《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
「風が吹いただけでも痛い」――それほどの激痛をもたらす痛風に悩まされている方にとって、新たな光となるかもしれません。
水素吸入が持つ「抗酸化作用」が、痛風の予防や症状緩和をサポートする可能性があるとして注目されています。
本記事では、痛風の原因や症状、治療方法などの基本的な内容から、水素吸入がどのように痛風の予防・改善に役立つ可能性があるのかを科学的な根拠と共に解説します。痛風にお悩みの方や予防したい方にとって役立つ情報となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
痛風発作の予防や治療における水素吸入の可能性が、抗酸化物質を用いた研究から示唆されている。抗酸化作用の理論的応用が期待されるが、さらなる前臨床研究やヒト試験の実施が必要な段階。
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痛風について
痛風とは、血液中の尿酸値が高くなって足の指の付け根などに結晶ができて強い痛みを引き起こす病気です。医学的には、「高尿酸血症」と呼ばれます。
痛風は「風が吹いただけで痛む」という名の通り、発症すると激烈な痛みが生じ、歩行が困難になるケースも少なくありません。
まずは、痛風の原因、症状、治療方法を詳しく見てみましょう。
痛風の原因
痛風は血液中の尿酸が多くなりすぎることによって発症する病気です。血液中の尿酸値が高いことを高尿酸血症と呼びますが、高尿酸血症を放置すると血液中に溶けきれなくなった尿酸が結晶を作って痛みを引き起こします。
尿酸値が高くなる原因は次のようなものが挙げられます。
- アルコール、肉類、甲殻類などプリン体を多く含む飲食物の過剰摂取
- 遺伝
- 腎臓の機能低下
- 薬の副作用(利尿剤、免疫抑制剤など)
痛風は生活習慣病の一つですが、遺伝や薬の副作用などの影響で発症する場合もあるため生活習慣が整っている人も注意が必要です。
痛風の症状
痛風は、関節内に尿酸の結晶が溜まることで急性の炎症を引き起こす病気です。
発症すると次のような症状が現れます。
- 突然の非常に強い関節の痛み
- 関節の腫れや赤み
痛風は足の親指の付け根に発症するのが一般的です。
放置すると関節の変形を引き起こし、結晶が塊となって関節にしこりができて手術が必要になるケースがあります。
痛風の治療
痛風は、症状があるときと症状が治まっているときで治療方法が異なります。
痛みなどの症状があるときは、痛みを和らげるための鎮痛剤、炎症を鎮めるステロイドなどによる薬物療法を行います。
一方、症状がないときは尿酸値をコントロールして痛風の発作を予防するための治療が必要です。具体的には、食事や運動などの生活習慣改善のほか、尿酸値を低下させるための薬剤を用いた薬物療法を行います。
水素吸入が痛風の予防や治療に役立つ可能性
痛風は非常に強い痛みを引き起こし、発作が生じると日常生活にも支障を来す可能性がある病気です。痛風を予防するには、尿酸値を適正に保つための生活改善や治療が必要であり、発作が生じたときには有効な治療方法が確立しています。
しかし、予防や治療方法が確立した現在でも痛風に悩まされている人は少なくありません。そのため、痛風の予防や治療に関する研究は続けられています。
これまで、痛風に対する水素吸入の直接的な効果を示す研究結果は報告されていません。一方で、水素吸入が予防や治療に役立つ可能性を示唆する研究結果は報告されています。
具体的な内容を詳しく見てみましょう。
抗酸化物質が痛風の発作を予防する?
2015年、日本の研究チームは抗酸化作用と抗炎症作用があるチェリーやチェリージュースが痛風発作を予防する可能性を示す総説論文を発表しました。
総説論文とは、これまで行われてきた様々な研究結果をまとめて新たな結論を導き出す論文のことです。この総説論文では、ヒトを対象にチェリーやチェリージュースを摂取すると痛風発作のリスクが35%軽減したこと、炎症性物質が有意に低下したことなどを紹介しています。また、尿酸値が低下したとの研究結果も紹介されています。
水素吸入が痛風を予防に役立つ可能性
今回の総説論文から、チェリーやチェリージュースには尿酸値を下げて痛風の発作を予防する可能性があることが示されました1)。
明確なメカニズムは解明されていませんが、チェリーには抗酸化作用と抗炎症作用があり、それらの作用が効果的に働いた可能性があると研究者たちは言及しています。
この説が正しければ、抗酸化作用がある水素吸入にも痛風予防をサポートする効果が期待できるでしょう。実際の効果を立証するにはさらに踏み込んだ研究が必要です。今後の進展に期待します。
抗酸化物質が痛風による関節の炎症を改善させる?
2024年、中国の研究チームは抗酸化物質であるフラボノイドが痛風による関節の炎症を抑えるとする総説論文を発表しました2)。
この総説論文では、フラボノイドには尿酸の合成を抑えて排出を促す効果があり痛風の予防に役立つことを示しています。また、フラボノイドの抗酸化作用による炎症反応の軽減も痛風の炎症を和らげている可能性があると言及しました。
水素吸入が痛風の治療に役立つ可能性
今回の総説論文から、研究者たちはフラボノイドが痛風による関節炎の新しい治療薬となりうる可能性があると述べています。
フラボノイドの効果は多岐に渡りますが、抗酸化作用が有効な効果の一つであるとすれば水素吸入も痛風症状の改善をサポートできる可能性があると考えられます。
当然、従来の薬物療法が治療の主体となることに変わりはありませんが、水素吸入が治療の補助的な役割を担う日が来ることを期待します。
【私はこう考える】水素吸入と痛風
痛風は激烈な痛みを引き起こす病気であり、突然発症するため日常生活に支障を来す可能性があります。日本では1年間で約110万人が痛風を発症しており、痛風の予備軍とも言える高尿酸血症の発症者は約500万人にのぼると推計されています3)。
健康診断などでも尿酸値が異常値となる人は多く、とくに男性は発症しやすいので注意が必要です。
今回ご紹介した2つの総説論文から、水素吸入には痛風の予防や治療をサポートする効果が期待できる可能性が示唆されました。これまで水素吸入の直接的な効果を検証する研究は行われていませんが、抗酸化物質が予防や治療に役立つ可能性があるという研究結果は非常に重要と考えます。
実際の効果を検証するには、抗酸化作用がどのようなメカニズムで痛風の予防や改善に寄与するか解明し、さらにはヒトを対象とした大規模な臨床研究が必要となります。道のりはまだ長いと思いますが、水素吸入が痛風をはじめより多くの病気の予防や治療に役立つことを期待しましょう。
参考文献
- Kakutani-Hatayama, M., Kadoya, M., Okazaki, H., Kurajoh, M., Shoji, T., Koyama, H., Tsutsumi, Z., Moriwaki, Y., Namba, M., & Yamamoto, T. (2015). Nonpharmacological Management of Gout and Hyperuricemia: Hints for Better Lifestyle. American journal of lifestyle medicine, 11(4), 321–329. https://doi.org/10.1177/1559827615601973
- Liu, F., Bai, Y., Wan, Y., He, J., Li, Q., Xie, Y., & Guo, P. (2024). Mechanism of flavonoids in the treatment of gouty arthritis (Review). Molecular medicine reports, 30(2), 132. https://doi.org/10.3892/mmr.2024.13256
- 痛風(高尿酸血症)|一般社団法人愛知県薬剤師会