一言まとめ
高血糖状態にした脳梗塞モデルラットに2.9%の水素を吸入させたところ、吸入しなかったラットと比較して、神経症状、脳梗塞サイズ、脳浮腫、出血量が有意に減少し、脳保護効果が示された。
3分で読める詳細解説
結論
水素吸入は脳梗塞後の高血糖による出血性変換を抑制し、神経保護効果をもたらす。
研究の背景と目的
高血糖は脳梗塞後の死亡率と罹患率の主要なリスク因子である。実験的研究によれば、虚血前の高血糖は再灌流による脳障害を悪化させ、出血性変換に大きな影響を与える可能性がある。この出血性変換は、ヒドロキシルラジカルやスーパーオキシドアニオンなどの活性酸素種の産生増加によって起こると考えられている。
これまでの研究で、水素ガスが心臓や肝臓の虚血・再灌流障害において活性酸素を中和し酸化ストレスを軽減することが示されている。水素ガスは特にヒドロキシルラジカルとペルオキシナイトライトを選択的に除去し、抗酸化作用を発揮する。
本研究では、ラットの局所脳虚血モデルにおいて高血糖によって引き起こされる出血性変換に対する水素吸入の効果を検証した。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- 中大脳動脈閉塞(MCAO): 脳梗塞を実験的に引き起こすモデル。中大脳動脈を閉塞して脳の一部に血流を遮断し、虚血状態を作り出す。
- 出血性変換: 脳梗塞後に梗塞部位で出血が起こる現象。血管壁の損傷により血液が漏れ出すことで生じる。
- 8OHG: 8-ヒドロキシグアノシン。DNAの酸化的損傷を示すマーカー。
- HNE: 4-ヒドロキシノネナール。脂質過酸化の結果生じる物質で、酸化ストレスのマーカー。
- ニトロチロシン: タンパク質のニトロ化を示すマーカーで、活性窒素種による酸化ストレスを反映する。
- MMP-2/MMP-9: マトリックスメタロプロテアーゼ-2/9。細胞外マトリックスを分解する酵素で、血液脳関門の破壊に関与する。
- ZO-1/オクルディン: タイトジャンクション(細胞間の密着結合)を構成するタンパク質で、血液脳関門の完全性に重要。
- AQP4: アクアポリン4。水分子を選択的に透過させる膜タンパク質で、脳浮腫の形成に関与する。
論文情報
タイトル
Hydrogen gas reduced acute hyperglycemia-enhanced hemorrhagic transformation in a focal ischemia rat model(水素吸入は、高血糖による脳梗塞後の出血性変化を軽減する(ラット局所脳虚血モデル))
引用元
Chen, C. H., Manaenko, A., Zhan, Y., Liu, W. W., Ostrowki, R. P., Tang, J., & Zhang, J. H. (2010). Hydrogen gas reduced acute hyperglycemia-enhanced hemorrhagic transformation in a focal ischemia rat model. Neuroscience, 169(1), 402–414. https://doi.org/10.1016/j.neuroscience.2010.04.043
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