一言まとめ
本論文は、水素分子が持つ抗酸化作用、抗炎症作用、細胞保護作用などに着目し、多様な疾患に対する治療法としての可能性を、基礎研究および臨床応用に関する既存の多数の研究を概観しまとめたレビュー論文である。
3分で読める詳細解説
結論
水素は選択的な抗酸化・抗炎症作用と多様な細胞保護メカニズムを持ち、多臓器系疾患に対する新たな治療選択肢となる可能性がある。
研究の背景と目的
水素は地球上で最も軽い化学元素であり、腸内細菌によって自然に産生される。1975年に初めて水素の治療応用が報告されたが、生理学的に不活性なガスと考えられていたため長らく臨床的に注目されなかった。2007年、大澤らは水素が選択的抗酸化特性を持ち、ヒドロキシラジカル(・OH)とペルオキシナイトライト(ONOO-)を特異的に中和することで脳の虚血/再灌流障害や脳卒中を保護することを発見した。この発見以降、水素の治療・予防効果に関する研究が世界的に拡大した。本研究では、水素の作用メカニズムと多臓器系疾患における水素の予防的・治療的応用について包括的にレビューすることを目的としている。
研究方法
本論文は、水素の生物学的効果と機序に関する基礎研究、および水素の臨床応用に関する最新の文献をレビューしたものである。
研究結果
Appendix(用語解説)
- Nrf2: 核因子erythroid 2関連因子2の略。抗酸化酵素の発現を調節する転写因子。
- HO-1: ヘムオキシゲナーゼ-1の略。ヘムを分解し、抗酸化・抗炎症作用を持つ酵素。
- アポトーシス: プログラムされた細胞死の一形態。細胞収縮、アポトーシス小体形成、核分解、クロマチン凝縮を特徴とする。
- オートファジー: 細胞内の不要なタンパク質や細胞小器官を分解するプロセス。マクロ分子物質の分解によりエネルギーバランスを維持する。
- パイロトーシス: 炎症性プログラム細胞死。カスパーゼ-1の活性化によりIL-1βやIL-18などの炎症性サイトカインが放出される。
- フェロトーシス: 鉄依存性の脂質過酸化によって引き起こされる調節性細胞死。
- 小胞体ストレス: 細胞内の小器官である小胞体に異常なタンパク質が蓄積するなどして機能不全に陥り、細胞にストレスがかかる状態。持続するとアポトーシスなどを引き起こす。
論文情報
タイトル
Hydrogen: A Novel Option in Human Disease Treatment(水素:ヒト疾患治療における新たな選択肢)
引用元
Yang, M., Dong, Y., He, Q., Zhu, P., Zhuang, Q., Shen, J., Zhang, X., & Zhao, M. (2020). Hydrogen: A Novel Option in Human Disease Treatment. Oxidative medicine and cellular longevity, 2020, 8384742. https://doi.org/10.1155/2020/8384742
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