一言まとめ
新生児ラットの低酸素虚血性脳障害モデルにおいて、水素吸入療法は神経細胞障害を軽減し、短期的な神経学的機能および長期的な学習・記憶能力を改善した。この保護効果は水素吸入開始時間と持続時間に依存し、抗酸化、抗アポトーシス、抗炎症作用を介して発揮された。
3分で読める詳細解説
結論
水素吸入は低酸素虚血性脳障害に対して、MAPK/HO-1/PGC-1α経路を介して神経保護効果を発揮する。
研究の背景と目的
新生児低酸素虚血性脳症(HIE)は新生児の死亡や後遺症の主要な原因であり、生存例の25%が永続的な神経学的障害を持つことが知られている。低酸素虚血(HI)による脳障害は、酸化ストレス、興奮毒性、炎症、アポトーシスなど複数のメカニズムが複雑に絡み合って生じる。水素分子(H2)は血液脳関門を容易に通過する新しい抗酸化物質として注目されているが、HIEに対する保護効果については議論が分かれている。そこで本研究では、新生児ラットの低酸素虚血性脳障害モデルを用いて、水素吸入の治療効果とその分子メカニズムを評価した。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- 低酸素虚血性脳症(HIE):分娩中や出生直後の酸素供給不足や血流減少により、脳が障害を受けた状態。
- MAP キナーゼ:細胞内のシグナル伝達に関わる酵素で、細胞の生存や増殖、分化などに重要な役割を果たす。
- HO-1(ヘムオキシゲナーゼ-1):ストレスに応答して誘導される酵素で、抗酸化、抗炎症、抗アポトーシス作用を持つ。
- Nrf2:抗酸化応答の中心的な転写因子で、HO-1などの抗酸化酵素の発現を調節する。
- PGC-1α:ミトコンドリア生合成や酸化ストレス制御に関与する転写コアクチベーター。
- SIRT1:長寿関連タンパク質で、PGC-1αの活性を調節する脱アセチル化酵素。
- Bcl-2/BAX:アポトーシス調節タンパク質で、Bcl-2は抗アポトーシス、BAXは促進作用を持つ。
- HMGB1/TLR-4:HMGB1は損傷組織から放出される炎症誘導因子、TLR-4はその受容体で、炎症反応を引き起こす。
論文情報
タイトル
Hydrogen Gas Attenuates Hypoxic-Ischemic Brain Injury via Regulation of the MAPK/HO-1/PGC-1a Pathway in Neonatal Rats(新生児ラットにおけるMAPK/HO-1/PGC-1α経路の調節を介した水素吸入による低酸素虚血性脳損傷の軽減)
引用元
Wang, P., Zhao, M., Chen, Z., Wu, G., Fujino, M., Zhang, C., Zhou, W., Zhao, M., Hirano, S. I., Li, X. K., & Zhao, L. (2020). Hydrogen Gas Attenuates Hypoxic-Ischemic Brain Injury via Regulation of the MAPK/HO-1/PGC-1a Pathway in Neonatal Rats. Oxidative medicine and cellular longevity, 2020, 6978784. https://doi.org/10.1155/2020/6978784
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