《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
「朝起きても疲れが取れない」「日中の眠気や集中力の低下がつらい」──それ、睡眠時無呼吸症候群が原因かもしれません。
この病気は、睡眠中に呼吸が一時的に停止することで良質な睡眠を妨げ、放置すると高血圧や心臓病、脳卒中など命に関わるリスクを高めます。
そこで、最近の研究で注目されているのが「水素吸入」です。
本記事では、睡眠時無呼吸症候群の基本情報から、水素吸入がどのように予防や治療の助けとなるのかを最新の研究結果をもとに詳しく解説します。睡眠時無呼吸症候群にお悩みの方は、ぜひご参考ください。
睡眠時無呼吸症候群について
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に一時的に呼吸が停止したり弱まったりする病気のことです。発症すると良質な睡眠が妨げられるため、慢性的な睡眠不足に陥って日中の集中力低下や眠気を誘発して思わぬ事故を引き起こす場合があります。
また、睡眠時無呼吸症候群を放置すると高血圧、心臓の病気、脳卒中などのリスクが高まることが分かっており、注意すべき病気と考えられています。
まずは、睡眠時無呼吸症候群の原因、症状、治療方法について詳しく見てみましょう。
睡眠時無呼吸症候群の原因
睡眠時無呼吸症候群は大きく分けて「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」と「中枢性睡眠時無呼吸症候群」の2つのタイプがあります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、肥満、扁桃肥大、加齢による筋力低下などによって横になると気道が物理的に狭くなることが原因です。肥満による脂肪の蓄積が最も多い原因とされています。
一方、中枢性睡眠時無呼吸症候群は、脳卒中などが原因となって脳による適切な呼吸の制御ができなくなることで発症します。
睡眠時無呼吸症候群の症状
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に一時的に呼吸が停止したり、呼吸が弱くなったりする病気です。
発症すると次のような症状を引き起こします。
- 大きないびき
- 日中の眠気や集中力の低下
- 抑うつ気分
- 慢性的な疲労感
- 頭痛
また、睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に酸素が不足しがちになります。放っておくと体に負担をかけ続けて心臓の病気や脳卒中、高血圧などの病気のリスクを高めることが分かっています。
睡眠時無呼吸症候群の治療方法
睡眠時無呼吸症候群の治療方法は重症度や発症原因によって大きく異なります。
肥満が原因の場合は生活改善をして減量することで、症状が改善するケースも少なくありません。
一方で、日中の眠気などの症状が強い場合にはマスクを膠着して気道を陽圧で広げて睡眠時の呼吸を改善する「持続陽圧呼吸療法(CPAP)」という治療が必要となります。
また、扁桃の肥大が原因の場合には扁桃を切除する手術を行う場合もあります。
水素吸入が睡眠時無呼吸症候群の予防や治療に役立つ可能性
睡眠時無呼吸症候群は良質な睡眠を妨げることで日中の思わぬ事故を引き起こす可能性がある病気です。また、放っておくと心臓の病気や脳卒中などのリスクを高める可能性もあります。
現在日本では成人の10~20%が睡眠時無呼吸症候群であるとの推計データも報告されており、身近で注意しなければならない病気と考えられます1)。
そのため、睡眠時無呼吸症候群の新たな予防や治療方法を見出すため研究が重ねられているのが現状です。その中には水素吸入が予防や治療に役立つ可能性を示唆する研究結果も含まれています。
具遺体的にどのような内容なのか詳しく見てみましょう。
抗酸化物質が扁桃の肥大を抑制する?
