一言まとめ
心肺停止後症候群の患者5名に対し、水素吸入を行い、酸化ストレスマーカーと炎症性サイトカインの経時的変化を調査。心原性の患者では酸化ストレスが減少し、敗血症の患者では炎症性サイトカインが減少した。
3分で読める詳細解説
結論
水素吸入は心肺停止後症候群患者の酸化ストレスと炎症を軽減する可能性があるが、方法論的限界から更なる研究が必要。
研究の背景と目的
心肺停止後症候群は、蘇生後も脳や心筋の損傷、全身の虚血再灌流障害などが複雑に絡み合った病態であり、死亡率が高い。この病態には活性酸素による酸化ストレスが深く関与していることが知られており、酸化ストレスを軽減する治療法の開発が求められている。水素分子には抗酸化作用や抗炎症作用があることが報告されており、動物実験では心肺停止後症候群の症状を改善することが示されている。そこで本研究では、心肺停止後症候群患者に水素吸入を行い、酸化ストレスマーカーや炎症性サイトカインの変化を調べることで、ヒトにおける水素吸入の効果を検討した。
研究方法
非外傷性の院外心肺停止から蘇生後、昏睡状態が持続する20-80歳の患者5名(男性3名、平均65歳、心原性4名、敗血症1名)を対象とした。全例で低体温療法を実施。ICU入室時から18時間、人工呼吸器による2%水素ガス吸入を行った。水素吸入前、開始3、9、18、24時間後に動脈血中水素濃度、酸化ストレスマーカー(d-ROMs、BAP、8-OHdG、HEL、LPO)、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)を測定した。
研究結果
Appendix(用語解説)
- d-ROMs: 活性酸素代謝物 (derivatives of reactive oxygen metabolites) の略。酸化ストレスの指標。
- BAP: 生物学的抗酸化能 (biological antioxidant potential) の略。抗酸化力の指標。
- 8-OHdG: 8-ヒドロキシ-2′-デオキシグアノシン (8-hydroxy-2′-deoxyguanosine) の略。酸化ストレスによるDNA損傷の指標。
- HEL: Nε-ヘキサノイルリジン (Nε-hexanoyl-lysine) の略。脂質過酸化の初期段階で生成。
- LPO: 過酸化脂質 (lipid hydroperoxide) の略。脂質過酸化の指標。
- IL-6: インターロイキン6 (interleukin-6) の略。炎症性サイトカイン。
- TNF-α: 腫瘍壊死因子α (tumor necrosis factor-α) の略。炎症性サイトカイン。
論文情報
タイトル
Hydrogen gas inhalation alleviates oxidative stress in patients with post-cardiac arrest syndrome(水素ガス吸入は心肺停止後症候群患者の酸化ストレスを軽減する)
引用元
Tamura, T., Suzuki, M., Hayashida, K., Kobayashi, Y., Yoshizawa, J., Shibusawa, T., Sano, M., Hori, S., & Sasaki, J. (2020). Hydrogen gas inhalation alleviates oxidative stress in patients with post-cardiac arrest syndrome. Journal of clinical biochemistry and nutrition, 67(2), 214–221. https://doi.org/10.3164/jcbn.19-101
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