一言まとめ
マウスの皮膚に複数回の虚血再灌流障害を与えて圧迫潰瘍を誘発したモデルにおいて、水素吸入を行った群では、傷の面積が有意に減少し、活性酸素種や炎症反応が抑制された。
3分で読める詳細解説
結論
水素吸入によって抗酸化作用と抗炎症作用が高まり、マウス圧迫潰瘍の形成を抑えて傷の治癒を促進する。
研究の背景と目的
圧迫潰瘍(いわゆる床ずれ)は、寝たきりの高齢者や重篤な疾患をもつ患者に多くみられる慢性的な皮膚障害で、骨が突出する部位に血流障害が繰り返し起こることで悪化する。特に、長時間の圧迫後に体位を変えると、一気に血液が流れ込む「虚血再灌流(I/R)」が生じ、大量の活性酸素種が発生して組織ダメージを引き起こす。
水素には、脳や心臓、肝臓などのI/R障害に対して、抗酸化・抗炎症など多角的な保護効果が報告されている。本研究では、水素吸入が皮膚I/Rによる圧迫潰瘍の形成を防ぐかどうか、その仕組みも含めて検証することを目的とした。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- 圧迫潰瘍(床ずれ):寝たきりの状態などで皮膚に長時間圧力がかかると、局所の血流が途絶して組織が壊死する病態。体位変換時に虚血再灌流が起こることが病態進行の一因。
- 虚血再灌流(I/R):一時的に血流が遮断された組織に再び血液が流れ込むことで、活性酸素種(ROS)が急激に増加し、細胞障害や炎症を引き起こす現象。
- 活性酸素種(ROS):酸素分子が変化してできた非常に反応性の高い分子(フリーラジカルなど)。細胞膜やDNAを酸化的に損傷する。
- SOD・GPx・CAT:いずれも体内の主要な抗酸化酵素。SODはスーパーオキシドラジカルを分解し、GPxやCATは過酸化水素を水や酸素に分解する。
- 炎症性サイトカイン:免疫や炎症反応を引き起こすシグナル伝達物質。TNF-α、IL-1βなどが代表的。
- Nrf2:細胞が酸化ストレスにさらされたときに核内に移行し、抗酸化遺伝子群の発現を誘導する転写因子。ARE(抗酸化応答エレメント)に結合してHO-1やNQO1の産生を増やす。
- MMP9:マトリックスメタロプロテアーゼの一種で、過剰になるとコラーゲンや細胞外マトリックスを分解して創傷治癒を遅らせる。
- TGF-β・VEGF・IGF-1:組織修復に重要な成長因子。TGF-βは細胞増殖やコラーゲン合成、VEGFは血管新生、IGF-1は細胞増殖やタンパク合成などを促進する。
論文情報
タイトル
Hydrogen gas inhalation protects against cutaneous ischaemia/reperfusion injury in a mouse model of pressure ulcer(水素吸入がマウス圧迫創傷モデルにおける皮膚の虚血再灌流障害を保護する)
引用元
Fang, W., Wang, G., Tang, L., Su, H., Chen, H., Liao, W., & Xu, J. (2018). Hydrogen gas inhalation protects against cutaneous ischaemia/reperfusion injury in a mouse model of pressure ulcer. Journal of cellular and molecular medicine, 22(9), 4243–4252. https://doi.org/10.1111/jcmm.13704
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