2004年、トルコの研究チームは活性酸素の増加が、扁桃の肥大を引き起こす要因であることを示す研究結果を報告しました2)。
この研究は扁桃肥大がある小児を対象に行われました。扁桃肥大がある小児は健常な小児に比べると体内の酸化ストレスが高く、手術で扁桃を切除すると酸化ストレスが軽減したことが明らかになっています。
研究者たちはこの結果から、扁桃の肥大には酸化ストレスが深く関わっている可能性を指摘し、抗酸化物質が治療薬となりうる可能性に言及しています。
水素吸入が扁桃肥大による睡眠時無呼吸症候群を予防する可能性
扁桃肥大は、肥満と並んで睡眠時無呼吸症候群の主な原因の一つです。
今回の研究では、抗酸化物質が扁桃肥大を抑制できる可能性が指摘されています。この説が正しいとすれば、抗酸化作用を持つ水素吸入にも同様の効果が期待できる可能性があるでしょう。
実際の効果を検証するにはさらなる研究が必要ですが、今後の進展に期待したいと思います。
水素吸入が睡眠時無呼吸症候群による心臓の病気を改善する?
2011年、日本の研究チームは間欠的な低酸素状態によって引き起こされる心臓への負担を水素吸入が改善する可能性を示唆する研究結果を報告しました3)。
この研究では、間欠的に低酸素環境に置いたマウスに水素ガスを吸入させ、正常な環境にいたマウスとの変化が比較検討されました。その結果、間欠的な低酸素状態に置かれたマウスでは以下のような変化が認められています。
- 間欠的な低酸素状態に置かれたマウスは有意に活性酸素が増え、心臓への負担が増えた
- 水素吸入をしたマウスは心臓への負担が軽減し、活性酸素の産生も抑えられた
水素吸入が睡眠時無呼吸症候群による心臓への病気の治療に役立つ可能性
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に低酸素状態になることで心臓への負担が増えて心臓の病気の発症リスクを高めることが分かっています。
今回の研究では、睡眠時無呼吸症候群と同じく間欠的な低酸素状態による心臓への負担を水素吸入が改善する可能性が示されました。そのため、睡眠時無呼吸症候群の患者でも水素吸入によって心臓の病気の予防や改善が期待できる可能性は高いでしょう。
今後はヒトを対象とした大規模な研究が進展し、水素吸入が広く応用されることを望みます。
【私はこう考える】水素吸入と睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は心身に様々な影響を与える病気であり、重症な場合には命に関わる病気の発症の引き金となる場合もあります。現在日本では、正確な診断をされず治療をしていない睡眠時無呼吸症候群の人も多いとされており、誰にでも注意が必要な病気です。
睡眠時無呼吸症候群の原因は様々であり、予防や治療方法はあるとはいえ原因によっては明確な予防方法がない場合もあります。また、手術を余儀なくされるケースも少なくありません。
今回ご紹介した2つの研究結果は、そんな睡眠時無呼吸症候群の新たな予防や治療方法を確立していく上での大きな光となる結果であったと考えます。
特に睡眠時無呼吸症候群による心臓への負担を水素吸入が予防、改善できる可能性を示した研究結果の意義が非常に大きいでしょう。
実際の効果を立証するにはさらなる研究が必要であり、道のりは遠いかもしれません。ですが、今回得られた結果を元に水素吸入の効果の検証が進み、水素吸入が睡眠時無呼吸症候群をはじめとしたより多くの予防や治療のサポートを担うことを期待します。
参考文献
- スリープヘルスと抑うつ状態の関連―CPAP治療中の閉塞性睡眠時無呼吸患者の調査―|京都大学
- Yilmaz, T., Koçan, E. G., & Besler, H. T. (2004). The role of oxidants and antioxidants in chronic tonsillitis and adenoid hypertrophy in children. International journal of pediatric otorhinolaryngology, 68(8), 1053–1058. https://doi.org/10.1016/j.ijporl.2004.04.003
- Hayashi, T., Yoshioka, T., Hasegawa, K., Miyamura, M., Mori, T., Ukimura, A., Matsumura, Y., & Ishizaka, N. (2011). Inhalation of hydrogen gas attenuates left ventricular remodeling induced by intermittent hypoxia in mice. American journal of physiology. Heart and circulatory physiology, 301(3), H1062–H1069. https://doi.org/10.1152/ajpheart.00150.2011