《この記事の執筆者》
日本口腔外科学会指導医・専門医、口腔科学会指導医。九州大学卒。同大学で初期研修後、同大学院卒。いくつかの大学病院勤務を経て、現在は福岡市内の開業医勤務。
歯周病は歯を支えている歯肉や歯ぐきなどの歯周組織が傷害される病気で、いまや歯の喪失原因の第一位ともいわれています。1)
特に30代から60代にかけての有病率が高く、40代後半以降は虫歯以上に日本人が歯を失う原因となっており、私たちの健康に深刻な影響を及ぼしています。
本記事では、水素吸入を含め水素療法がこの歯周病に対してどういう影響をもたらすのかについて研究データをもとに解説していきます。
《▼YouTube動画版での解説▼》
歯周病ってどんな病気?
歯周病(歯周炎)は、歯茎やその周りの組織に生じる炎症性の疾患で、進行すると歯槽骨(歯を支える骨)にも影響を与え、炎症や組織の損傷を引き起こします。
歯周病の主な原因
歯周病の主な原因には以下が挙げられます。
- 口腔ケアが不良: 歯みがきや歯間ブラシの不足、歯が一部無い状態を長く放置することなどが歯周病を引き起こす原因となります。
- 歯垢の蓄積: お口の中にいる細菌が、食べ物を分解して歯垢(プラーク)と呼ばれる塊を形成します。歯垢が歯周組織に蓄積すると、それが炎症を引き起こす原因となります。
- 喫煙: タバコは紙巻きたばこ、加熱タバコのどちらであっても、歯周病のリスクを高めます。
- 遺伝的な要因: 遺伝的な要因も歯周病の発症に影響を与える可能性があります。
- 全身状態: 糖尿病や免疫機能の低下など、全身の健康状態も歯周病のリスクに関与します。
歯周病の主な症状
歯周病の主な症状には以下が含まれます。
- 歯ぐきの腫れと赤み: 歯周病が進行すると歯ぐきが腫れ、赤くなります。
- 歯ぐきからの出血: 歯ぐきが触れられるだけで出血することがあります。特に歯磨きや歯間ブラシを使用した際に出血が見られることがあります。
- 口臭がする: 歯周病によりお口の中の細菌が増殖するため、口臭が発生します。
- 歯のぐらつきや傾き: 歯周病が進行すると、歯を支える骨が破壊されるため、歯がぐらついたり、傾いたりすることがあります。
- 歯周ポケットの形成: 歯と歯ぐきの間に歯周ポケットが形成され、深くなり、そこに歯垢や食べ物がたまりやすくなります。
歯周病は早期に発見に、適切な歯科治療、そして定期的なメンテナンスケアが行われれば、お口を良好な状態を長く維持管理できる可能性があります。しかし、治療をせずに放置し、症状が進行すると、歯を失うリスクが高まります。歯科医による定期的な検診と予防的なメンテナンスケアが重要です。
水素吸入療法は歯周病の予防・改善に効果はある?
これまで、水素による直接的・間接的な抗酸化作用が報告されています。また、腸管内でも水素ガスが4~12L/日作られています。2)
その水素による歯周病の抑制・改善については、水素を吸い込んで体内に取り入れる「水素吸入」による歯周病の予防や改善を調べた研究は、残念ながらまだ発表されていません。しかし、水素を含んだ水「水素水」を用いた研究がいくつかありますので、それをもとに歯周病の予防や改善について考察していきたいと思います。
水素療法による歯周病進行抑制
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科予防歯科学分野の森田学教授のグループが,水素水の摂取に歯周病を予防する効果があることを動物実験で,世界で初めて証明しました。3)
Kasuyamaらの報告では、歯周炎を誘発するためラットの上顎臼歯の周囲歯肉を4週間しばっておき、水素水を与える群と純水を与える群に分けて比較しました。4)
水素水を与えた群では、血清中の活性酸素種の上昇が抑制されていました。そのため、歯周組織における8-ヒドロキシデオキシグアノシンおよびニトロチロシンの発現を低下させ、歯周炎進行後の多形核白血球の浸潤と破骨細胞の分化を妨げました。この結果から,水素水摂取に歯周病の進行抑制効果があることが示唆されました。5)
現在の歯周病予防は、歯磨き、歯石除去、歯周外科治療など,口腔内に限局した歯周病予防を行っています。これに水素水の摂取で全身の抗酸化力を高めることも、歯周病予防に効果が見込める可能性が出てきました。
水素療法による歯周病の症状改善の可能性
前述の岡山大学の研究グループの発表で、歯周病患者13名を水素水投与群・非投与群の2つに分け、投与群は1日1Lの水素水を飲んでもらいました。両群とも歯石除去を行い、8週間後に歯周病の評価と血液検査をしたところ、水素水の投与群では歯肉の状態に大きな改善を認め、また血清中の抗酸化力が向上していました。6)
水素療法による歯周病の予防の可能性
現在までに、水素水による歯周病の症状を軽減させるという研究報告は前述のようにありますが、歯周病を予防する効果という点については、まだ報告はありません。
これは、歯周病の原因が多数あるため、有用性を比較するにも、水素水を飲む・飲まないという条件以外について、その他の条件を全員同じにすることが難しいことがあります。できるだけ条件を揃えるには、多くの被験者が必要になります。
また、歯周病の発生の有無を見るには、より長期間の観察が必要なことなどが理由として考えられます。
ただ、水素には抗酸化作用などはありますので、今後、歯周病の予防効果についての評価が出てくることを期待したいものです。
【私はこう考える】水素吸入療法と歯周病:まとめ
水素水には、活性酸素を除去する働きがあることが知られています。水素水が歯周病に対してどのような影響があるかについては、まだ動物実験での話であったり、少数の歯周病患者での検討など限られており、はっきりとした結論が出ているわけではありません。また歯周病学会が推薦しているなどもありません。
ただ、水素水には抗酸化作用があり、口腔内の酸化ストレスを軽減する可能性はありそうです。これが歯周病にどの程度影響するかについては、まだ研究の余地があります。
歯周病の予防や治療の基本として、日々の歯磨き、デンタルフロスや歯間ブラシの使用、定期的な歯科検診が非常に重要です。これらの効果を高めるものとして、日々の生活に抗酸化作用のある水素水や水素吸入を取り入れることも今後出てくるかもしれません。
参考文献
- 公益財団法人8020推進財団「永久歯の抜歯原因調査報告」(2018)
- 中尾篤典. 水素水は怪しい水でしょうか? 岡山医学会雑誌 2017, 129;9-15.
- https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/soumu-pdf/press24/press-0920-4.pdf
- Kenta Kasuyama, et al. Hydrogen-rich water attenuates experimental periodontitis in a rat model. J Clin Periodontol. 2011;38(12):1085-90.
- Takaaki Tomofuji, et al. Effects of hydrogen-rich water on aging periodontal tissues in rats. Sci Rep. 2014 Jul 2:4:5534.
- Tetsuji Azuma, et al. Drinking Hydrogen-Rich Water Has Additive Effects on Non-Surgical Periodontal Treatment of Improving Periodontitis: A Pilot Study. Antioxidants 2015, 4, 513-522
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