《この記事の執筆者》
地方国立大学医学部卒業後、横浜市内の中核病院で初期臨床研修を終え、都内の大学病院、小児専門病院等の勤務を経て、現在は関東の基幹病院で麻酔科として勤務。
「水素水は腎臓に悪い」
このような情報がインターネット上で広く出回っています。
しかし、この考えは誤解や過剰解釈に基づくもので、正しいとは言えません。
本記事では、水素水が本当に腎臓に悪影響を与えるのか、その原因や真相について科学的根拠をもとに詳しく解説します。この記事を読むことで、水素水に対する正しい知識を得て、安心して活用するためのヒントが得られるので、ぜひ最後までご覧ください。
「水素水は腎臓に悪い」と言われる原因とは
水素水が腎臓に悪影響を及ぼすという考え方がインターネット上で広がっている原因はいくつかあります。
ここでは、それらの要因についてご紹介していこうと思います。
要因1:水素水の摂取を控えるべき人
腎機能が低下している人は、水素水の摂取を控えたほうが良いと言われています。
というのも、腎機能の低下によって水やミネラルをうまく体外に排出できないため、水分量やミネラルの摂取制限が医師より指示されている場合があるためです。
この、「腎機能が低下している人は水素水を飲まない方が良い」という情報が、拡大解釈されて、水素水が腎臓に悪いという情報が出回ってしまっていると考えられます。
要因2:過剰摂取による腎臓への負担
水素水が腎臓に悪いとされる要因の2つ目として、水分の過剰摂取による腎臓への負担が挙げられます。
水素水に限らずですが、水分の過剰摂取は腎臓への負担となるのは間違いないです。
腎機能が低下している場合は、通常通りの飲水(1〜1.5L/日)は問題ありませんが、2L/日を超える水分摂取で腎機能低下のリスクが上昇したとの報告もあります。1)
腎機能が正常な場合には、基本的には腎臓の水分処理能力(およそ 1L / 時)を超えて飲む、1日に12Lほど飲むなどしない限り問題ありません。なので、よほどのことがない限り、水素水の過剰摂取による悪影響はないと考えてよいでしょう。
ただ、この過剰摂取による腎臓への負担が「水素水は腎臓に悪い』という考えに変換され、広まっているのも事実と言えます。
最新の研究結果から見る水素水の腎臓への影響
では、実際に水素水が腎臓に悪いのかどうかについて、科学的知見から考えてみたいと思います。
結論、水素水が腎臓に悪いということはありません。
もちろん、腎機能が低下している場合や過剰摂取による腎臓への負担などは考慮すべき点ですが、健康的な人が適切な量を摂取する分には問題ないと考えられます。
「水素水が腎臓に悪い」が正しくないとする根拠は主に以下の2つです。
- 水素水が腎臓に悪いと示す研究報告はない
- 水素水はむしろ腎臓に良い可能性
それぞれ解説していきます。
水素水が腎臓に悪くない根拠①:
水素水が腎臓に悪いと示す研究報告はない
これまでに水素水を用いた研究は数々なされてきています。
しかし、動物を対象としたもの、人を対象としたもののどちらの研究でも、腎臓に悪影響を及ぼしたとする報告はされていません。
つまり水素水が腎臓に悪影響を及ぼすと考えるのは、エビデンスのない主張だと言えるでしょう。
水素水が腎臓に悪くない根拠②:
水素水はむしろ腎臓に良い可能性
実は、これまでの研究報告を見る限り水素水は腎臓に悪影響というよりも、むしろ良い効果がある可能性が高いです。
というのも、水素水が腎臓に保護的に働くことが相次いで報告されているためです。
以下に一例を挙げてみます。
動物を対象とした実験
2013年のラットを対象とした実験では、高濃度水素水を自由に飲ませる群と通常の水を自由に飲ませる群とを比較されました。その結果、加齢に伴う腎機能障害が軽減され、組織学的にも変性が抑制されたことが報告されています。2)
また、2型糖尿病モデルラットに水素水を投与した実験では、高血糖の改善に加えて、腎臓の病理組織学的変性が改善したとの報告もあります。 3)
人を対象とした実験
また、ヒトを対象とした研究では、水素水を日常的に飲用している人とそうでない人のデータを比較した研究で同様の結果が報告されています。
水素水を日常的に飲用している健常者※1は、水素水を飲用していない健常者※2に比べ、腎機能の指標が有意に良好であった。4)
※1:1日500ml以上、週5日以上を6か月以上継続している30~59歳の64名
※2:年齢と性別をマッチさせた470名
