一言まとめ
薬剤(ウアバイン)投与によって聴覚神経障害(AN)モデルを作成したスナネズミに1%、2%、4%の水素ガスを吸入させたところ、聴覚脳幹反応(ABR)閾値の上昇が軽減され、らせん神経節ニューロン(SGN)のアポトーシスが抑制された。
3分で読める詳細解説
結論
水素吸入はウアバイン誘発性ANのらせん神経節ニューロンのアポトーシスを抑制し、聴覚機能を保護する。
研究の背景と目的
聴覚神経障害(AN)は、蝸牛の有毛細胞機能が正常であるにもかかわらず、聴神経機能に異常をきたす難聴である。小児難聴の7~10%を占めるとされるが、そのメカニズムは不明で、有効な治療法がない。
一方、水素分子(H₂)はヒドロキシルラジカル(・OH)を選択的に除去する抗酸化作用を持ち、様々な疾患での保護効果が報告されている。そこで本研究では、ウアバイン誘発性ANモデルスナネズミに対する水素吸入の効果を検討した。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- 聴覚神経障害(AN):蝸牛の有毛細胞機能が正常であるにもかかわらず、聴神経機能に異常をきたす難聴。
- ウアバイン:Na⁺/K⁺-ATPaseの活性を阻害する心臓配糖体。スナネズミの正円窓に投与すると、有毛細胞の形態と機能には影響を与えずにらせん神経節ニューロンを選択的に破壊するため、ANモデルとして用いられる。
- 聴覚脳幹反応(ABR):音刺激に対する脳幹の電気的反応を記録する検査。聴覚機能を客観的に評価できる。
- 歪成分耳音響放射(DPOAE):外耳道に入力した2つの純音によって生じる歪み成分を測定する検査。外有毛細胞の機能評価に用いられる。
- らせん神経節ニューロン(SGN):内有毛細胞からの情報を聴神経に伝える一次ニューロン。蝸牛のらせん神経節に細胞体がある。
- アポトーシス:プログラムされた細胞死。細胞の収縮、核の凝縮、DNA断片化などの特徴的な形態変化を伴う。
- TUNEL染色:アポトーシスに伴うDNA断片化を検出する染色法。
- カスパーゼ3:アポトーシスの実行過程で中心的な役割を果たすプロテアーゼ。活性化されるとアポトーシスが進行する。
論文情報
タイトル
Inhalation of hydrogen gas attenuates ouabain-induced auditory neuropathy in gerbils(水素ガス吸入によるゲッ歯類のウアバイン誘発性聴覚神経障害の軽減)
引用元
Qu, J., Gan, Y. N., Xie, K. L., Liu, W. B., Wang, Y. F., Hei, R. Y., Mi, W. J., & Qiu, J. H. (2012). Inhalation of hydrogen gas attenuates ouabain-induced auditory neuropathy in gerbils. Acta pharmacologica Sinica, 33(4), 445–451. https://doi.org/10.1038/aps.2011.190
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