一言まとめ
ラットとマウスの高酸素性肺障害モデルにおいて、2%水素ガス吸入が血液酸素化を改善し、炎症反応や肺組織の損傷を軽減した。この保護効果はNrf2転写因子の活性化と抗酸化酵素HO-1の誘導を介して得られることが明らかになった。
3分で読める詳細解説
結論
水素ガス吸入はNrf2経路を活性化して高酸素による肺障害を効果的に軽減する。
研究の背景と目的
集中治療室などでは、生命維持のために高濃度の酸素投与が必要になることがある。しかし、高濃度酸素は肺の中で過剰な活性酸素種(ROS)を生み出し、それが原因で炎症や細胞死(アポトーシス)を引き起こし、深刻な肺障害(高濃度酸素肺障害)につながるリスクがある。近年、水素分子には活性酸素種の中でも特に有害なものを選択的に除去する働きがあることが報告されている。そこで本研究は、高濃度酸素にさらされたマウスに対して水素吸入を行い、肺障害が軽減されるかどうか、またそのメカニズムとして、細胞を酸化ストレスから保護する重要な役割を持つNrf2経路が関与しているかどうかを明らかにすることを目的とした。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- 高酸素性肺障害:高濃度酸素への長期間曝露によって引き起こされる肺への障害で、肺の炎症、浮腫、細胞死などを特徴とする。
- Nrf2(Nuclear factor erythroid 2-related factor 2):酸化ストレスに対する細胞の防御機構において中心的な役割を果たす転写因子。抗酸化酵素や解毒酵素の発現を制御する。
- HO-1(ヘムオキシゲナーゼ-1):ヘムを分解する酵素で、酸化ストレスによって誘導される。抗炎症作用や抗酸化作用を持ち、細胞や組織を保護する。
- 活性酸素種(ROS):酸素から派生した化学的に反応性の高い分子で、細胞構造や遺伝子に損傷を与える可能性がある。
- アポトーシス:プログラムされた細胞死の一種で、不要になった細胞や損傷を受けた細胞を排除するために体が行う制御された過程。
- 気管支肺胞洗浄液(BALF):気管支や肺胞を生理食塩水で洗浄して得られる液体で、肺の炎症や損傷の指標となる細胞やタンパク質を含む。
- サイトカイン:免疫細胞から分泌されるタンパク質で、炎症反応や免疫応答を調節する。
- W/D比(湿重量/乾燥重量比):肺組織の浮腫の指標で、値が高いほど水分含有量が多く、浮腫が強いことを示す。
論文情報
タイトル
Hydrogen gas reduces hyperoxic lung injury via the Nrf2 pathway in vivo(水素吸入は生体内においてNrf2経路を介して高濃度酸素による肺障害を軽減する)
引用元
Kawamura, T., Wakabayashi, N., Shigemura, N., Huang, C. S., Masutani, K., Tanaka, Y., Noda, K., Peng, X., Takahashi, T., Billiar, T. R., Okumura, M., Toyoda, Y., Kensler, T. W., & Nakao, A. (2013). Hydrogen gas reduces hyperoxic lung injury via the Nrf2 pathway in vivo. American journal of physiology. Lung cellular and molecular physiology, 304(10), L646–L656. https://doi.org/10.1152/ajplung.00164.2012
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