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【医師監修】水素吸入療法は不妊の予防や改善に効果はある?

【医師監修】水素吸入療法は不妊の予防や改善に効果はある?

《この記事の執筆者》

WHOによると不妊は「12カ月以上性交しても妊娠に至らない状態」と定義されます。

男女それぞれの原因や治療法があり、活性酸素が不妊に与える影響も注目されています。

水素療法がこの酸化ストレスを減少させる作用があることから、不妊改善への可能性が期待されています。

本記事では、水素吸入療法が不妊の予防や改善に役立つのかについて科学的根拠をもとに解説していきます。

《▼YouTube動画版での解説▼》

不妊とはどのような状態?

不妊とはWHOによると「12カ月以上、定期的な避妊法を行わずに性交しても妊娠に至らない男性または女性の疾患」と定義されます1)

不妊である夫婦が妊娠するためには、原因疾患(下記)の治療とタイミング法、生殖補助医療があります。

不妊というと女性が原因と思う人も多いかも知れませんが、実は女性不妊と男性不妊はおよそ半分ずつで構成されます。

また、検査をしても原因がわからないことも少なくありません。

日本の不妊の実態

日本では不妊に悩む夫婦も生殖補助医療で生まれる子も年々増加傾向にあります。

2021年の調査では不妊を心配したことがある夫婦は39.7%、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は22.7%もいます2)

2020年の生殖補助医療(体外受精などの不妊治療)での出生児は約6万人で全出生児の7.2%でした3)

男性不妊

男性不妊には、以下のような原因があげられます。

男性不妊の原因
  • 精索静脈瘤などで精子を作れない
  • 精子の運動性が低い
  • 精管が閉塞している
  • 射精時に精液が膀胱に逆流する など

これらの原因に応じて薬物療法や手術が行われます。

女性不妊

女性不妊には、以下のような原因が挙げられます。

女性不妊の原因
  • 子宮内膜症や感染症などによる卵管の癒着
  • 子宮の奇形
  • ホルモンの異常による排卵障害や無月経 など

こういった原因による女性不妊も薬物療法や手術療法が行われます。

活性酸素が不妊をもたらす?

精子は様々な条件によりミトコンドリアが機能しなくなると、活性酸素が生成され、酸化ストレスによりDNAが分断されます。

不妊患者における精子DNAへのダメージの最も多い原因は、この酸化ストレスです4)

DNAが傷ついた状態では、受精率や妊娠成立の確率を減らしてしまいます。

女性の生殖において、酸化ストレスはとても複雑です5)

卵子の成熟の過程には、酸化ストレスにより阻害されるものと、酸化ストレスで促進されるものがあります。

また、活性酸素は排卵の誘発物質と考えられており、絶対に有害であるとは言い切れません。

不妊に対する水素療法の効果は?

水素療法は活性酸素による酸化ストレスを軽減する効果があり、様々な疾患での応用が期待されています。

上記のように不妊と酸化ストレスは密接な関係にあるので、不妊に対する水素療法も有効であることが予想されます。

水素療法が不妊を改善させたという直接的な研究はまだありませんが、その可能性となる研究を以下に紹介します。

水素が精子の運動性を上げる

精子の運動率(すべての精子のうち、何%の精子が元気に動いているか)は妊娠において非常に重要です。

42%以下では精子無力症と診断されます。

水素が精子の運動率に対して有効であるという研究があります6)

水素で運動量が約5倍に

この研究では精子を体内に取り込むのではなく、すでに体外に出て5日以上経った精子を水素に曝露させることで水素の効果を検証しました。

体外に出て5日以上経った精子の運動率は3.6%と、酸化ストレスにより低下している状態でした。

水素に曝露させた精子の運動率は16.8%まで改善しました。

他の治療と異なり、射精した後にも不妊改善が見込める画期的な研究といえます。

患者側にも追加の負担がないという点も良いことです。

水素が精索静脈瘤モデルラットの体外受精率を上げる

精索静脈瘤とは、精巣やその上にある精索に静脈瘤(静脈のこぶ)ができてしまう病気で、男性不妊の原因となります。

精索静脈瘤では、精巣の温度上昇や低酸素状態で活性酸素が生じていることで不妊になると考えられています。

大阪大学では、精索静脈瘤モデルラットに対する水素の効果を調べた研究が発表されました8)

水素で体外受精率が改善

この研究では、水素吸入や水素水とは異なり、体内で水素を発生させる薬品(大阪大学で開発)を4週間投与することで精索静脈瘤ラットの精子にまつわるデータを比較しました。

その結果は、水素を発生させる薬品を摂取したラットのグループでは、精子の運動率は改善し、DNA損傷の程度は少ないというものでした。

また、体外受精率は精索静脈瘤ラットは26.3%であったのに対し、静寂静脈瘤ラットに薬品を投与すると51.8%まで上がりました。

水素吸入が早期卵巣不全の卵巣を保護する

早期卵巣不全(早期閉経)は40歳未満で卵巣機能が低下し、無月経となった状態です。

原因は遺伝的な要因、代謝・内分泌疾患(糖尿病や甲状腺疾患など)、自己免疫疾患などがありますが、ほとんどが不明です。

早期卵巣不全となってしまえば、妊娠の可能性は非常に低くなる一方で、確立された治療法はありません。

水素で卵巣機能が改善

動物実験ではありますが、早期卵巣不全に対して水素療法を試みた研究があります8)

この研究ではモデルラットに水素水を5週間投与したところ、卵巣の機能を表すパラメータを改善しました。

さらに、顆粒膜細胞という卵胞発育に深く関わる細胞の自死(アポトーシス)を減らすことが分かりました。

【私はこう考える】水素吸入と不妊

今回は不妊に対する水素の効果について考察しました。

不妊は多くの人が悩んでいる社会的な問題と言えます。

2022年4月より不妊治療が保険適用になったことは、知っている人も多いでしょう。

保険適用になったとしても金銭的な負担がなくなるわけではありません。

検査に伴う身体的な負担や、治療がうまく行かないことや仕事の理解が得られないことの精神的・社会的な負担もあります。

不妊治療の保険適用には43歳未満の女性という制限もあるので、より妊娠の可能性を高める治療法が発見されるのは喜ばしいことです。

水素吸入は安全性の面から身体的な負担は少なく、基礎研究での効果も見られつつあります。

不妊に悩む人にとっての希望となる可能性もあり、今後の発展・実用化に期待したいですね。

参考文献
  1. WHO fact-sheets “Infertility”
  2. 公益社団法人日本産科婦人科学会「2020年体外受精・胚移植等の臨床実施成績」
  3. 国立社会保障・人口問題研究所「2021年社会保障・人口問題基本調査」
  4. Sadeghi N, Boissonneault G, et al. Oxidative versus reductive stress: a delicate balance for sperm integrity. Syst Biol Reprod Med. 2023 Feb;69(1):20-31.
  5. Agarwal, A., Aponte-Mellado, et al. The effects of oxidative stress on female reproduction: a review. Reprod Biol Endocrinol 10, 49 (2012).
  6. Nakata, K., Yamashita, N., et al. Stimulation of human damaged sperm motility with hydrogen molecule. Med Gas Res 5, 2 (2015).
  7. Inagaki Y, Fukuhara S, et al. Novel hydrogen-producing Si-based agent reduces oxidative stress, and improves sperm motility and in vitro fertilization rate in varicocoele. Andrology. 2021 Jan;9(1):376-383.
  8. He Y, Shi JZ, et al. Effects of Hydrogen Gas Inhalation on Endometriosis in Rats. Reprod Sci. 2017 Feb;24(2):324-331. 

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