研究論文
Hydrogen Gas Attenuates Myocardial Ischemia Reperfusion Injury Independent of Postconditioning in Rats by Attenuating Endoplasmic Reticulum Stress-Induced Autophagy(水素ガスによるラットの心筋虚血再灌流障害の軽減:小胞体ストレス誘導性オートファジーの抑制を介した機序)

水素吸入がラットの心筋虚血再灌流障害を軽減

一言まとめ

ラットの心筋虚血再灌流障害モデルに2%水素ガスを吸入させたところ、虚血後コンディショニング法よりも優れた心筋保護効果を示し、その機序として小胞体ストレスの軽減とオートファジーの抑制が関与していることが明らかとなった。

3分で読める詳細解説

結論

水素吸入は、小胞体ストレスとオートファジーを抑制することで心筋虚血再灌流障害を効果的に軽減する。

研究の背景と目的

急性心筋梗塞は心不全や心臓死の主要な原因であり、早期の血流再開(再灌流)が治療の基本となる。しかし、再灌流自体が酸素ラジカルの発生などを通じて心筋細胞に新たな障害(再灌流障害)をもたらすことが知られている。再灌流障害は最終的な梗塞サイズの最大40%を占めるとされ、再灌流後30日間の死亡率は依然として8.5〜14%と高い。虚血後コンディショニング(短時間の再灌流と虚血を繰り返す手法)は臨床的に実施可能な心筋保護法として知られているが、近年、水素分子がヒドロキシルラジカルなどの活性酸素種を選択的に減少させる抗酸化作用を持つことが注目されている。本研究では、ラットの心筋虚血再灌流モデルにおける水素ガス吸入と虚血後コンディショニングの保護効果を比較し、その作用機序としての小胞体ストレスとオートファジーの関与を検討した。

研究方法

  • 対象者:Wistarアルビノラット70匹(平均体重200g)を5群に分けて実験
  • 介入方法:
    • シャム手術群(Sham):冠動脈閉塞なし
    • 虚血再灌流群(I/R):1時間の冠動脈閉塞後、2時間の再灌流
    • 虚血後コンディショニング群(IPo):1時間の冠動脈閉塞後、1分間の再灌流と1分間の虚血を4回繰り返した後、2時間の再灌流
    • 虚血再灌流+水素群(IH2):1時間の冠動脈閉塞後、再灌流5分前から2時間後まで2%水素ガスを吸入
    • 虚血後コンディショニング+水素群(IPoH2):IPoと同様の処置に加え、再灌流5分前から2時間後まで2%水素ガスを吸入
  • 評価方法:
    • 心筋梗塞サイズの測定
    • 血清トロポニンI(TnI)レベルの測定
    • 活性酸素種(ROS)、マロンジアルデヒド(MDA)、8-ヒドロキシ-2′-デオキシグアノシン(8-OHdG)の測定
    • 電子顕微鏡による小胞体ストレスとオートファジーの観察
    • ウェスタンブロット法による小胞体ストレス関連タンパク質(GRP78、TRAF2)とオートファジー関連タンパク質(Bclin-1、LC3II/I)の発現分析

研究結果

  • 水素吸入と虚血後コンディショニングはともに心筋梗塞サイズと血清トロポニンIレベルを有意に減少させたが、水素吸入の方がより強い効果を示した。
  • 水素吸入は酸化ストレスの指標であるROS、MDA、8-OHdGレベルを虚血後コンディショニングよりも効果的に減少させた。
  • 電子顕微鏡観察では、虚血再灌流により拡張した小胞体が観察されたが、水素吸入によってこの変化が軽減された。
  • 小胞体ストレスマーカー(GRP78、TRAF2)の発現は、虚血再灌流群で有意に増加し、水素吸入と虚血後コンディショニングにより減少したが、水素吸入の方がより効果的だった。
  • オートファジーマーカー(Bclin-1、LC3II/I)の発現も、虚血再灌流群で有意に増加し、水素吸入と虚血後コンディショニングにより減少したが、水素吸入の方がより効果的だった。
  • 水素吸入と虚血後コンディショニングの併用は、単独の水素吸入と比較して有意な追加効果は認められなかった。

Appendix(用語解説)

  • 虚血再灌流障害:血流が遮断された後に再開した際に生じる組織ダメージで、酸素ラジカルの発生などにより引き起こされる。
  • 虚血後コンディショニング:長時間の虚血後、再灌流の開始時に短時間の再灌流と虚血を繰り返すことで心筋保護効果を得る手法。
  • 小胞体ストレス:小胞体内のタンパク質の折りたたみ異常が蓄積することで引き起こされるストレス状態。
  • オートファジー:細胞内の不要なタンパク質や損傷した細胞小器官を分解・除去する自己消化作用。
  • GRP78:グルコース調節タンパク質78で、小胞体ストレスの重要なマーカー。
  • TRAF2:腫瘍壊死因子α受容体関連因子2で、小胞体ストレス時に活性化される。
  • Bclin-1:オートファジーの誘導に関わる重要なタンパク質。
  • LC3:オートファゴソーム形成に関わるタンパク質で、オートファジーの指標として用いられる。

論文情報

タイトル

Hydrogen Gas Attenuates Myocardial Ischemia Reperfusion Injury Independent of Postconditioning in Rats by Attenuating Endoplasmic Reticulum Stress-Induced Autophagy(水素ガスによるラットの心筋虚血再灌流障害の軽減:小胞体ストレス誘導性オートファジーの抑制を介した機序)

引用元

Gao, Y., Yang, H., Chi, J., Xu, Q., Zhao, L., Yang, W., Liu, W., & Yang, W. (2017). Hydrogen Gas Attenuates Myocardial Ischemia Reperfusion Injury Independent of Postconditioning in Rats by Attenuating Endoplasmic Reticulum Stress-Induced Autophagy. Cellular physiology and biochemistry : international journal of experimental cellular physiology, biochemistry, and pharmacology43(4), 1503–1514. https://doi.org/10.1159/000481974

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