《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
舌がんは口腔がんの中で最も発生頻度が高く、早期発見が難しいことから予後が悪化しやすい疾患です。
症状が出にくく、口内炎との区別も難しいため、注意が必要です。
そんな舌がんに対し、水素吸入療法が予防や治療に役立つ可能性が最新の研究で示唆されています。
本記事では、舌がんの特徴や治療法、そして水素吸入療法との関係性について詳しく解説します。
舌がんってどんな病気?
舌がんとは、舌に発生するがんのことです。
口の中にできるがんの約60%は舌がんであるとされています1)。
舌は味覚を感じ取り、咀嚼や発声にも関わる器官であるため、舌がんを発症すると多くの機能が失われる可能性があります。
まずは舌がんの特徴について詳しく見てみましょう。
舌がんの原因
舌がんの明確な発症メカニズムは解明されておらず、原因不明なケースも少なくありません。
しかし、以下のような要因があると舌がんの発症リスクが高まると考えられています。
- 喫煙習慣
- 過度な飲酒
- 虫歯や入れ歯などによる舌への物理的な刺激
- 不衛生な口腔環境
舌がんの症状
舌がんを発症すると、舌にしこりができたり、舌の粘膜の一部にただれが生じたりします。
舌の両脇の部分に発症することが多く、鏡などで確認することも可能です。
しかし、これらは痛みや出血を伴うことがありますが、自覚症状がないケースも少なくありません。
進行した場合
一方で、舌がんは進行すると舌が動かしにくくなり、しびれや口臭などの症状を引き起こします。
また、舌がんは周囲のリンパ節に転移しやすいのも特徴です。
リンパ節転移によって首やあごなどにしこりを触れるようになります。
舌がんの治療
舌がんの治療方法は、がんの種類、進行度、全身の状態によって異なります。
一般的に、手術ができる進行度や全身状態であればがんを切除する手術を行います。
しかし、舌は味覚、咀嚼、発声、嚥下など生きていくために必要な機能を担う器官です。
手術によって舌の大部分を切除した場合には体の別の部位から皮下組織や筋肉などを切除して舌を再建する治療も必要となります。
一方、がんが大きく切除できない場合、転移がある場合などは手術をせずに抗がん剤治療や放射線治療を行います。
舌がんは治りにくい?
舌がんは早期の段階で発見できれば、5年生存率は90%ほどであり、比較的予後はよいと考えられます。
一方、転移があるような進行した場合の5年生存率は50%程度です。
一年間で舌がんと新たに診断されるのは約5,000人であり、命を落とすケースもあるため注意が必要です2)。
水素吸入療法は舌がんの治療に役立つ?
舌がんには、上述したように進行すると命を落とすこともあります。
そのため、新たな予防や治療方法を見出すための研究が行われています。
これまで、水素吸入療法が舌がんの予防や治療に役立つか直接的に研究した結果は報告されていません。
しかし、舌がんと水素との関係を探る研究結果は報告されています。
どのような内容か詳しく見てみましょう。
水素ガスが舌がんを予防する可能性
2020年に、水素ガスが舌がんを予防する可能性を示唆する研究結果が報告されました3)。
この研究では、人の舌がん細胞と正常な舌の細胞を、水素ガスを溶かした培地で育て細胞増殖の違いを比較検討しました。
その結果、舌がんの細胞は正常な舌の細胞に比べて優位に増殖が抑えられたことが明らかになっています。
水素吸入療法が舌がんを予防する可能性
今回の研究結果から、水素ガスは舌がんの増殖を抑える効果があることが示唆されました。
つまり、水素ガスは舌がん細胞の増殖を強力に抑えることで、がん細胞が発生しても死滅させてがんの発生を予防できる可能性があると考えられます。
まだ細胞を使用した研究結果であるため、水素吸入によって取り込んだ水素が舌がんに同様の働きをするか定かではありません。
しかし、予防効果は期待できるでしょう。今後の更なる研究の進展が望まれます。
水素水が舌がんの進行を抑える?
2008年に、水素水(水素ガスが溶けた水)が舌がんの進行を抑える可能性を示唆する研究結果が報告されています4)。
この研究では、人の舌がんの細胞を水素水に入れて細胞内の活性酸素量やがん細胞の状態を調べました。
結果として、活性酸素の発生とがんの広がりを抑えられたことが明らかになっています。
水素吸入療法が舌がんの治療に役立つ可能性
今回の研究から、水素水には舌がんの進行を抑える働きを持つ可能性が示唆されました。
水素吸入は水素水を飲むよりも効率的に多くの水素を取り入れることが可能です。
そのため、水素吸入療法も舌がんの進行を抑えて治療に役立つ可能性は期待できるでしょう。
まだ細胞を使用した研究であるため確実に効果があると断言はできませんが、今後の更なる解明に期待します。
【私はこう考える】水素吸入と舌がん
舌がんは早期段階で発見できた場合は治りやすいですが、進行した状態で発見された場合の予後は決して高くありません。
自覚症状が出にくい場合もあれば、粘膜のただれや痛みは口内炎との区別が難しい場合もあるため注意が必要です。
今回ご紹介した舌がんに関する研究結果から、水素吸入療法が予防や治療に役立つ可能性を持つことが示唆されました。
まだ確実な効果を言い切れる段階ではありませんが、今後に期待できるでしょう。
水素吸入療法は家庭で行うこともでき、美容や健康に良い効果もたくさんあります。
舌がんの予防や治療だけでなく、健康を維持するための補助的な手段として取り入れてみるのもよいでしょう。
参考文献
- 舌がんの基礎知識|舌がん -西新宿の地で がんに挑む- 東京医科大学病院
- 舌がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
- Kato, S., Saitoh, Y., & Miwa, N. (2020). Hydrogen-bubbled platinum-colloid suppresses human esophagus- or tongue-carcinoma cells with intracellular platinum-uptake and the diminished normal-cell mortality. Human cell, 33(4), 1294–1301. https://doi.org/10.1007/s13577-020-00402-1
- Saitoh, Y., Okayasu, H., Xiao, L., Harata, Y., & Miwa, N. (2008). Neutral pH hydrogen-enriched electrolyzed water achieves tumor-preferential clonal growth inhibition over normal cells and tumor invasion inhibition concurrently with intracellular oxidant repression. Oncology research, 17(6), 247–255. https://doi.org/10.3727/096504008786991620