一言まとめ
好中球から放出される好中球細胞外トラップ(NETs)の形成が様々な炎症性疾患の病態に関与しているが、研究チームは水素がPMAやA23187で刺激した好中球のNETs形成を抑制し、LPS誘発性敗血症モデルにおけるNETs放出も抑制することを発見した。
3分で読める詳細解説
結論
水素は好中球細胞外トラップの形成を抑制し、過剰な好中球活性化を伴う炎症性疾患の新治療戦略となる可能性がある。
研究の背景と目的
好中球細胞外トラップ(NETs)は、感染症に対する生体防御として好中球が核内DNAを放出し、病原微生物を捕捉して殺菌する自然免疫応答である。しかし、NETs形成が過剰になると、敗血症、急性呼吸器症候群、COVID-19、心血管疾患など様々な病態を引き起こす。一方、水素は抗酸化作用を持ち、臨床的にも実験的にも炎症を軽減することが証明されているが、その分子メカニズムは不明な点が多い。本研究は水素がNETs形成および過剰な好中球活性化を抑制するかどうかを調査することを目的としている。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- 好中球細胞外トラップ(NETs): 好中球が放出する網目状のDNA構造で、ヒストンや抗菌タンパク質を含み、病原体を捕捉・殺菌する防御機構。過剰に形成されると組織障害や血栓形成を引き起こす。
- PMA(ホルボール12-ミリステート13-アセテート): プロテインキナーゼCを直接活性化し、活性酸素種(ROS)の産生を誘導する実験用試薬。
- A23187(カルシウムイオノフォア): 細胞膜を通してカルシウムイオンの輸送を促進し、細胞内カルシウム濃度を上昇させる化合物。
- ヒストンシトルリン化: ヒストンというDNAを巻き付けるタンパク質内のアルギニン残基がシトルリン残基に変換される過程。NETs形成に重要な役割を果たす。
- MPO(ミエロペルオキシダーゼ): 好中球の酵素で、H2O2と塩化物イオンからHOCl(次亜塩素酸)を生成する。HOClは強力な酸化剤で殺菌作用があるが、炎症性の細胞損傷も引き起こす。
- CXCR4: 好中球の表面に発現するケモカイン受容体で、老化した好中球ではその発現が上昇する。CXCR4高発現好中球はNETs形成に傾きやすい。
- 酸化バースト: 好中球が活性化されると急速に酸素消費が増加し、活性酸素種(ROS)を大量に産生する現象。
- LPS(リポ多糖): グラム陰性菌の細胞壁外膜の構成成分で、強力な免疫刺激作用を持ち、敗血症モデルの作成に用いられる。
論文情報
タイトル
H2 Inhibits the Formation of Neutrophil Extracellular Traps(水素は好中球細胞外トラップの形成を抑制する)
引用元
Shirakawa, K., Kobayashi, E., Ichihara, G., Kitakata, H., Katsumata, Y., Sugai, K., Hakamata, Y., & Sano, M. (2022). H2 Inhibits the Formation of Neutrophil Extracellular Traps. JACC. Basic to translational science, 7(2), 146–161. https://doi.org/10.1016/j.jacbts.2021.11.005
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