となる慢性的な刺激には以下のようなものが挙げられます。
- 紫外線
- やけどや怪我
- ウイルス感染
- 放射線治療
- 喫煙習慣
- ヒ素などの化合物
また、皮膚がんは年齢が高くなるほど発症しやすくなるため、加齢も要因の一つと考えられています1)。
皮膚がんの主な症状
皮膚がんの症状はがんのタイプによって異なります。
いずれも周囲と色調が異なるしこり、発疹、ただれなどの症状を引き起こすのが特徴です。
これらの病変は内臓のがんとは異なり、目で見ることができる部位に発生するため早期の段階から気付くことが可能です。
皮膚がんの中でもよく見られる基底細胞がんや有棘細胞がんなどは進行が比較的緩やかで転移することはほとんどありません。
一方、悪性黒色腫などは転移しやすく、進行すると命に関わる場合があります。
皮膚がんの標準的な治療方法
皮膚がんの治療では、原則的にがんができた部位を取り除く手術を行います。
顔など目立ちやすい部位のがんを切除した場合には、整容を求めて再建手術をする場合もあります。
一方、転移がある場合やがんが広い範囲に広がっている場合は手術ができません。
そのような場合には、薬物療法や放射線治療を行います。
早期発見できれば生存率は高め
皮膚がんは、早期の段階で発見できれば5年生存率は98%程度です。
しかし、転移がある場合には治療が難しく5年生存率は15%程度となります1)。
特に悪性黒色腫は転移を引き起こしやすく、命に関わることもあるため注意が必要です。
水素吸入療法は皮膚がんの予防と治療に役立つか?
水素吸入療法も皮膚がんの予防や治療に役立つ可能性を示唆する研究結果が報告されています。
皮膚がんにはいくつものタイプがあり、なかには転移を起こしやすく治療が難しいタイプのがんもあります。
日本では1年間に約25,000人が皮膚がんと診断され、約1,700人が命を落としています1)。
そのため、皮膚がんの新たな予防や治療方法の研究が重ねられているのが現状です。
水素と皮膚がんの関係を占める研究結果の内容を見てみましょう。
水素ガスは放射線治療による皮膚がんの発生を予防できる?
2014年には、水素ガスが皮膚がんの原因となる放射線治療後の皮膚ダメージを予防できる可能性を示す研究結果が報告されました2)。
放射線治療では、放射線が照射された皮膚にダメージが引き起こされます。
放射線によるダメージは有棘細胞がんなどの原因となることが知られています。
この研究では、放射線による皮膚のダメージを受けたラットに水素を含むガスを吸引させたところ、皮膚症状が有意に改善したことが明らかになりました。
また、皮膚症状が改善するまでの時間が短くなることも明らかになっています。
水素吸入療法は皮膚がんを予防できる可能性がある
まだ動物実験の段階であるため、人に対しても同様の効果があると断言することはできません。
しかし、水素ガスは皮膚がんの原因ともなる放射線のダメージを軽減することで皮膚がんの予防につながる可能性はあるでしょう。
今後の更なる解明と治療への応用が期待されます。
酸化ストレスの軽減で皮膚がんの進行を抑えることができる?
2003年には、人の皮膚がんの組織に含まれる抗酸化酵素の量を測定して比較。
酸化ストレスが皮膚がんの進行に関わっていることを示唆する研究結果が報告されています3)。
この研究では、悪性黒色腫の細胞では酸化ストレスが増えることで周囲の組織にダメージを与え、がんの進行を促している可能性が示されました。
また、基底細胞がんや扁平上皮がんでは、抗酸化作用の低下によってがんの発生が促されている可能性も示唆されています。
水素吸入療法による酸化ストレス軽減でがんの進行を抑えられるか?
現在のところ、水素ガスと皮膚がんの治療を研究した結果は報告されていません。
しかし、今回の研究では酸化ストレスが皮膚がんの進行に関わっている可能性が明らかになっています。
水素吸入療法は酸化ストレスを軽減する効果があるため、皮膚がんの進行を抑える働きがあるかもしれません。
今後の更なる研究と治療への応用が進むことを期待します。
【私はこう考える】水素吸入と皮膚がん
皮膚がんの標準的な治療法は手術による切除ですが、進行している場合には手術ができないケースも少なくありません。
その場合は薬物療法や放射線治療を行いますが、現在でも新たな予防や治療法の開発が進められています。水素吸入療法もその一つです。
今回ご紹介した研究結果では、水素ガスが放射線治療後に引き起こされる皮膚がんを予防する可能性が示唆されました。
高齢化が進む中、がんの放射線治療を受ける方も増えているため放射線治療後の皮膚がん予防は非常に重要な課題です。
今回の結果が治療に応用できるよう、更なる研究に期待しましょう。
また、酸化ストレスが皮膚がんの進行に関与している可能性も示唆されました。
水素吸入療法も酸化ストレスを軽減する手段として治療に応用されることを期待します。
参考文献
- 皮膚:[国立がん研究センター がん統計]
- Sadahiro Watanabe, Masanori Fujita, Masayuki Ishihara, Shoichi Tachibana, Yoritsuna Yamamoto, Tatsumi Kaji, Toshio Kawauchi, Yasuhiro Kanatani, Protective effect of inhalation of hydrogen gas on radiation-induced dermatitis and skin injury in rats, Journal of Radiation Research, Volume 55, Issue 6, November 2014, Pages 1107–1113, https://doi.org/10.1093/jrr/rru067
- C.S. Sander, F. Hamm, P. Elsner, J.J. Thiele, Oxidative stress in malignant melanoma and non‐melanoma skin cancer, British Journal of Dermatology, Volume 148, Issue 5, 1 May 2003, Pages 913–922, https://doi.org/10.1046/j.1365-2133.2003.05303.x