もちろん、これらの研究結果を持って「水素水が腎臓に良い!」と有効性を示すことはまだ難しいです。しかし、良い結果をもたらす可能性が示唆されたのは間違いなく、悪影響よりもむしろ効果的である可能性を考えるのは自然かと思います。
水素水を取り入れる際の注意点
水素水は腎臓に悪いわけではなく、むしろ良い可能性があることは、ここまでの解説でおわかりいただけたかと思います。
しかし、水素水を取り入れる際にはいくつかの注意点があるため、それらについてここで解説します。それらを意識することで安心して水素水を活用できるようになります。
具体的には、以下の4つの点に注意しましょう。
- 適切な摂取量を守る
- 赤ちゃんへの使用は避ける
- 市販の水素水の品質に注意
- 持病がある方は医師に相談する
それぞれ解説していきます。
水素水を取り入れる際の注意点①:
適切な摂取量を守る
記事の冒頭でもお伝えしましたが、水分の過剰摂取は腎臓への負担になりえるため注意が必要です。
いくら水素水に腎臓の保護作用が期待されていたとしても、過剰摂取による悪影響は打ち消せないと考えられます。
なので、腎臓に負担をかけないよう、適切な量の水素水を飲むことが重要です。目安としては1日500ml〜1Lあたりを他の水分摂取とのバランスを見て調節するとよいでしょう。
水素水を取り入れる際の注意点②:
赤ちゃんへの使用は避ける
水素水を赤ちゃんの飲用水として使用することも避けておくようにしましょう。
赤ちゃんは生後1年くらいまでは腎機能が未発達なので、ミルクなどに使用しないように注意しておく必要があります。
水素水を取り入れる際の注意点③:
市販の水素水の品質に注意
市場には多種多様な水素水製品が存在しますが、中には水素濃度が低いものや、保存方法が適切でないものもあります。
実際、2016年の国民生活センターの調査によると、市販の水素水のうちいくつかで水素が含まれていない、または表示している水素濃度よりも低かったということが報告されています。
なので、水素水を取り入れる際は、信頼できるブランドや製品を選ぶことが大切です。
水素水を取り入れる際の注意点④:
持病がある方は医師に相談する
持病がある方(特に腎臓に疾患がある方)は、水素水を取り入れる前に必ず医師に相談してください。
医師の指導のもと、適切な摂取量や頻度を決めることが大切になります。
以上、4つの注意点を守ることで、水素水を安心して取り入れることができるので、水素水をこれから取り入れてみようという方は、ぜひ意識してみてください。
まとめ:水素水は適切に活用すれば腎臓には悪くない
今回の記事では、「水素水は腎臓に悪い」という疑念に対して、科学的な根拠をもとに解説しました。現時点では、水素水が腎臓に悪影響を及ぼすという証拠はなく、むしろ保護的な効果が示唆されています。
今回ご紹介した水素水を取り入れる際の注意点を守りながら、水素水をうまく生活に取り入れ、うまく活用するようにしましょう。
参考文献
- https://jsn.or.jp/medic/guideline/pdf/guide/viewer.html?file=001-294.pdf
- Zhu, WJ., Nakayama, M., Mori, T. et al. Amelioration of cardio-renal injury with aging in dahl salt-sensitive rats by H2-enriched electrolyzed water. Med Gas Res 3, 26 (2013).
- Ming, Y., Ma, Q. H., Han, X. L., & Li, H. Y. (2020). Molecular hydrogen improves type 2 diabetes through inhibiting oxidative stress. Experimental and therapeutic medicine, 20(1), 359–366.
- Mizuno, K.; Watanabe, K.; Yamano, E.; Ebisu, K.; Tajima, K.; Nojima, J.; Ohsaki, Y.; Kabayama, S.; Watanabe, Y. Antioxidant effects of continuous intake of electrolyzed hydrogen water in healthy adults. Heliyon 2022, 8, e11853.