《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
胸やけやのどの違和感が続いていませんか?
それはもしかすると、逆流性食道炎になっているかもしれません。
逆流性食道炎は、放置すると食道がんのリスクを高める可能性もある身近な病気です。そんな中、抗酸化作用を持つ「水素吸入」が最近注目されています。
本記事では、逆流性食道炎の概要から水素吸入がどのように予防・改善に役立つのかについて、科学的根拠をもとに解説します。逆流性食道炎の症状にお悩みの方や予防に取り組みたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
逆流性食道炎の予防や治療において、水素吸入の可能性が動物実験や水素水研究を通じて示唆されている段階。ヒトにおける直接的な効果を明らかにするために、さらなる研究が必要。
(すいかつねっとのエビデンス評価基準はこちら)
逆流性食道炎について
逆流性食道炎とは、胃酸が食道に逆流することで食道の粘膜に炎症が生じる病気のことです。
発症すると様々な不快症状を引き起こすだけでなく、放っておくと食道がんの発症リスクを高めることも分かっています。
まずは、逆流性食道炎の原因、症状、治療方法について詳しく見てみましょう。
逆流性食道炎の原因
逆流性食道炎は胃酸が食道に逆流することによって引き起こされる病気です。
健康な人は胃酸が逆流しないように食道と胃の境目にはきつく閉じられた筋肉があり、飲食物が通るときだけ開く仕組み(下部食道括約筋)が備わっています。
しかし、次のような原因でその仕組みがうまく機能しなくなると胃酸の逆流が生じて逆流性食道炎を発症します。
- 肥満や妊娠による腹圧の上昇
- 加齢による筋力の低下
- アルコールやカフェインの過剰摂取
- 過食
- 喫煙
- 姿勢の悪さ
- ストレス
こうした要因が挙げられる一方で、実は、逆流性食道炎のはっきりした原因が特定できないケースも少なくありません。
逆流性食道炎の症状
逆流性食道炎を発症すると次のような症状が引き起こされます。
- 胸やけ
- 口の中の酸っぱさ
- のどの痛み
- 声のかすれ
- 咳
これらの症状は寝ているときに悪化しやすいのが特徴です。
そのため、重症化すると不快な症状によって睡眠障害を引き起こすこともあります。
逆流性食道炎の治療方法
逆流性食道炎の症状を改善するには、第一に原因と考えられる要因を改善することが大切です。具体的には、減量、食生活の見直し、適度な運動、姿勢の矯正などが挙げられます。
また、症状が強い場合には胃酸の分泌を抑える薬剤を用いた薬物療法を行うこともあります。
逆流性食道炎は放っておくと食道の粘膜に慢性的な負担がかかることで食道がんの発症リスクが高まることが明らかになっています。そのため、気になる症状があるときは早めに医療機関を受診して、適切な生活指導や治療を受けることが大切です。
水素吸入が逆流性食道炎の予防や治療に役立つ可能性
現在、日本では5~20%程度の人が逆流性食道炎を発症しているとされています1)。身近な病気の一つでもあり、慢性的な胸やけなどのつらい症状に悩まされている人も多いと考えられます。
逆流性食道炎の予防や治療方法は確立しています。しかし、十分な効果が得られないケースもあるため新たな予防や治療方法を見出すための研究が続けられているのが現状です。
近年では水素吸入が逆流性食道炎の予防や治療に役立つ可能性を示す研究結果も報告されています。具体的な内容について詳しく見てみましょう。
抗酸化物質が逆流性食道炎を予防する?
2005年、スペインの研究チームは逆流性食道炎の発症には活性酸素が関与しており、抗酸化物質が発症を予防する可能性を示す研究結果を報告しました2)。
この研究では、逆流性食道炎患者101名と健常者28名の食道粘膜の組織を採取して比較検討が行われました。その結果、逆流性食道炎患者の食道粘膜は活性酸素が非常に多く、抗酸化力が著しく低下していることが明らかになりました。
研究者たちは、活性酸素の増加が食道粘膜にダメージを引き起こし、さらには食道がんの前段階である「バレット食道※」の発生に関わっている可能性を指摘しています。
※バレット食道とは、胃酸の影響で食道の粘膜が胃の粘膜のように変化してしまった状態で食道がんリスクが高まるとされる
水素吸入が逆流性食道炎の予防に役立つ可能性
今回の研究結果から、逆流性食道炎の発症には活性酸素が深く関わっている可能性が示されました。研究者たちは、抗酸化物質の投与が逆流性食道炎の予防や治療に役立つ可能性にも言及しています。
この説が正しいとすれば、抗酸化作用がある水素吸入にも同様の効果が期待できる可能性があるでしょう。まだ確実な効果があると断言できる段階ではありませんが、今後も研究が進展することを期待します。
水素水が逆流性食道炎の症状を改善する?
2018年、イタリアの研究チームは水素水(水素ガスが溶けた水)が逆流性食道炎の症状を改善する可能性を示す研究結果を報告しています3)。
この研究では、逆流性食道炎患者84名を対象に、従来の薬物療法のみを行った群と薬物療法に加えて水素水の飲用を行った群に分けて3か月後の変化が比較検討されました。その結果、水素水を飲用した群は逆流性食道炎の症状が有意に改善し、血液中の酸化ストレスも減少したことが明らかになっています。
水素吸入が逆流性食道炎の治療に役立つ可能性
今回の研究から、水素水による酸化ストレスの減少は逆流性食道炎の症状改善に効果を示した可能性が考えられます。
水素吸入は水素水よりも効率的に水素を取り込むことができるため、水素吸入にも同様の効果が期待できる可能性は高いでしょう。
今回は限られた人数での短期間の検証であったため、今後は大規模な人数を対象により長期的な効果を検証する研究が進んでほしいと思います。
【私はこう考える】水素吸入と逆流性食道炎
逆流性食道炎は有病率が比較的高い病気であり、誰もが注意すべき病気の一つと言えます。軽度な症状のみであれば、軽く考えて治療をしないままの患者さんも多く、健康診断などで内視鏡検査をして初めて発見されるケースも少なくありません。しかし、慢性的な食道粘膜の炎症は食道がんの発症リスクを高めるため注意が必要です。
今回ご紹介した2つの研究結果から、抗酸化作用がある水素吸入は逆流性食道炎の予防や治療に役立つ可能性が期待できると考えます。
2つの研究はどちらも実際の逆流性食道炎患者を対象とした研究であり、有益な結果が得られたと言えるでしょう。特にイタリアの研究チームによる研究は長期間に渡って水素の効果を検証し、水素が持つパワーを再認識させる結果を示しました。
水素吸入のさらなる研究が進展し、逆流性食道炎の予防や治療のサポートを担う日が来ることを期待しましょう。
参考文献
- 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021
- Jiménez, P., Piazuelo, E., Sánchez, M. T., Ortego, J., Soteras, F., & Lanas, A. (2005). Free radicals and antioxidant systems in reflux esophagitis and Barrett’s esophagus. World journal of gastroenterology, 11(18), 2697–2703. https://doi.org/10.3748/wjg.v11.i18.26
- Franceschelli, S., Gatta, D. M. P., Pesce, M., Ferrone, A., Di Martino, G., Di Nicola, M., De Lutiis, M. A., Vitacolonna, E., Patruno, A., Grilli, A., Felaco, M., & Speranza, L. (2018). Modulation of the oxidative plasmatic state in gastroesophageal reflux disease with the addition of rich water molecular hydrogen: A new biological vision. Journal of cellular and molecular medicine, 22(5), 2750–2759. https://doi.org/10.1111/jcmm.13569