研究論文
Hydrogen inhalation: a potential treatment for radiotherapy/chemotherapy-induced hearing loss in cancer patients(水素吸入:がん患者における放射線治療・化学療法に起因する難聴への応用の可能性)

水素吸入はがん治療による難聴を軽減する

一言まとめ

複数の動物・臨床研究を分析した結果、水素吸入ががん治療(放射線・化学療法)の副作用である難聴に対し、酸化ストレスを軽減することで有毛細胞を保護し、症状を改善する可能性が示された。

3分で読める詳細解説

結論

水素吸入は、がん治療の副作用である難聴を軽減する安全で有望な非侵襲的治療法となる可能性がある。

研究の背景と目的

放射線治療や化学療法薬のシスプラチンは、頭頸部がんなどの標準治療法であるが、副作用として聴力に深刻なダメージを与える「聴器毒性」が大きな問題となっている。この難聴は患者の生活の質(QOL)を著しく低下させるが、治療法は外科的介入などに限られ、身体への負担が少ない非侵襲的な選択肢は非常に少ないのが現状である。
この難聴は、治療によって内耳に活性酸素種(ROS)が過剰に発生し、酸化ストレスが生じることで、音を感知する感覚有毛細胞がアポトーシス(細胞死)を起こすことが主な原因と考えられている。
そこで本論文は、強力な抗酸化作用を持つ水素分子に着目し、水素吸入がこの酸化ストレスを抑制し、がん治療による難聴を予防・改善できるかについて、既存の複数の研究を横断的に分析・評価することを目的とした。

研究方法

本論文は、特定の患者群を対象とした単一の研究ではなく、このテーマに関する複数の先行研究をまとめたレビュー論文である。分析対象となった研究は以下の通り。

  • 基礎研究: マウスの聴覚器官(蝸牛)を用いたin vitro研究 1件
  • 動物研究: シスプラチンを投与した動物モデル(モルモット)を用いた研究 2件
  • 臨床研究: 実際にがん治療を受けた患者を対象とした研究 2件(3名の症例報告、17名の前向き研究)

各研究での水素の投与方法(濃度、吸入時間など)については、動物研究の1つで「2%の水素ガスを60分間、2回投与」との記述がある以外、本論文中には統一された具体的な記載はない。評価は、聴力検査(聴性脳幹反応)、組織学的検査(有毛細胞の損傷評価)、患者の自己申告など、各研究の手法に準じている。

研究結果

  • 主要な結果
    • 動物研究において、水素吸入はシスプラチンによる聴力低下と、内耳の感覚有毛細胞の損傷を大幅に軽減した(論文内に具体的な数値の記載なし)。
    • 放射線治療による難聴患者3名を対象とした症例報告では、水素治療後に患者が聴覚機能の改善を報告した(論文内に具体的な数値の記載なし)。
    • 17名の患者を対象とした前向き研究でも、大多数の患者が治療後に聴力の改善を自己申告し、先行研究の結果を支持した(論文内に具体的な数値の記載なし)。
    • 基礎研究では、水素分子がシスプラチンによって誘発される活性酸素種の産生を統計的に有意に抑制し、有毛細胞を保護する効果が確認された。
  • 考察と研究の限界
    • これらの結果は、水素が持つ強力な抗酸化作用が、がん治療による内耳の酸化ストレスを効果的に中和し、聴覚細胞を保護するというメカニズムを強く示唆している。また、水素分子は極めて小さく体内での拡散性に優れるため、他の抗酸化物質では届きにくい内耳にも到達しやすいという利点がある。
    • しかし、本論文で分析された臨床研究はいずれも小規模なものであり、水素治療の有効性と安全性を科学的に確立するためには、より大規模で厳密に管理された臨床試験が不可欠である。また、水素の抗酸化作用が、酸化ストレスを利用してがん細胞を攻撃する化学療法や放射線治療の効果そのものを弱めてしまうのではないかという懸念も残されており、今後の重要な研究課題とされている。

Appendix(用語解説)

  • シスプラチン (Cisplatin): がん治療に用いられる化学療法薬の一種。白金(プラチナ)を含む化合物で、がん細胞のDNA増殖を阻害するが、副作用として聴力や腎臓にダメージを与えることが知られている。
  • 酸化ストレス (Oxidative stress): 体内で過剰に発生した「活性酸素種(ROS)」により、細胞がダメージを受ける状態。老化や様々な病気の引き金になると考えられている。
  • 活性酸素種 (ROS): 呼吸で取り込んだ酸素の一部が、より反応性の高い状態に変化したもの。過剰になると細胞を傷つけ、酸化ストレスの原因となる。
  • アポトーシス (Apoptosis): 遺伝子にプログラムされた、管理・調節された細胞死のこと。「細胞の自殺」とも呼ばれ、不要になったり異常をきたしたりした細胞を計画的に除去する体内の仕組み。
  • 感覚有毛細胞 (Sensory hair cells): 内耳の蝸牛(かぎゅう)という器官に存在する細胞で、音の振動を脳に伝える電気信号に変換する重要な役割を担う。一度損傷すると再生が困難で、難聴の直接的な原因となる。
  • 非侵襲的 (Non-invasive): 手術のようにメスで体を切ったり、注射針を刺したりすることなく、身体を傷つけずに行う医療行為のこと。
  • in vitro(イン・ビトロ): 「試験管内で」という意味のラテン語。生きた個体内(in vivo)ではなく、培養細胞などを使って体外の人工的な環境下で行う研究を指す。

論文情報

タイトル

Hydrogen inhalation: a potential treatment for radiotherapy/chemotherapy-induced hearing loss in cancer patients(水素吸入:がん患者における放射線治療・化学療法に起因する難聴への応用の可能性)

引用元

Au, T. Y., Darwiche, F., Benjamin, S., & Assavarittirong, C. (2026). Hydrogen inhalation: a potential treatment for radiotherapy/chemotherapy-induced hearing loss in cancer patients. Medical gas research16(1), 86–87. https://doi.org/10.4103/mgr.MEDGASRES-D-25-00053

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