一言まとめ
健康な成人男性24名を対象に、運動前60分間の水素吸入が運動疲労に与える影響を調べたところ、水素吸入により主観的疲労感と運動強度感が有意に軽減し、サイクリング最終段階でのペダリング頻度も維持され、血中乳酸の回復促進とヒドロキシルラジカル抑制能力の向上が認められた。
《▼「すいかつラジオ」の解説▼》
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結論
運動前の水素吸入は運動疲労を軽減し、機能的パフォーマンスを維持する新しい戦略となる可能性がある。
研究の背景と目的
激しい運動や長時間の運動は、活性酸素種(ROS)の大量産生を引き起こし、酸化ストレスの増大により運動疲労の原因となる。酸化ストレスは筋収縮に関与するタンパク質を阻害し、筋力低下(疲労)を引き起こす。水素分子は選択的な抗酸化能力を持ち、細胞膜を透過して細胞内小器官に素早く拡散し、有害なヒドロキシルラジカルを選択的に還元することが知られている。本研究は、運動前の水素吸入が運動疲労、機能的パフォーマンス、血液マーカーに与える影響を初めて検討することを目的とした。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- 活性酸素種(ROS): 酸素から生成される反応性の高い分子で、過剰になると細胞を傷害し疲労の原因となる
- ヒドロキシルラジカル: ROSの中でも特に反応性が高く有害な物質で、水素が選択的に還元する標的分子
- カウンタームーブメントジャンプ(CMJ): しゃがみこみから跳躍する動作で、神経筋機能や疲労状態を評価する指標
- 視覚的アナログスケール(VAS): 10cmの線上に疲労度を主観的に示すことで疲労感を定量化する方法
- 乳酸: 激しい運動時に筋肉で産生される代謝産物で、疲労と関連する指標
論文情報
タイトル
Inhalation of Hydrogen-rich Gas before Acute Exercise Alleviates Exercise Fatigue: A Randomized Crossover Study(急性運動前の水素吸入が運動疲労を軽減する:ランダム化クロスオーバー研究)
引用元
Dong, G., Wu, J., Hong, Y., Li, Q., Liu, M., Jiang, G., Bao, D., Manor, B., & Zhou, J. (2024). Inhalation of Hydrogen-rich Gas before Acute Exercise Alleviates Exercise Fatigue: A Randomized Crossover Study. International journal of sports medicine, 10.1055/a-2318-1880. Advance online publication. https://doi.org/10.1055/a-2318-1880
専門家のコメント

木村香菜 先生
本研究は、高強度運動前に水素吸入をすることで、運動による疲労軽減や酸化ストレスの改善に効果を示すか調査した初めての試みです。人を対象にしている研究であり、信頼性の高い結果ではないかと思われます。
特に、水素吸入による疲労感の軽減や、運動後の乳酸回復の加速、ヒドロキシラジカル抑制能力の向上が確認されました。これにより、水素ガスが酸化ストレスを抑制し、運動後の回復を促進する可能性が示唆されます。
しかし、サンプルサイズが24名と少ない点は本研究の限界であり、特にCMJに有意差が見られなかったことは、統計的パワーの不足による可能性が考えられます。今後の研究では、より大規模なサンプルサイズを用いた試験が必要でしょう。