一言まとめ
水素吸入は、急な運動の際にそのパフォーマンス自体を向上させることはできないが、筋肉損傷に伴う、酸化ストレス、炎症反応、アポトーシスといった有害な反応を軽減できる。
3分で読める詳細解説
結論
水素ガス吸入によって、筋肉損傷による酸化ストレス、炎症反応、アポトーシスを軽減した。
研究の背景と目的
- 定期的な運動は筋肉の損傷を引き起こすが、それは適応的な反応であり身体に良い影響をもたらす。しかし、運動に慣れていない人が急激で激しい運動を行うと、酸化ストレス、炎症反応、アポトーシスが過剰に起こり、筋肉に悪影響を及ぼす。
- 水素は抗酸化作用、抗炎症作用、抗アポトーシス作用を持つことが知られている。本研究では、水素ガス吸入が運動による筋肉損傷を軽減できるかを検証した。
研究方法
- ラットを密閉したトレッドミル内で疲労困憊に達するまで走行させた。
- 2%の水素ガスを吸入させる群と、コントロールガスを吸入させる群に分け、運動前と運動中で吸入させた。
- 筋肉(ヒラメ筋)と血中の酸化ストレスマーカー(SOD, GSH, TBARS)、炎症マーカー(TNF-α, IL-1β, IL-6, IL-10, NF-κBのリン酸化)、アポトーシスマーカー(カスパーゼ-3, Bcl-2, HSP70)を測定した。
研究結果
Appendix(用語解説)
- 酸化ストレス:活性酸素による細胞や組織へのダメージのこと。抗酸化物質とのバランスが崩れると起こる。
- 炎症反応:感染や組織の損傷に対する生体の防御反応。急性期には症状を引き起こすが、慢性化すると病態につながる。
- アポトーシス:プログラムされた細胞死のこと。不要となった細胞を除去する生理的なプロセスだが、過剰になると組織の損傷につながる。
- SOD(スーパーオキシドディスムターゼ):活性酸素種の一つであるスーパーオキシドアニオンを分解する抗酸化酵素。
- TBARS(チオバルビツール酸反応性物質):脂質過酸化の指標。脂質が活性酸素によって酸化された程度を反映する。
- TNF-α(腫瘍壊死因子α):炎症反応を促進するサイトカインの一種。
- IL-6(インターロイキン6):炎症反応や免疫応答に関与する主要なサイトカイン。
- NF-κB:炎症性サイトカインの産生を制御する転写因子。細胞のストレス応答に重要な役割を果たす。
- カスパーゼ-3:アポトーシス実行の中心的な役割を担うタンパク質分解酵素。
論文情報
タイトル
Molecular hydrogen downregulates acute exhaustive exercise-induced skeletal muscle damage(水素分子は激しい運動によって引き起こされる骨格筋の損傷を抑制する)
引用元
Nogueira, J. E., Amorim, M. R., Pinto, A. P., da Rocha, A. L., da Silva, A. S. R., & Branco, L. G. S. (2021). Molecular hydrogen downregulates acute exhaustive exercise-induced skeletal muscle damage. Canadian journal of physiology and pharmacology, 99(8), 812–820. https://doi.org/10.1139/cjpp-2020-0297