《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
日本では4人に1人がいわゆる「頭痛持ち」であるとされているため、頭痛に悩まされている人は多いのではないでしょうか。
頭痛の種類や原因は様々ですが、中には治療法が確立されていないものもあります。
そんな頭痛に対し、水素吸入療法が予防や治療に役立つ可能性が研究によって示唆されています。
本記事では、頭痛に関する基礎知識から水素吸入が頭痛の予防や改善に役立つのかについて、2024年の最新研究報告を交えながら、詳しく解説していきます。
頭痛ってどんな病気?
頭痛は、その名の通り頭部に痛みを感じる症状のことです。
頭痛は日常的によく起こりうる症状ですが、自然に治まって治療が必要ないケースが多いと考えられます。
一方で、頭痛はくも膜下出血など命に関わる病気が原因のこともあるため軽く考えることはできない症状でもあります。
また、片頭痛や緊張型頭痛など慢性的に頭痛が生じる病気では日常生活に支障を来すことも少なくありません。
まずは、頭痛の特徴について見てみましょう。
頭痛の原因
頭痛の多くは、頭蓋骨の内側・外側にある血管や神経に炎症が生じることで引き起こされます。
頭痛は発症要因によって以下のように2つのタイプに分けられます。
一次性頭痛
はっきりした原因がなく、慢性的な痛みが引き起こされる頭痛を一次性頭痛と呼びます。
一次性頭痛には以下の3つのタイプがあります。
- 片頭痛
- 緊張型頭痛
- 群発頭痛
二次性頭痛
病気や生活習慣の乱れなどのはっきりした原因によって引き起こされる頭痛を二次性頭痛と呼びます。
二次性頭痛には以下のような要因が挙げられます。
- くも膜下出血
- 脳腫瘍
- 髄膜炎
- 副鼻腔炎
- 急性緑内障
- 中耳炎
- 慢性疲労症候群
- うつ病
- 睡眠不足
- 喫煙習慣
- 薬の副作用
頭痛の症状
頭痛の現れ方は原因によって大きく異なります。
日常生活に支障がない程度の軽度な頭痛もあれば、吐き気やめまいなどを伴う頭痛もあります。
特に一次性頭痛は重症化すると日常生活に支障を来すケースも多いのが特徴です。
最も多く見られる片頭痛は頭痛が生じる前に目がチカチカするといった前兆症状が現れることがあります。
また、二次性頭痛では頭痛の他に原因となっている病気に伴う症状も現れます。
具体的には急性緑内障であれば目の充血、副鼻腔炎であれば鼻づまり、といった症状も同時に現れるのが一次性頭痛と区別するポイントです。
頭痛の標準的な治療方法
頭痛の治療方法は、頭痛のタイプや原因によって異なります。
一次性頭痛は痛み止めなどの薬物療法のほか、群発頭痛では酸素吸入で改善することもあります。
一方、二次性頭痛は原因となる病気の治療や生活習慣の改善が必要です。
痛み止めを使用すると一時的に症状が改善することもありますが、原因を解決しなければ頭痛を根本的に治すことはできません。
水素吸入療法は頭痛の予防や治療に役立つ?
頭痛にはさまざまなタイプや原因があり、予防と治療方法はそれぞれ異なります。
しかし、治療をしても症状が改善しないケースや再発を繰り返すケースも少なくありません。
そのため、新たな頭痛の予防や治療方法を見出すための研究が現在も多く行われています。
これまでにも、水素吸入や抗酸化作用が頭痛の予防、治療に役立つことを示唆する研究結果や症例が報告されています。
具体的な内容を見てみましょう。
抗酸化作用が片頭痛を予防する?
2015年に、抗酸化作用が片頭痛の発症を予防する可能性を示唆する検討結果が報告されました1)。
この研究は、これまで片頭痛の原因を探った研究結果を集めて片頭痛の発症要因の再検討がなされました。
その結果、片頭痛の発症には酸化ストレスが関与している可能性が示唆されたのです。
酸化ストレスにはさまざまな現象が挙げられましたが、細胞の酸化物質が増えていたとする研究結果が多く報告されていました。
水素吸入療法が頭痛を予防する可能性
今回の研究では、片頭痛の発生には酸化ストレスが関与している可能性が示唆されています。
そのため、酸化ストレスを緩和する効果を持つ水素吸入療法には、片頭痛を改善する効果が期待できると考えられます。
まだ研究段階であるため、確実な効果があるとは言えません。
しかし、片頭痛は多くの方が悩まされている病気の一つです。今後のさらなる究明に期待しましょう。
水素吸入が慢性疲労症候群による頭痛を改善する?
2024年に、水素吸入療法が慢性疲労症状群によって引き起こされた頭痛を改善する可能性を示唆する症例が報告されています2)。
この症例は、58歳男性。重度な疲労感や頭痛、集中力低下などが生じ、慢性疲労症候群と診断されました。
しかし、2年間の治療を経ても症状は改善せず、一日3~5時間の水素吸入を行ったところ、症状は徐々に改善し、6週間後には頭痛が著明に改善したことが報告されました。
その他、慢性疲労症候群と診断された18歳男性も水素吸入を一日6時間行ったところ3週間で頭痛が改善したと報告されました。
水素吸入療法が慢性疲労症候群の頭痛の治療に役立つ可能性
今回の研究結果は、あくまでも水素吸入による効果を患者の主観から評価したものです。
そのため、水素吸入療法が慢性疲労症候群の頭痛を確実に改善する効果があると言える段階ではありません。
しかし、これまで一切の治療が効かなかった患者の中に水素吸入を行ったところ、短期間での症状改善を認めたケースが複数報告されています。
今後さらなる解明が進み、改善方法がなかった二次性頭痛の治療に応用されることを期待しましょう。
【私はこう考える】水素吸入と頭痛
頭痛には軽度なものから日常生活に支障を来すほど重度なものまで、さまざまなタイプがあります。
また、原因も多岐に渡るため、頭痛を改善するには原因を正しく分析して適切な治療を行うことが大切です。
一方で、頭痛のなかには片頭痛や緊張頭痛などのように頭痛を繰り返すもの、慢性疲労症候群などのように確立した治療法がない病気が原因のものもあります。
今回ご紹介した2つの研究から、水素吸入療法は片頭痛の予防、慢性疲労症候群による頭痛の改善効果を持つ可能性が示唆されました。
まだ確実に効果があると言い切れませんが、水素吸入療法は特定の頭痛に対して予防や治療効果を持つ可能性は期待できるでしょう。
日本では4人に1人がいわゆる「頭痛持ち」であるとされています3)。
日頃から頭痛が生じやすい方は自宅でも簡単にできる水素吸入療法を取り入れてみるのもよいでしょう。